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ギアの種類や産業別活用事例を
わかりやすく紹介
公開日:2024.11.19
ギア(歯車)は、動力伝達、速度変換、方向変換などの用途で用いられる重要な部品です。しかし、ギアと一口に言っても、かさ歯車やひら歯車などさまざまな種類があります。ギア加工の技術も多種多様であるため、本記事ではギアの種類とギア加工の手法について解説します。各産業分野での具体的な応用例も紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。
ギア加工とは
ギア加工(歯車加工)とは、機械の動力伝達に不可欠な部品であるギア(歯車)の加工技術を指します。主に金属を素材として、切削や研削などの方法で歯車の形状を成形します。ギアの精度は機械の性能や寿命に直接影響するため、ギア加工では高い精度が求められるのが特徴です。
また、近年は電気自動車や自動化ロボット需要の高まりなどを背景に、ギアの小型化や小ロット化も進んでいます。同時にギア加工の技術発展も目覚ましく、CNC(コンピュータ数値制御)技術による複雑で精密なギアの加工が可能になっています。
ギアの種類
ギアには、特定の用途や動力伝達の要件によってさまざまな種類があります。ここでは、代表的なギアの種類をご紹介します。
ベベルギア(かさ歯車)
ベベルギア(かさ歯車)は、円錐形の表面に歯が刻まれたギアです。文字通り傘のような形状をしており、ベベル(Bevel)とは英語で「斜面」を意味します。
軸の方向を90度変えて動力を伝達できるのが最大の特徴で、これにより機械設計の自由度が大きく向上します。また、異なる回転速度比を実現できる点も重要な特性です。ひら歯車と比較して比較的静かな運転が可能ですが、その一方で加工工程はより複雑になります。歯の形状によって、「すぐばかさ歯車」と「まがりばかさ歯車」に分類されることもあります。
すぐばかさ歯車:ストレートベベルギアとも呼ばれ、歯筋が直線なのが特徴です。
まがりばかさ歯車:スパイラルベベルギアとも呼ばれ、歯筋がらせんのように曲線になっているのが特徴です。
ヘリカルギア(はすば歯車)
ヘリカルギア(はすば歯車)は、歯が軸に対して斜めに切られた円筒形のギアです。斜めの歯があることで、より滑らかに歯車どうしが噛み合うようになっています。歯が徐々に噛み合うため、騒音と振動が軽減され、高速回転時でも静かな運転が可能です。また、歯の接触面積が大きいため、より大きな荷重を伝達できる点も特徴といえるでしょう。
スパーギア(ひら歯車)
スパーギア(ひら歯車)は、最も一般的なギアの形状のひとつです。円筒形の外周に沿って、軸に対して平行に歯が刻まれています。構造がシンプルで製作が比較的容易なため、幅広い用途に用いられるギアの形状です。自動車のトランスミッション、工作機械、家電製品など、さまざまな機械で利用されています。一方で、同時に噛み合う歯の数が少ないため、高速回転時には騒音を発生しやすいという欠点もあります。
ラック・ピニオンギア
ラックとは、直線歯形の歯車のことです。ピニオン(小歯車)とともに用いられることから、「ラック・ピニオンギア」と呼ばれるのが一般的です。
円形のピニオンが回転すると、ラックは直線的に動き、逆にラックを動かすとピニオンが回転します。回転運動と直線運動を相互に変換できるのが特徴です。ラックには半径がない(半径が無限大)ため、歯車の長さに制約がありません。そのため、ロングストロークが可能であり、高速運動や大きな荷重に対しても対応できます。
ウォームホイール・ウォームギア
ウォームギアは、らせん状の歯をもつウォーム(虫歯車)と、それに噛み合うウォームホイールから構成されるギア機構です。ウォームの回転軸とウォームホイールの回転軸が直交するように配置され、大きな減速比が求められる場合に用いられます。一方向のみの動力伝達が可能なのも特徴です。
ウォームホイール・ウォームギアは仕組み上、入力軸のウォームギアを停止時に、出力軸のウォームホイールを回そうとしてもウォームギアは回りません。逆駆動を防止(セルフロック)できる特徴をもつことから、エレベーターやウインチなどの持ち上げ機構などに適しています。
インターナルギア(内歯歯車)
インターナルギア(内歯歯車)は、円筒または円盤の内側に歯をもつギアです。通常の外歯車と噛み合わせて使用され、内歯車と外歯車を組み合わせることで、同じ方向に回転する歯車機構をつくれます。また、装置全体もコンパクトで省スペースなのも特徴。一方で、外側から加工できないため、高い加工技術を要します。ただ、近年は加工精度の高いギアスカイビング加工機の導入も進んでおり、内歯車のデメリットは解消されつつあります。
ボールネジ
ボールネジは、回転運動を直線運動に変換する機械部品です。構造は、ねじ軸とナット、そしてその間に配置されたボールから成ります。ねじ軸が回転すると、ナット内部のボールが溝に沿って転がりながら移動し、この動きによって回転運動が直線運動に変換されます。ボールネジには、循環方式やねじ軸の形状、予圧方式によってさまざまな種類に分けられます。
