Interview048

Chika Mizusawa

Chika Mizusawa

女の子の秘められた空気感を、
立体刺しゅうと陶器で魅せる。

September 20, 2023

刺しゅうの魅力や惹かれた理由を聞く連載インタビュー。「幻覺レモン」という屋号で、立体刺しゅうと陶器を用いた作品を手がける水沢チカさん。異なる素材を組み合わせることになった経緯や、昔から惹かれていたという女の子のモチーフについてお話を伺いました。


ーー現在の活動を始めるようになった経緯を教えてください。

美術系の専門学校に通っていて油絵を専攻していましたが、卒業後は手芸店で働きつつマイペースに制作していました。そこで仲良くなった手芸好きの友人2人と「一緒に何かやろう」という話になったことが、「幻覺レモン」というユニットが誕生したきっかけです。1人は絵も描いていましたが、刺しゅうやぬいぐるみなど手芸全般をメインにやっていました。展示などあまり大きなことはやっていなかったものの、天井桟敷出身の映像作家・山田勇男さんと知り合う機会があり、小道具や衣装の刺しゅうなどを幻覺レモンで引き受けたこともあります。その後、地元に帰ってしまったりメンバーがバラバラになったことから、3人での活動は終わってしまったのですが、3年ほど前に私がインスタグラムを始め本格的に作家として活動をしようと決めたタイミングで、幻覺レモンの名前をもらい屋号にしました(写真上から1枚目)。

幻覺レモンというユニット名は、3人であみだくじをして私が書いたものに決まりました。思いついたことや響いたワードなどをメモしているアイデア帳があるのですが、それを見直したときに幻覺レモンの文字が残っていて。たしか、大正時代とかに販売されていた雑誌の名前だった気がします。

ーー水沢さんは、どこかで刺しゅうを勉強されたのでしょうか。

刺しゅう自体は小学生のときからやっていますが、完全に独学です。刺しゅうに限った話ではないのですが、私は飛び出しているものが好きみたいで(笑)。専門学校で油絵をやっていたときも全然しっくりこなくて、彫刻の授業とかの方が楽しかったんです。それもあり、刺しゅうも立体にした方が面白いんじゃないかと思い、立体刺しゅうを始めました。最初に立体刺しゅうを本格的に作ったのは、子どもの写真を使った作品です。部屋に写真などを飾るのが苦手なのですが、子どもが生まれたときにやっぱり何かしら飾りたくて、写真の周りに立体刺しゅうの花を絡ませたオブジェを作りました。

ーー実際に刺しゅうしている様子を見せてもらえますか。

糸は普通の刺しゅう糸を使っています。今はオブジェを飾るための小さい花をいっぱい作っているのですが、これぐらいのサイズのときはあまり下書きをしないことが多いです(写真上から2枚目)。最近はどんどん刺しゅうするスピードがあがってきていて、作業にかかる時間が更新されている感覚がありますね。こちらの手の作品(写真上から3枚目)のようなものを作るときは、Photoshopで作ったデータを生地にプリントアウトしています。ゾンビっぽい雰囲気を出したく少し血色が悪い手にはまっていた時期があったのですが、飽きてきたのでこの頃はもう少し健康的な色になりました(笑)。男の人の手も好きなのですが、骨ばっているよりは丸みがある方が創作意欲が湧くみたいで、ぷっくりとした手の作品が多いです。

ーー陶芸はどこかで習ったのでしょうか。

焼き物は教室で習いました。立体刺しゅうの作品を飾る台座が欲しかったのですが、ネットで色々と探してもいいものが全然見つからなくて。「じゃあもう作るしかない」と思って、陶芸教室に通うことにしました。湯飲みなど決められたものを作るのではなく、何でも自由にやらせてくれる教室を見つけて通い始め、それから陶芸にはまり8年ぐらい経ちます。大きいものは教室で作っていますが、家でもできるように小さい窯を買ったので、パーツなどの小さいものは自宅で作っています。

ーー刺しゅうから派生して、陶芸もやるようになったのですね。水沢さんの作品には、女の子をモチーフにしたものが多いですが、何か理由があるのでしょうか。

昔から女学校や制服というものが好きだからだと思います。女の子の光と影みたいな相反する性質が当たり前に同列に存在しているところに惹かれます。モチーフの女の子に特に年齢の設定はないのですが、“Woman”というよりは“Girl”というイメージですね。マニッシュな女の子も大好きです。可愛いだけじゃないのがいいですね。私のお気に入りは、ROSE et CAMELIAの作品です(写真上から4枚目)。最初に作ったお人形の作品で、少し影のある色合いが気に入っています。上にかかっているリボンは粘土で作ったのですが、たゆみや質感を出すのがとても大変でした。

