Interview045

Rei Yanase

Rei Yanase

遅いスタートだったからこそ、
自由な発想で刺しゅうを楽しめる。

June 20, 2023

刺しゅうの魅力や惹かれた理由を聞く連載インタビュー。刺しゅう・アクセサリー作家として、主にファッション小物を手がけているyanase reiさん。実は刺しゅうを始めたのは遅かったという彼女が、刺しゅうを仕事にしようと思った経緯や、制作の流れについてお話を伺いました。


ーーyanaseさんが今の活動を始めるようになった経緯を教えてください。

イラストレーターになりたく、今はもう閉校してしまったセツ・モードセミナーに通うために上京してきました。長沢節先生に教わるために集まってきた学生が多くて、私も先生の描くファッション画や水彩画、世界観に憧れていたんです。そこで絵を学び卒業した後は、アクセサリーの会社で働き始めました。並行しながらセツ・モードセミナーで知り合った方の紹介で、ネックレスなどの舞台用の小物制作もやっていました。会社を辞めフリーになってからは、自分で染めた生地やパーツなどを使ってアクセサリーを作っていたのですが、余ったパーツを使ってポーチを作ってみたら縫い付けるのが楽しくて。このポーチ(写真上から1枚目)が最初に刺しゅうを始めようと思ったきっかけの作品で、今は刺しゅう道具を持ち歩く際に使っています。

ーー刺しゅうのどのあたりに魅力を感じたのでしょうか。

それまで絵を習ったり、アクセサリーや舞台の仕事など色々やってきましたが、表現の手段のひとつとして、刺しゅうという選択肢が面白いと感じたんです。刺しゅうをしているときは他の仕事のことなんかも忘れて、作業に集中できるというのも気持ちよかったですね。40歳手前ぐらいのときに刺しゅうを始めスタートも遅かったので、元々は仕事にするつもりはなかったのですが、続けているうちにみんなに見てもらいたいと思うようになり刺しゅうに方向転換しました。最初の方はアクセサリー作家として声をかけてもらったイベントに参加したときや、アクセサリーメインで開催した個展のときに、端っこに刺しゅうの作品を少し置いたりしていました。少しずつ刺しゅう作品が増えていき、現在は刺しゅうメインの個展だけでなく友人と一緒に展示をしたり、イベント参加などをしつつ、時々、舞台用の靴に刺しゅうをしています。

ーー作っている作品にファッション関連のものが多いのは、今までの経験を活かしてなんですね。

がま口やポシェット、ターバンなど、日常生活で使えるものは評判がいいですね(写真上から2枚目)。仕立ても大体自分でやっているのですが、バッグや洋服は知り合いとコラボすることもあります。販売している作品は、完全に「自分が好きなもの」という基準で作っていますが、たまにお客さんからの要望を取り入れるパターンもありますね。以前「黒の同系色の刺しゅうはないの?」と聞かれて、それがきっかけで黒系でまとめた刺しゅうを作りました(写真上から3枚目)。

こちらは(写真上から2枚目の右上)舞台用の靴を手掛けているMishoeさんと作った靴になります。写真のは展示販売用に制作したものです。いただいた要望と自分ができることを掛け合わせていく感じですね。

ーー花をモチーフにした作品が多いですが、モチーフはどのように決めているのでしょうか。

自分なりの個性を出しやすくアレンジが利くという点が面白くて、花をモチーフにすることが多いです。実物の花をそのまま再現してもいいのですが、刺しゅう自体も独学で本などを見ながら習得したので、自己流というのがしっくりきていて。実は家で華道教室をやっていて、幼い頃から常に周りに花があったんです。花は昔から好きだったけれど、母親のように表現として花に携わるイメージが当時はなかったので、自分でもびっくりしていますね。

ーー作品を作るうえで何か参考にしていたり、影響を受けているものはありますか。

舞台の仕事をしていることもあり、舞台を観るのが好きです。パンフレットに時々載っているデザイン画などを眺めているのも楽しいですね。あとは画集を見るのも好きです。お気に入りはシャガールの画集です(写真上から4枚目)。ちょっと抜けた感じがする、緩い絵のタッチが可愛くて。そのまま参考にするということはないのですが、「もし自分だったらどうするかな?」と色使いなどを想像したりしています。

刺しゅうをするときも、色の組み合わせを考えるのが楽しいですね。同系色でまとめることもありますし、あえて違う色を入れてみたり、生地との組み合わせを考えてみたり。自分で刺しゅうしながら、「どんな形になるのか見てみたい」という気持ちでやっています。刺しゅう糸は特にメーカーを決めずに、色ありきでそのとき使いたい糸を選んでいます。

ーーカラフルで華やかだったり、アンティークのような雰囲気があったり、色味によってイメージが大分変わりますもんね。

同系色のものは最初からある程度糸の色を決めていますが、カラフルにするときはやりながら決めていきます。糸の色以外も、刺しながら考えていることが多いですね。アタリをつけるために下書きすることもありますが、ほとんどの場合は特に何も書かずそのまま刺していきます(写真上から5、6枚目)。

ーーyanaseさんの刺しゅうはギュッと中身が詰まっている印象ですが、最初からこのようなスタイルだったのでしょうか。

本当はシンプルにひとつのモチーフでバシッと魅せられたらいいのですが、刺しゅうを始めた当初は基礎がなかったので自分の力量が足りないと思い、色々と詰め込んでやってみたんです。そこから始めたら、途中で止められなくなってしまって(笑)。ありがたいことに私のこういう刺しゅうを面白いと言ってくれる方もいますし、今はこのスタイルをすごい楽しんでいます。密な分、ひとつの作品を作るのにもかなり時間がかかる方だとは思うのですが、刺しゅうしている最中に嫌になるということはないですね。それどころか、刺しゅうをしていて完成が近づいてくると、少し寂しい気持ちになってきます。

ーー刺しゅう自体を純粋に楽しんでいらっしゃるんですね。今後挑戦してみたいことはありますか。

海外で展示販売をしてみたいです。昨年、様々なジャンルの日本人作家さんの作品を集めニューヨークで販売する合同イベントに参加したのですが、主催の方が送ってくれたレポートが興味深くて。ニューヨークなので世界中からお客さんが来ていて、外国人の方の反応が本当に面白かったんです。私はあまり海外に行ったことがないので、これから探してみたいです。

あとは、刺しゅうに限らず何人かで、手芸会のようなものをやってみたいです。刺しゅうって、孤独な作業なので、手芸を通じて時間を共有できるような場があれば、何かしらの刺激をお互いに受けられると思うんです。「教室」とは違い、制作とお喋り、のような。いつかそういった会を開いてみたいです。

text :藤枝梢
photo : 中矢昌行

Rei Yanase

セツ・モードセミナー卒業後、アクセサリー会社で働きながら舞台用アクセサリーの制作に携わる。アクセサリー作家として独立してから自身の創作活動を始め、個展やグループ展を行うほか、イベントなどにも出展。著書に『刺繍の庭 刺繍布のように刺す花々』(グラフィック社)。

https://www.instagram.com/reiyanase/?hl=ja