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5軸加工機の性能をさらに上げる「バレル工具」とは?
導入の基準や効果
公開日:2024.12.03
5軸加工機の高い性能をさらに引き出す工具として、「バレル工具」があります。従来のエンドミルと比べて仕上げ加工にかかる時間を半分~3分の1程度に抑えられる可能性があることから、加工のスピードアップを図る企業が導入しています。
しかしバレル工具そのものが比較的新しい工具であることも手伝って、バレル工具について詳しく知らない方も多いものです。そこで今回は、バレル工具の開発企業であり、現在も多種多様な製品を展開しているエムーゲ・フランケンの日本法人代表・土屋様に、バレル工具の概要や導入時のポイントなどを伺いました。
エムーゲ・フランケン /
代表取締役 土屋吉弘 様
エムーゲ・フランケン日本法人代表。
製造業界に携わること約25年。長年の経験で培った知識を生かし、社長業を行いつつも、営業として顧客への提案・導入のサポートなども行っている。
バレル工具とは
バレル工具の先端の様子。樽状の形をしていることが分かる
バレル工具は、5軸加工機とともに使われる工具の1種です。先端が樽のような形をしていることからこうした名前が付けられました。エムーゲ・フランケンのドイツ本社が、オープン・マインド・テクノロジーズ・AGと共同で開発した工具で、現在は数社のメーカーが製造・販売をしています。
従来のエンドミルとの大きな違いはツールの形状です。通常のボールエンドミルは先端の球状のR切刃で加工しますが、バレル工具は外周に工具径Rよりはるかに大きなRの切刃を持つ特殊な形状となっています。この大きなRを利用して大きなピッチで加工することで、ボールエンドミルに比べて短時間での加工が可能となります。
バレル工具は比較的歴史の浅い工具で、エムーゲ・フランケンが開発・発売してから12年ほどしか経っていません。 そのため、製造業界の関係者でも使ったことがない、詳しく知らないというケースも多々あります。
バレル工具が得意とする加工と
導入の基準
バレル工具は、得手不得手が明確な工具です。導入後にその意義を感じるためには、まず自社でバレル工具を活用できる工程があるかを把握するところから始めると良いでしょう。土屋様に、バレル工具が適する工程や、導入のメリットを尋ねました。
ー バレル工具は、どのような企業が導入しているでしょうか。
土屋: 弊社エムーゲ・フランケンのクライアントの場合、航空機メーカー様や部品加工メーカー様に多く導入いただいています。どちらかと言えば、大企業様より中小企業様が多いですね。
ー バレル工具は、どういった加工で活用すると効果を感じやすいでしょうか。
土屋: 平面、またはゆるやかな曲面に仕上げ加工したい場合ですね。例えば自動車部品を作るための金型や、航空機の部品など面積の大きい部品の仕上げ加工時に便利です。ボールエンドミルを使って大きめの部品を作っている企業様であれば、導入の余地はあるでしょう。
反対に、小さな部品やパーツの製造が中心となっている企業様ですと、思うように効果が得られないこともあるかもしれません。
ー バレル工具を導入することで、どのようなメリットを享受できますか。
土屋: 仕上げのスピードが速くなりますね。使用している工具や加工の内容によっても異なりますが、ボールエンドミルを使っている企業様の場合、おおよそ現在の半分から3分の1程度の時間で加工が終えられるようになるでしょう。
また加工時間の短縮だけではなく、加工の質もより高くなるはずです。ですからボールエンドミルに代わる工具が、バレル工具だと思っていただくと良いと思います。
ー バレル工具を導入して、大きな成果が出た事例を教えてください。
土屋: 弊社の場合は多々ありますが、やはり航空機部品メーカー様や自動車メーカー様では加工時間が大幅に短縮されたと喜ばれています。過去には、6時間かかっていた仕上げ加工が、1.5時間でできるようになった企業様もありました。
バレル工具を使う工程は全体の2~3割と、それほど大部分ではありません。しかし言い換えれば全体の2~3割を占める工程にかかる時間が従来より大幅に短縮できます。これは、かなり大きな変化をもたらすと言えます。
今の時代、スピードの速さは何物にも代えがたい魅力になります。人件費の高騰や人手不足に悩まされている企業様も多いでしょうから、導入の意義は大いに感じていただけるはずです。
ー 5軸加工機とバレル工具の双方を導入している企業の割合はどのくらいでしょうか。
土屋: 実はそれほど多くなく、弊社の場合は5軸加工機を保有されている企業様の1~2割に留まっています。徐々に増えてきてはいますが、まだまだ少ないですね。
ー 意外と少ないのですね。なぜそのような割合になっているのでしょうか?