参考にしている資料などは特にないですが、ニュートラルな気持ちに戻りたいときに好きなカメラマンさんの写真集を見たりもします(写真上から5枚目)。どこか滑稽で何かエロチックなのがいいんですよね(笑)。エロチックなのに可愛くておしゃれ。まだ20代の学生の頃に出会った写真集なので原点という感じがします。プロのモデルさんだけでなく一般人の女の子も写っていて、ただ可愛いだけじゃない生々しさがあったり、女の子が集団でわちゃわちゃしているというのが見ていて楽しいですね。

ーー昔からそういったシチュエーションに惹かれるんですね。水沢さんにとって、思い出に残っている刺しゅうを教えてください。

幻覺レモンのメンバーの1人が作ってくれたブローチです(写真上から6枚目)。先にもお話した山田勇男さんと幻覺レモン全員で喋っていたときに、みんな一角獣の夢を見たことがあるという話で盛り上がったことがあって(笑)。そのときから一角獣はアイコン的存在なのですが、それをモチーフにした紋章をデザインしてくれて、誕生日に贈ってくれました。今でも大切にしている作品ですね。

ーー素敵な思い出ですね。水沢さんが今後やってみたいことはありますか。

パリで展示をしてみたいです。まだ行ったことがないので、パリに行ってみたいというだけなのですが(笑)。インスタグラムのフォロワーにパリの方がけっこういるのですが、「パリで展示をやらないんですか?」と嬉しいコメントを頂くことも多く、より行ってみたくなりました。最近では、「MADE IN JAPAN」という外国の雑誌に取り上げてもらったこともあり(写真上から7枚目)、そういったところから海外の方も見てくれるようになったのかもしれません。基本的に一点もので数も多く作れませんし、面白いことしかやりたくないので、何でもかんでも引き受けるというよりかは、自分がやってみたいと本当に思ったことをやるようにしています。いつかグループ展を主催してみたいです。自分が好きな作家さんや面白そうな人だけ集めて、ディスプレイとか凝りたい。私だけは赤字でいいので(笑)。面白ければオールオッケーです。

あとは、立体刺しゅうのワークショップをやってみたいです。完成までに時間がかかってしまうし、全く経験がないのでどうやればいいか試行錯誤になると思いますが、少人数でのんびりと。楽しそうですよね。

text :藤枝梢
photo : 中矢昌行

取材後記

刺しゅうは世界中にあって、暮らしの中にあったり、特別なものとして存在したり様々ですが、中でも立体刺しゅう(スタンプワーク)という刺しゅうはわたしの中で少し特別な存在です。というのも、わたしの脳みそはとても平面的で立体でものを捉えたり考えたりすることが極端に苦手なのです。苦手だから憧れてしまうのかもしれません。

立体刺しゅうをされている方はたくさんいるのですが、中でも幻覺レモンさんの作る刺しゅうの写真をはじめて見たときは、これまで見た立体刺しゅうとはどこか違う世界観とクオリティーの高さに心奪われてしまいました。なかなか実物を拝見する機会がなく、どういった方なのかという情報も少なかったので、ただただSNSを見て、勝手な人物像を作り上げていましたが、いざ、お会いすると思っていたイメージと全然違う方でした。(もちろん良い意味です)

作品がとっても繊細でクオリティーが高いところや、選ばれるモチーフから、黒い服を着て、黒髪のおかっぱで、物静かで少し神経質な方を想像していたので緊張気味に伺ったのですが、良い意味で裏切られて、とっても楽しいお話を聞かせていただくことができました。

『ないものは自分で作る』という精神は、ものづくりの原点でとても大切なことだと思うのですが、なかなか真似できることではありません。まして、陶芸と刺しゅうとでは工程や材料なども異なります。元々美術系の学校に行かれていたということもあり、とても器用なことと、絵が上手な方なのでものの捉え方や、観察眼がとても優れているからこそ、全然違う素材のどちらも扱えるのだろうと思います。その異素材が絶妙に組み合わさって生まれる唯一無二の作品たちが魅力的でないわけがありません。

本格的に作家活動を始められてまだ数年とのことでしたが、これだけの世界観と技術をお持ちなのでこれからたくさんの素晴らしい作品を作られていくのだと思います。ますます活躍が楽しみです。

atsumi

Chika Mizusawa

東京都在住。美術系の専門学校を卒業後、3人組のユニット「幻覺レモン」を発足。現在はユニットは解散し1人で、立体刺しゅうと陶器で作った作品をインスタグラムや個展などで発表している。

https://www.instagram.com/_genkakulemon_/