Interview 032

NewMake

NewMakeラボ

捨てられてしまう洋服に、
新たな価値をもたらす。

March 22, 2022

今回は、廃棄される洋服や雑貨をアップサイクルするコミュニティNewMakeのラボにお邪魔しました。現在600を超えるメンバーが参加しているコミュニティではどのような活動が行われているのか、ディレクターの吉村真由さんにお話を伺いました。


ーーNewMakeとはどのようなプロジェクトなのでしょうか。

様々なブランドから寄付していただいた廃棄予定の洋服や雑貨などを利用して、サステナブルなモノ作りを行なっているコミュニティになります。NewMake Laboはその拠点となる場所で、2021年の7月末にオープンしました。運営母体は体験シェアリングサービスを提供しているSTORY&Coです。

ラボには提供された洋服がハンガーにかかった状態で置いてあるので、その中から好きなものを選んで、ここにあるミシンや糸などを使い作業してもらいます。靴やカバンを作るための特殊ミシンがないので、ラボではできない作業の場合は持ち帰って家でやることも可能ですが、基本的にはここで全て完結させるシステムです。作りかけの洋服は番号が振られた箱にしまっておけます(写真上から2枚目)。

ーーどんな方がコミュニティに参加しているのでしょうか。

やはりプロとして自身でものを作っていらっしゃる方が多いですが、服飾の学校に通っている学生さんや、趣味で洋裁をやっている主婦の方などもいます。サステナブルという切り口から興味を持ってもらった方の中には、一切縫ったことがないという初心者もいますね。ミシンなど使い方が分からない道具があっても、私や他のスタッフが教えたり、会員さんでもっと詳しい方がいたりするので安心して利用できると思います。平均年齢は27、8歳ぐらいですが特に年齢制限は設けていないので、お母さんと一緒にお子さんが来ることもあります。関東在住の方がほとんどですが、わざわざ大阪から来て作業していった会員さんもいました(笑)。

会員登録やラボの利用は無料で、席は完全予約制なので好きな時間を選んで予約してもらっています。現時点で600名ほどが登録しており、偶然一緒になった人と仲良くなりお仕事に繋がったという方もいるので、いい出会いの場になっていると思います。

ーーラボ以外での交流の場もあるのでしょうか。

まだ構築中なのですが、メンバー同士がチャットでやり取りできるようなプラットフォームを作りたいと考えています。ご時世的に大人数で集まるのも難しいですし、登録はしているけど関東以外に住んでいるという会員さんも結構いるので、ラボに来なくてもコミュニケーションが取れる場を作りたいです。裁縫や手芸に詳しい人が多いのでネット上で質問するよりも信用度が高く、意見交換も活発にできるのではと思います。その中でも新たに趣味の繋がりなどができたら、よりコミュニティが盛り上がっていきそうですね。

ーー協力いただいているブランドはどのように募ったのでしょうか。

ラボがオープンする前や初期のころは、元々一緒にお仕事をしていたところに協力してもらえないか直談判していました。最近は、取材記事などを見て「よかったらうちの商品も使ってもらえませんか?」とお話をいただくことも増えています。どの企業も捨てるために商品を作っているわけではないので、「こういう形で活用してくれるなら嬉しい」という声が多いですね。

ボタンやファスナー、レースなどの副資材は、サンプル帳を寄付してもらいそこから使っています(写真上から3枚目)。種類もバラバラでサイズなども限られているのですが、これしかないとなると頭が柔軟になりアイディアが膨らむのかもしれません。他にも、近所のウェディングドレスのアトリエさんから、生地を反で寄付いただいたり、ここで使っている洋裁道具で会員さんが家から持ってきてくれたものもあります(写真上から4枚目)。「余っていて自分たちには使い道がないけれど、捨てるには忍びない」というものはまだまだあると思うので、そういったものも作品やその一部として生まれ変わることで、新たな価値を創造できるということを伝えていきたいです。

ーーラボの内装にもそういった思いが反映されていそうですね。

前はランジェリーショップで、その時使われていたハンガーバーなどはそのまま残っているのですが、入り口の壁は全部手ではがしてリメイクしています。WhOという壁紙のブランドからサンプルの壁紙をいただき、それを3cmの幅に切って貼っていきました(写真上から5枚目)。また、ハンガーラックやミシンの台として利用しているのは、名古屋の工場からいただいた糸の芯になります。ベルトでまとめているだけなので、展示のときなどはバラシて自由に動かすことができます(写真上から6枚目)。

全体のデザインは、中川政七商店の店舗などを手掛けている佛願忠洋さんが担当してくれました。コミュニティとして多くの人が集まる場所なので様々なテイストを表現したく、あえて統一感のないつくりになっています。一部の壁はカラフルだけど他は真っ白だったり、かと思えば天井には蛍光ピンクやイエローが使われていたりと、どんな物にも合うようなデザインにしました。会員さんと一緒にNewMakeのコンセプトからデザインを考えて、壁にペイントを施すイベントを開催したこともあります。

ーー置いてある機材について教えてください。

元々ブラザーの東京ショールームで展示されていて、ショールームがリニューアルされたタイミングで行き場所がなくなってしまったミシンを使わせていただいています。縫い目のパターンが豊富な家庭用ミシンやロックミシン、Tシャツの裾や袖口を縫うカバーステッチミシンなどがあります(写真上から7枚目)。アウトドアメーカーからテントを寄付してもらうこともあるのですが、テント生地は家庭用のミシンだと針が刺さらないこともあるので、服飾の学校などで使われている職業用ミシンも置いています。たぶん日が当たるところに置いてあったのか、少し日焼けしているものもあります(笑)。また、普通ではなかなか触れることのできない業務用の刺しゅうミシンもあります(写真上から8枚目)。刺しゅうPROもあるので、この場でデータを作って試すこともできますよ。ミシンは買うのに勇気がいると思うので、どれにしようか悩んでいる人はここで試しに使ってから選ぶのもありですね。