土屋: 理由はいくつか考えられますが、1つは導入ハードルが高いことでしょう。そもそもバレル工具が本領を発揮するのは、仕上げ加工に関する部分が大半です。それ以外の加工では活用しきれないこともあります。
また、バレル工具に対応したCAD/CAM(製品の設計から加工プログラムの作成までを一貫して行えるソフトウェア)も準備する必要があります。もしそうしたCAD/CAMを保有していない企業様の場合は相応の初期費用がかかりますので、その点がネックになっているのでしょう。
ー 特定の工程に特化した工具である分、活用できる工程を見極めたうえでの導入が良さそうですね。
土屋:そうですね。ただ、興味を持っている企業様は増えてきている印象です。5軸加工機への関心も高まっているため、今後バレル工具を導入される企業様は確実に増えていくと考えています。
企業が抱えやすいバレル工具導入の懸念点と対策
前述のとおり、バレル工具自体に興味があっても、導入前後に懸念点があることから導入を足踏みする企業も存在します。特に多くの企業が抱きやすい懸念点や課題と、その対策を土屋様に解説いただきました。
ー 先ほどのお話とも関連しますが、バレル工具を導入したいと考えている企業の方は、どういった点を懸念されることが多いでしょうか。
土屋: バレル工具自体ではなく、他の要素を懸念される企業様が多いですね。特に多いのは、CAD/CAMの選定・導入でしょうか。
バレル工具に対応したCAD/CAMは、それほど多くありません。最近でこそ増えてきてはいますが、改めて購入が必要になるケースもあります。もし自社で保有しているCAD/CAMを継続して使いたいと思っている場合、バレル工具に対応できるのかはよく確認する必要があるでしょう。
ー では、バレル工具を導入してからの課題としてはどういったものが挙げられますか。
土屋: よく聞かれるのが、「オペレーターがバレル工具をうまく使いこなせない」というものです。
バレル工具を使いこなすためには、CAD/CAMに関する知識や熟練度が求められます。またバレル工具の場合、対象となる加工形状に対してどのようなツールと加工パスでアプローチをすれば良いのか、ある程度の経験がないとイメージを描きにくい傾向があると思います。
特に加工のパス出しが社内ではスムーズにできず、困っている企業様も多数いらっしゃいます。企業様単独で対処しきれず、弊社にサポートを依頼されることも多いですね。
ー そうした課題に対処するために、企業側としてできることはありますか。
土屋: やはり、まずは自社でバレル工具が導入できそうな工程があるかをよく確認することですね。また、オペレーターの適任者がいるかをよく確認していただくと良いと思います。5軸加工機を使った加工の経験者がいるかどうかが、1つの判断基準になるのではないでしょうか。
ー 社内にそういう人材がいない場合は、導入は見送った方が良いでしょうか。
土屋: いえ、決してそういったことはありません。もちろんそうした人材がいる企業様ばかりではないと思います。弊社もそうですし、CAMサプライヤー様でオペレーターの方へのトレーニングを実施しているところもありますので、そういったものを利用する想定で導入を検討しても良いでしょう。
バレル工具メーカーを選ぶ
ポイント
バレル工具は、国内外でいくつかのメーカーが製造・販売しています。土屋様はそういった中から自社に合う製品を製造しているメーカーを選ぶ際にも、ポイントがあるといいます。
ー バレル工具を選ぶ際、何を基準とすれば良いですか。
土屋: 一番確実なのは、テスト加工をして自社の納得のいく精度のものができるかを判断することですね。ただ、それは導入前には判断しづらい部分でもあるので、メーカー選びを重視した方が良いのではないでしょうか。