ギアの歯形
ギアの歯の形は「歯形」と呼ばれ、さらにそれをかたちづくっているのが「歯形曲線」です。歯形曲線は大きくインボリュート曲線とサイクロイド曲線に二分され、ここではその違いを見ていきましょう。
インボリュート曲線
インボリュート曲線とは、円盤に巻き付けた糸を巻き戻す際に糸の端点が描く軌跡のことです。インボリュート曲線は、最も一般的に使用されている歯形曲線であり、加工が容易で量産に適しています。また、中心距離が多少ずれても噛み合いやすいという利点をもちます。一般的な機械や自動車のトランスミッション、工作機械などで広く使用されています。
サイクロイド曲線
サイクロイド曲線とは、円が直線上を転がるときに円周上の1点が描く軌跡のことです。サイクロイド曲線をもつ歯車は、歯車どうしの接触面積が大きいため摩耗が少なく、衝撃に強いという特徴があります。また、干渉しないため回転抵抗が小さく、静かな運転が可能なのもメリットです。そのような特徴から、負荷の少ない時計や精密機器などで使用されます。
産業別!ギア加工の一例を紹介
最後に、ギアやギア加工の活用事例を見ていきましょう。
自動車産業におけるギア加工
自動車産業では、トランスミッションやエンジンなど、車の複数の重要箇所でギアが使用されています。
近年は電気自動車のニーズが高まり、自動車産業向けギアのニーズにも変化が起きています。EV先進地域のヨーロッパや中国では新車販売におけるEVシェアは年々増加しており、2023年のEVシェアはヨーロッパ(欧州自動車工業会)で約14.6%、中国(中国自動車工業協会)では約22.2%です。
電気自動車はガソリン車と比べて、走行音が静かです。ギアノイズが大きいと走行の快適性に影響するため、ギア加工でも静音性の低いギアが求められるようになっています。また、静音性にくわえて、小型化・複雑化も進んでいます。環境負荷の観点からはギアの効率も重要であり、エネルギー効率をいかに上げるかという点もギア加工において重視されています。
航空分野でのギア加工
航空機やヘリコプターではギアボックスが重要な役割を果たしており、ギアボックスの市場規模も将来的に成長していくことが予想されています。その背景には、軽量航空機部品や軍用航空機・ヘリコプターの需要の増加などがあります。
自動車産業同様に、軽量化・高効率化が求められており、ギア加工の新技術も登場しています。そのひとつが「球状歯車」です。球状歯車では、鞍状歯車と球状歯車を組み合わせ、XYZの3方向に回転させることが可能です。山形大学の准教授・多田隈理一郎(ただくまりいちろう)氏によって開発されたこの球状歯車は、ドローンの姿勢制御やロボットアームなどへの応用が進められています。
ロボット業界におけるギア加工
ロボットも日進月歩な技術分野です。少子高齢化、人手不足が進む日本において、ロボット活用は世界的な競争力を維持するためにも不可欠であり、そのための技術開発が日々行われています。
産業用ロボットや協働ロボットは多種多様な動きをする必要があるため、そのぶん歯車も複雑で高精度でなくてはなりません。一例としては「遊星歯車」が挙げられます。風力発電機や電動ドライバーにも用いられる歯車機構で、複数の歯車が自転しつつ公転するのが特徴です。遊星歯車はより複雑な動きが可能なため、ロボットアームの関節部や自動車のエンジンに使用されます。なお、前述の球状歯車もロボットアームへの活用が期待されています。
いろいろな産業で活用される
ギア加工
ギア加工の技術は、自動車、航空、ロボット、環境設備など多様な産業分野で重要な役割を果たしています。また、社会が高度化すると同時に、歯車も高効率化、軽量化、小型化しています。軽量化のために材質も金属以外に、樹脂歯車が活用されるシーンも少なくありません。
さらに、近年のNC技術の発展により、複雑な形状のワークも自動で加工できるようになっています。ギア加工に限らずモノづくり企業にとっては、市場で求められるニーズを的確にとらえ、それに合わせた設備投資・生産体制の構築に注力することが大切です。
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文:小林悠樹
1988年生まれ。一橋大学卒業後、食品メーカーへ入社。営業職を経験したのち、2017年にフリーライターへ転身。企業への取材記事、通信大手のオウンドメディアなどをはじめ、幅広いコンテンツを手がけています。
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編集:株式会社イージーゴー
WEBコンテンツ、紙媒体、動画等の企画制作を行う編集制作事務所です。ライターコミュニティ「ライター研究所」も運営しています。
https://eggo.jp/
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