Story 003
atsumi with brother
少しのアレンジで、
ミシン刺しゅうがもっと楽しくなる。
November 24, 2020
刺しゅうデータをダウンロードできるサービス「ハートステッチズ」に、刺しゅう作家atsumiさんがデザインした新しい模様が加わりました。マリア様をイメージし、天使が舞うかわいらしい図案には、どのような思いが込められているのでしょうか。また、刺しゅうデータ作成ソフト「刺しゅうPRO」を使って刺しゅうデザインを作成し縫うまでの過程と、知っていると創作の幅が広がるポイントを、atsumiさんとブラザー工業の古賀知代さん、柴田一樹さんに伺いました。
――今回の図案はマリア様をイメージされているとのことですが、どのような思いから生まれたのでしょうか?
atsumi:長引くコロナ禍で、家族や友人と気軽に会う機会が減りました。いつも以上に電話をしたり、何かを送ったりする機会が増えたのではないかと思っています。マリア様の図案にしたのは、「会えなくても健康や幸せを祈っています」という気持ちを込めました。でも、決して重たい感じではないんです。受け取った人が「かわいい!」って、ふと笑顔になれるようなものを作りたいと思いました。
――atsumiさんは普段、手刺しゅうだけでなく刺しゅうデータを作ってミシン刺しゅうをされているとのことですが、刺しゅうデータはどのような流れで作っているのですか? また、作成する上で「ここはポイント!」などということがありましたら、古賀さん、柴田さんもアドバイスをお願いします。
atsumi:私の場合、まずは手描きでスケッチをします(写真上から3枚目)。それをパソコンに取り込み、イラストレーターというグラフィックソフトでトレースします。トレースしたものは刺しゅうすることを想定し、面と線のデータを作成後SVGデータに書き出します。
古賀:この時の注意点として、書き出す際にCSSプロパティを『プレゼンテーション属性』にしてください。
atsumi:大事ですね。一度、CSSプロパティを別のものにしていたら、刺しゅうPROで開いたときに線として作ったはずのデータが壊れていたことがありました。
次に、先ほど書き出したデータを刺しゅうPROで開き、縫い方や色、縫う順番を編集します。刺しゅうPROだけでもオリジナルの図案は作成できるのですが、私は学生の頃からイラストレーターを使い慣れているので、刺しゅうPROでやりたいことを把握できたら、イラストレーターでできるところまでやってしまうほうが快適に作業できるような気がしています。
――イラストレーターで刺しゅうデザインを作成する人に、何かアドバイスはありますか?
atsumi:刺しゅうPROはオリジナルの図案を作成できるだけでなく調整もできるのですが、先ほども申し上げたように私はイラストレーターの方が慣れていることもあり、イラストレーター上である程度の縫い方の想定をしています。刺しゅうする際に、線で縫いたいのか、面で縫いたいのかを決めていき、それをデータに反映することで、刺しゅうPROでの調整が簡単になります。
はじめはどんなステッチが効果的なのかやってみないとわからなかったので、絵具で塗るような感覚で面と線に分けて考え、刺しゅうPROのソフト上で、よりイメージにあった縫い方を選ぶところからはじめました(写真上から4枚目)。
――イラストレーターで作成したデザインを、刺しゅうPROのソフトに取り込んでからのポイントを教えてください。
atsumi:刺しゅうPROに取り込んで、すぐにミシンで刺しゅうを施しても問題はないのですが、「縮み補正」や「糸密度」などの調整をすることで(写真上から5枚目)、さらにクオリティの高いデータを作ることができます。
例えば、隣り合う面と面のすき間を埋めたい場合は、縮み補正機能を調節します。具体的には、初期の設定よりも数値を上げます。どのくらいあげるかは使う生地や図案によって異なるので、試し縫いを繰り返しながら感覚をつかんでいきました。
また、すき間が気になる場合は、糸密度の調整をします。慣れてきたら、仕上がりのイメージを想像しやすくなるので、失敗も少なくなります。私も最初のうちは毛並みが出ないとか帽子と頭が離れてしまったなど失敗はありましたが、何度も試しては縫いを繰り返すうちに、試し縫いも少ない回数で納得がいくデータが作れるようになってきました。
たくさん刺しゅうを作るときこそ、ミシン縫いの良さが発揮されます。遠く離れたご家族やご友人への贈りものなどに、今回の図案を役立ててもらえたら嬉しいです。贈る相手を思い浮かべて、色合いを選ぶのも楽しいですよ。少しだけ手刺しゅうを加えれば(写真上から7枚目)、オリジナル感がぐっと増します。
――最後に、古賀さんと柴田さんはatsumiさんのデータ作成の流れをご覧になって、どう思われましたか?
古賀:atsumiさんはイラストレーターを使い慣れているのと、普段手刺しゅうをされているので完成イメージもしやすかったのではないかと思います。熱心に研究されたことが、マリア様の刺しゅうの美しさに表れていると感じます。刺しゅうPROもバージョンアップして新しい機能もあるので、今後の制作に役立てていただけたら嬉しいです。
柴田:刺しゅうになることを想定してイラストを制作するというのは、どちらの知識もないとできないことなので感動しました。背景ぬいという機能は、イラストでは表現しにくい模様を簡単に設定できます。この機能は使われたことがないと思いますし、模様のバリエーションも多いので使われてみると楽しいと思いますよ。
atsumi:手刺しゅうでは気が遠くなってしまいますが、ミシンならではの新しい表現ができそうですね。写真から刺しゅうデータを作る機能なども気になっています。他にも使ったことのない新しい機能がたくさんあるようなので、使いこなせるように勉強したいと思います。
text:杉江さおり photo:junya
Designed by atsumi
atsumiさんがデザインした新たな刺しゅう模様のダウンロードは、「ハートステッチズ」からダウンロード可能です。
※会員登録後、有料での販売となります。
刺しゅうを知る、楽しむ、新しいきっかけを
刺しゅうはきっと、普段の生活に関わるもののなかにひとつはあって、一度は触れたことがある、とてもありふれたもの。しかし、時に記憶の奥深くに残ったり、ものに対する想い入れを強くしたりもする、ちょっと特別なものでもあります。
どうして刺しゅうに惹かれたの?
SeeSew projectは、刺しゅうの作品をつくったり、ライフスタイルに取り入れたりしているクリエイターの方々にそんなことを聞き、改めて刺しゅうがもつ魅力を探るために立ち上げたプロジェクトです。幼い頃にお母さんからもらったもの、お子さんに施してあげたもの、親しい人からプレゼントされたもの。あなたの身近にありませんか?SeeSew projectで話をうかがった方々は意外と、何気ないことを機に刺しゅうに魅了されているようです。