具体的には、バレル工具メーカーのサポート体制をよく見ておくと安心です。バレル工具は歴史が浅い分、製造業界でも知見がそれほど蓄えられていない工具だと言えます。有事の際に備えて、バレル工具に関する知識や経験が豊富なメーカーを推奨します。
ー 開発企業であるという理由から、バレル工具を導入する際に貴社の製品を選ぶ企業も多いと推測します。クライアントが貴社を選んだ理由として多いものは何ですか。
土屋: 大きく2つですね。まず、おっしゃるように弊社がバレル工具を作った最初のメーカーであること。次に、ツールのラインナップが幅広いことです。
バレル工具は、弊社エムーゲ・フランケンが、オープン・マインド・テクノロジーズ・AGと共同開発した工具です。開発企業である分、工具に対する考え方やコンセプトなどはどのメーカーよりも深く理解できている自信がありますし、最も長くバレル工具に携わってきています。その点を評価していただいていることが多いようですね。
ー ラインナップの豊富さも評価されているとのことですが、貴社の製品バリエーションはどの程度なのでしょうか。
土屋: 弊社の場合、「バレル」「オーバル-VR」「オーバル-ER」「テーパー」「レンズ」「インサート」の6つのカテゴリに分かれており、さらにその中に多数の工具があります。「こんなものまであるの?」と驚かれることもありますよ。
ー 貴社のバレル工具とブラザーのSPEEDIOを併用すると、どういった効果が見込めそうでしょうか。
土屋: 少ないコストで、より大きな成果を感じていただけるのではないでしょうか。
弊社エムーゲ・フランケンは本社がドイツにあるのですが、ドイツの工作機械は大型のものが目立ちます。その分、初期費用も高くなる傾向にあります。それと比較すると、ブラザー工業様のSPEEDIOは、コンパクトな30番のマシンでありながら高い剛性を備えている点が魅力的です。性能から考えても、投資しやすい金額に設定されていると感じます。
ですからブラザー工業様のSPEEDIOと弊社のバレル工具を導入していただくことで、同じだけの性能をもつ機械を導入する場合よりコストを抑えながら、業務効率を大きく向上させられるのではないでしょうか。
バレル工具を導入してさらなる
スピードアップと差別化を
バレル工具は工具の中では比較的歴史が浅く、導入している企業数もまだそれほど多くはありません。しかしだからこそ、バレル工具を導入することで競合他社との差も広げやすくなり、競争優位性も築きやすくなるはずです。
バレル工具のメーカーは数社ありますが、エムーゲ・フランケンは開発企業ならではの知識や経験、ラインナップの豊富さが強みです。初めてバレル工具を導入する場合でも、安心して活用いただけるのではないでしょうか。
5軸加工機やバレル工具の導入を考えている企業の皆様は、ぜひ「SPEEDIO」とエムーゲ・フランケンが展開するバレル工具をご検討ください。
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文:シモカワヒロコ
1994年生まれ。月刊誌の編集者を経て、現在はWebや新聞、雑誌、書籍など幅広い媒体で活動中のライター・編集者。ザ・文系ながら、昔からメカが好き。
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編集:株式会社イージーゴー
WEBコンテンツ、紙媒体、動画等の企画制作を行う編集制作事務所です。ライターコミュニティ「ライター研究所」も運営しています。
https://eggo.jp/
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