Interview 031

KENDAI

KENDAI

身体ではなく、見る人の心に刻む
「布への入れ墨」。

February 21, 2022

刺しゅうの魅力や惹かれた理由を聞く連載インタビュー。「布の彫師」として、入れ墨をモチーフにした刺しゅう作品を生み出す双子のユニット・KENDAIの西大地さんと建太さんに、その独自のコンセプトや手刺しゅうと横振りミシンでの制作についてお話を伺いました。


ーー双子で活動されているKENDAIのお二人。屋号の由来は何なのでしょうか。

兄が大地、弟が建太という名前で、昔から二人合わせて「ケンダイ」と呼ばれていたんです。生まれた順番で呼ぶと逆なのですが、この方が語呂が良かったみたいで。学校の授業を入れ替わってみたり、片方のバイト先に遊びに行ったら間違えて話しかけられたりと、小さいときからそっくりでしたね。(建太さん)

ーー幼い頃からものづくりの世界に興味があったのでしょうか。

父親が大工だったので、大工になりたいと思っていた時期はありました。でも二人とも気が付いたら洋服が好きになっていて、専門的に学ぼうと考え文化服装学院に通うことになったんです。入学する前から「将来的に二人で何か一緒にやれたらいいね」と話していたので、僕はアパレルデザイン科、建太はアパレル技術科とコースも分けました。結局今は二人とも刺しゅうをやっているので、あんまり意味はなかったかもしれないですが(笑)

文化服装学院を卒業後は、僕は東京でアパレルのパタンナーに、建太は群馬にあるブランドで企画からパターン・生産まで全て携わるような仕事に就きました。(大地さん)

ーー最初はバラバラの道に進んだんですね。なぜ刺しゅうを始めたのでしょうか。

パタンナーをやっていたときに、ベトジャン(=ベトナムジャケットの略)を自分で作りたいと思い、せっかく作るなら刺しゅうも自分でやってみようと思ったのがきっかけです(写真上から1枚目)。ベトジャンはスカジャンの一種なのですが、スカジャンはリブがあったりして作るのが難しく、ベトジャンの方が簡単に作れるので挑戦してみました。最初にパターンだけ粗裁ちして、刺しゅうを施してから縫い合わせるのですが、初めての刺しゅうにしては面積が大きく大変でしたね。仕事が終わって家に帰ってから深夜3時ぐらいまで刺してという感じだったので、完成まで半年ぐらいかかりました。作ったものの恥ずかしくて、実は一度も着られていないです(笑)(大地さん)

当時は東京と群馬で離れて住んでいたのですが、趣味の共有などはしていたので、「刺しゅうを始めた」という話を聞いて僕もやってみようかなって。そこからお互いに刺しゅうにはまって、作った作品をInstagramであげていたら結構いい反応をいただけたんです。4年前に知り合いのショップさんから「うちでイベントをやらないか?」と声をかけてもらい、ちょうどいいタイミングだったこともあって、二人とも会社を辞めてKENDAIの活動をスタートしました。(建太さん)

ーーお二人の間で役割分担などはありますか。

絵は僕が描いて、刺しゅうは建太が刺すというふうに分けていますが、やっぱり刺しゅうの方が時間がかかるので二人とも刺しゅうをしています。僕は左利き、建太は右利きで利き手が異なり、刺すときの順番が逆なので見る人が見ればどちらが刺したか分かると思います。アパレルの仕事をしていたときに、家でのんびりしている時間が勿体なく感じて絵を描き始めたのですが、特別上手だったわけではないので、まさか自分が絵を生業にするとは想像もしていなかったですね。(大地さん)

デザインはほぼ任せているので、どういうものを作るかは二人で考えています。「こういうものを作りたいんだけど」って相談すると「いいんじゃないか」となることもあるし、「あんまりよくないんじゃないかな」となることもあるし、結構意見は割れますね(笑)。ですが、相談相手がいるというのは大きいと思います。一人で刺しゅうをしていると孤独だけれど、僕たちは二人なので寂しさは感じないです。今は週1日休みでそれ以外は刺しゅうをするというスケジュールですが、これも一人だったらちゃんとできていないと思います。お互いがいるから頑張れていますね。(建太さん)