生地に直接印刷できるガーメントプリンターを置きたいという話もあったのですが、大きすぎて作業スペースがなくなってしまいそうで断念しました。ですが、ショールームツアーという形で10名ぐらいの会員さんと、ブラザーのショールームにお邪魔して使わせてもらったことがあるんです。生地を持参して、データも自分たちで作りました。ラボに帰ってきてからも「プリントさせてもらったんだ!」と話題にもなりましたし、またやりたいという声が多いです。

ーーそういったイベントなどは吉村さんが企画しているのでしょうか。

大学生のインターン生が4、5名いるので、その子たちと一緒に考えて企画しています。会員登録している方には、コラボブランドを紹介するメルマガを定期的に配信していて、そのメールの中でイベントの案内も送っています。今は私たちが企画していますが、今後は会員さんの「こういうイベントをやりたい」「この辺で展示をしたい」といった希望を聞いて実現していければと考えています。スタッフもいち会員として、対等な立ち位置でコミュニティを活性化させていきたいですね。

2021年の11月には、100足のスニーカーを使った「100Sneakers100NewMakers」という企画を行なったのですが、それもメルマガで100人の参加者を募りました。今回寄付してもらったスニーカーはデッドストックというよりも、生産する前のサンプル品が多かったため片足しかないものもあったのですが、手縫いで装飾を施したり絵を描いたり、みなさん思い思いの方法で作品を作り上げていました。完成したスニーカーは2月の1カ月間、東急プラザなどに展示され、Instagram上ではオンライン投票も行いました。今回は啓蒙活動として、作品は制作者に寄贈する予定です。

ーー普段ラボで作られた作品はどうしているのですか。

基本的には、完成品はラボに保管となります。利益を出すことが目的ではないのですが、サステナブルな取り組みとしては、作って終わりではなく循環させていかなければならないと考えています。そこで、3月には阪急うめだ本店でポップアップショップを開催することになりました。阪急のデッドストックであるスカーフと、NATURAL BEAUTY BASICの洋服を組み合わせた作品を30点ほど商品として販売します。それ以外にも、Missoniの洋服を使った作品を十数点、委託販売で扱ってもらいます。ブランドによっては二次販売がNGだったり、販売は可能だけど事前チェックが必要だったりと、グラデーションがあるのでそのあたりは上手く協力し合いながら進めていければと思います。

ラボでの管理だと制作者の手元に作品が残らないため、アーカイブとして作品を撮影する会員さんも多く、カメラマンさんに依頼して撮ってもらっている方もいます。ラボ内にも撮影用のスペースと照明があるのですが、どんどん欲が出てここでは物足りなくなってしまって(笑)。グリーンバックがあるような本格的なスタジオが欲しいという希望もあり、撮影スタジオを併設することも検討しています。そこにはカメラに詳しいスタッフがいて、NewMakeのようにカメラマン同士で交流しながら、技術を高めあうようなコミュニティができたらいいですね。

ーーどんどん夢が広がりますね!今後の展望としてはどのようなことを考えているのでしょうか。

場所がここしかないので、取り扱いできる洋服の数が限られてしまうんです。在庫を抱え困っているブランドは他にもあるので、今後は全国に活動の場を広げていきたいです。東京にあるラボとそのまま同じというよりは、例えば京都では着物、岡山ではデニムなど、地産地消という形でその土地の洋服を活用できればと考えています。現地で活動しているクリエイター同士や、後継者がいなくて困っているアパレル産業などが繋がることで、技術も向上していきそうですしね。

あとは、自分のブランドを持っているけどPRに苦戦している会員さんの後押しをできればと考えています。ネットが普及したからこそ、発信力がないとなかなか知ってもらえないので、NewMakeの名前を踏み台にしてもらえたらいいなという思いもあります。NewMakeの存在が広まるほど知ってもらえる母数も増えるので、ステップとして使ってもらうためにも、NewMakeをもっと広く知ってもらいたいです。

text:藤枝梢 photo:中矢昌行


取材後記

サステナブルとかSDGsということばを聞くようになって数年経ちました。
自分の中で『なるほど』と思うことや、なんだかモヤモヤするところがあり、なかなか整理のつかないところがあります。
そんな気持ちを抱えながらNewMake Laboの取材をさせていただきました。
まず、考え方を少し変えてみることで、協力者がたくさんいることに気づけるということ。
吉村さんとのお話しの中で頻繁に出てきた『コミュニティ』という言葉。
その2つがとても新鮮に響きました。
これまで人の手によって壊されてきた環境と人の欲求の折り合いをつけるというのは、とても簡単なことではありません。
でも、気づいたからには無視できない。
小さなことからでもはじめられたらというのは誰もが思っていることだと思います。
正直、わたし自身まだ整理はついていないのですが、こんな場所、コミュニティが学生時代にあったら、どんなによかっただろうと思いました。
もちろん、年齢なんて関係ないのですが、自分が振り返って感じる無敵な時代に、多くの感性や考え方に触れられる場所、そして、それを試すことができる場所があるのはとても素晴らしいことだと思います。
少しでも興味を持たれた方は、ぜひ体験してみてほしいと思います。

atsumi


Information

New Make Labo

東京都渋谷区神宮前6-6-2 原宿べルピア104
13:00-19:00
日・月曜日休