ーーユニットだからこそのメリットですね!本格的に活動を始めてから制作された作品について教えてください。

最初にアパレルショップでのイベントを行なってからは、雑誌『NYLON JAPAN』で木村カエラさんに衣装を着用してもらいました。それからはスタイリストさんから映画の衣装の依頼をいただいたり、アパレル関連のお仕事をいただくことが多かったですね。とはいえ、洋服に特化しようとは考えていませんでした。僕らが好きなものや欲しい洋服は既に世の中にあるし、アパレルはシーズンがあるので刺しゅうしたものが無駄になったりしそうで。値段的にも手刺しゅうでは採算が取れないような金額のものがあるので、自分たちがやれる範囲でと考えたときに洋服は難しく感じました。なので今は、刺しゅうとインテリアを絡めながら作品を作っています。

こちらのパイプ椅子(写真上から2枚目)は、インテリアショップのCIBONEで扱ってもらっています。1年前ぐらいから横振りミシンを使って作り始めました。特に依頼されたのではなく自分たちで考えて作ったもので、完成した椅子の写真をバイヤーさんに送って「納品してもいいですか?」って聞いて半ば強引に置いてもらいました(笑)。今後もなるべく自分たちの手で作ったものを販売していきたいですね。(建太さん)

デザイン提供では、BEAMS Planetsとコラボして小銭入れを作っています(写真上から3枚目)。自分たちで作ったら値が張ってしまうのですが、工場に刺しゅうをお願いしているのでお客さんにとって手に取りやすい価格帯で実現できました。クライアントワークの場合は特に要望がないことが多く、刺しゅうをしたいアイテムだけ教えてもらって、そのものに合うデザインを考えているので割と自由ですね。(大地さん)

ーー絵が特徴的なので、デザインだけでもファンが生まれそうですね。モチーフは何か参考にしているものがあるのですか。

刺しゅうのコンセプトが「布の入れ墨」なので、モチーフもInstagramで彫師さんのアカウントを見たり、タトゥーなどを参考にしています。元々入れ墨が好きで入れてみたいんですが、痛そうだし銭湯とかにも行けなくなってしまうのかと思うと、なかなか挑戦できず(笑)。そこで肌に直接入れるのではなく、布に入れようと考えました。ゴリゴリの入れ墨のような図案(写真上から4枚目)でも、何故かかわいいと言われることが多く、SNSのフォロワーとかイベントにいらっしゃってくれるお客さんでも、女性の方が比率的には多いですね。(大地さん)

ーー入れ墨というと男性らしいイメージですが、刺しゅうになることで無骨さが和らぐのかもしれませんね。

衣装提供も女性の方が多いので、その影響もあるかもしれません。あとは、海外の方からも好評です。KENDAIを始めて1年ぐらいのタイミングで、友達がやっているブランドがパリで展示会を行なうことになり、一緒に作品を持って行ったんです。フェルトに刺しゅうしてワッペンのような形で柔道着にくっつけたものです(写真上から5枚目)。直に海外の方の反応を見ることができて良かったです。(建太さん)

ーー刺しゅうの技術はどこかで学んだのでしょうか。

文化服装学院に通っていたときに授業では習ったのですが、ほとんど独学です。昔のスカジャンなどを参考にやっているので、正直合っているのかも分かっていません(笑)。図案通りに綺麗に刺すのにちょうどいい太さなので基本的には2本取りで、アウトラインステッチは1本取りでやっています。刺しゅう糸に関してはDMCがメインなのですが、グレーだけはルシアンのCOSMOを使っています。使う色は定番化しているので、あまり種類をたくさん持っているわけではないのですが、よく使うものに関しては手芸店で買いだめしています。(大地さん)

ーー手刺しゅうで刺すものと横振りミシンで刺しゅうするものは、どのように使い分けているのでしょうか。

刺しゅうする面積が大きいものに関しては横振りミシンを使っています。アパレルとコラボすることが多いのですが、手刺しゅうだと値段が割に合わなくなってしまうため、機械を取り入れ数を作れるようにすることで、手が届きやすい価格帯を目指しています。

横振りミシンについては、刺しゅうに興味を持ってから存在を知りました。GOLD QUEENという機種で、もう販売されていないヴィンテージミシンなので、毎日ネットでチェックしてようやく手に入れたものです(写真上から6枚目)。台の部分は元は違う素材だったのですが、自分たちで全部はがして木に替えました。(建太さん)

ーー実際にどうやって横振りミシンで刺しゅうしているのか、見せてください。

針が左右に動く振り幅を右ひざのレバーで調整しつつ、足元のペダルで速度をコントロールします。ひざと足を両方動かすとなるとかなり難しく、身体に馴染むまではバラバラの動きでした。使い始めの時期は余計な力が入ってペダルを踏みすぎてしまったりと、慣れるまで苦労しました。

横振りミシンは活動を始めた当初に買ったんですが、手刺しゅうの方で時間が取られてしまってなかなか進歩せず……。少しずつ練習して段々とコツを掴んできましたが、ちゃんとできるようになるには10年ぐらい必要らしく、横振りミシンの職人さんに見られたら「まだまだだな」と思われそうですね(笑)。(建太さん)

ーー今まで作ってきた作品の中で、一番思い出に残っているものは何でしょうか。

その時々で作りたいと思ったものを作っているので、あまり代表作と呼べるようなものがないのですが、一番格好良くできたのはCIBONEで取り扱ってもらっているペナントです。一つひとつのペナントに干支の動物を刺しゅうしていて、全部合わせることで綺麗な十二角形になります。(大地さん)

ーーこれから挑戦してみたいことはありますか。

アパレルショップでのポップアップや展示はやったことがあるのですが、自分たちだけの個展はまだ開いたことがないので挑戦してみたいです。パイプ椅子やランプシェード(写真上から8枚目)など、インテリアにまつわる作品も結構あるので、そういうテーマの個展もいいですね。いざ個展をやるとなると緊張してなかなかできていなかったのですが(笑)、KENDAIをスタートしてある程度の年数も経ったので、作りためてきた作品を直接見てもらえればと思います。(建太さん)

text:藤枝梢
photo:中矢昌行


取材後記

ある日たまたま立ち寄ったインテリアショップでKENDAIさんの作品に出会いました。
どこか懐かしいような、でもとても洗練された綺麗な仕事をされていて、どんな方が作られているんだろうと帰宅してすぐに調べました。
双子の男性ユニットだとわかり、ますます興味津々。
わたしは小さな頃から双子への憧れがすごくあったのです。
どうして憧れているかと言うと、子どもの頃見ていたアニメや、身近にいた双子の一心同体感、
絆みたいなものが、当事者にしか絶対にわからないだろうと思っているからです。
もちろん、わずらわしいこともあると思うけれど、生まれたその日から、運命共同体のような心強さはあるんではないでしょうか。
KENDAIのお二人の話を伺っていると、それを強く感じ、羨ましく思いました。

いつかふたりで何かやりたいと思って別々のコースで勉強したり、空いた時間を有効にと絵を描きはじめたり、
コツコツと時間を大切に暮らしているのは、すごく刺しゅう的で、おふたりが刺しゅうという選択をしたことを妙に納得してしまいました。
刺しゅうをすること、販売することなどを冷静に分析して、自分達のスタイルを守りながら取り入れられる技術を取り入れていくところなどもとても誠実でいいなぁっと思い、自分も見習うべきところだなっと背筋が伸びました。

『刺しゅうは布の入れ墨』という解釈で制作しているとおっしゃる通り、モチーフはエッジの効いたものが多いのですがその中にどこかかわいらしさを感じていました。
お二人のゆっくりと丁寧で柔らかな話し方やちょっと照れくさそうに話しをする姿が、作品の中に隠れているかわいらしさの秘密なのかもしれません。

これからもっともっとおふたりの作品を目にする機会が増えるんだろうなぁっという予感がする取材でした。
おふたりだから生み出すことができるクオリティーの高い、かつあたたかみのあるプロダクトを楽しみにしつつ、ちょっと嫉妬してしまいます。

個展を見に行ける日が楽しみです。

atsumi


KENDAI(左:大地さん/右:建太さん)

双子の刺しゅうユニットとして、2018年より活動をスタート。刺しゅうを「布の入れ墨」と解釈し、ハンドメイドで自分たちの作品を作るだけでなく、アパレルブランドとのコラボレーションや衣装提供なども行う。

https://www.ken-dai.com/