Story 007

atsumi with brother

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刺しゅうにまつわる様々な物語を通して

May 20, 2024

2017年にスタートしたこの連載。これまで70以上の記事を公開してきましたが、今回で一旦おやすみとなります。一区切りとして、See Sew project の監修をしてくださったatsumiさんにここまでの想いを書いていただきました。


―― See Sew projectがはじまった経緯や想い

See Sew projectがはじまったのは、刺しゅうミシンParieの監修をさせていただき、その流れで、刺しゅうにまつわる方への取材をするコンテンツをというデザイナーさんの助言がきっかけでした。なんて楽しそうな企画だろうとワクワクしながらも、刺しゅうしかしていなかった自分にとって手探りのお仕事でした。それでも、クライアントであるBrotherさんの包容力と、近くで的確な助言をくれるデザイナーさん、カメラマンさん、ライターさんの力を借りながら試行錯誤してきました。はじめは、仲のいい刺しゅう仲間に協力をしてもらいながら記事作りを初め、認知度という点ではまだまだなのですが、これまで取材に協力いただいた素晴らしい作り手の方々のおかげでこの活動も6年を超えました。長かったようなあっという間だったような、とにかく必死で、濃いぃ大切な時間。このお仕事が本当に大好きでした。このお仕事のおかげで出会えたこと、気づけたことがたくさんたくさんあります。

―― 取材する立場に立つこと

わたしは、お調子者ですが、あまり人付き合いが得意ではありません。ネクラなんです。その相手が好きであればあるほど、どうしていいかわからなくなってしまいます。
これまで取材させていただいた方は大好きで尊敬していて、憧れの存在。だから、普通に暮らしていたら目を見て話すことなんて到底できません。アポをとる時は冷静を装いながらも心臓が飛び出しそうなくらい緊張します。受けてくださるとお返事いただいた時は、飛び上がって喜んでいました。監修という立場をいいことに自分が好きな人に会いに行って図々しいほどに根掘り葉掘り質問する自分がいました。正直、自分でもびっくりです。毎回緊張するのですが、いつの間にか、わたしが喋りすぎているということが多々あります。もちろん、わたしの尊敬する人のことを一人でも多くの方に知ってもらいたいし、これまで他では話したことがないことを聞き出したいとか、色んな気持ちがあってのことなのですが、このお仕事を通して、自分がいかに刺しゅうが好きなのかを再確認することになりました。これまで、あまり趣味もないし、誰かや何かに熱中したこともなく飽きっぽいところがコンプレックスでもあったので、その発見はとても嬉しいことでした。

同業者の方は、同業者が取材に来るなんて嫌じゃないかな?とか思っていましたが受けてくださった方も、残念ながら断られた方も、とても丁寧にご対応いただきました。普段は取材を受けない方もいらしたし、無理なスケジュール調整に応じてくださった方、感謝しきれないほどよくしていただきました。そういったところでも、刺しゅうする人々の優しさに触れ、ひねくれ者でめんどくさい性格が少しまあるくなったような気がしています。

途中からはじめた取材後記。もー大変です。これは、デザイナーさんの無茶振りであり、愛の鞭なんだと思うことにしていますが、文章なんて書けないし、読み返したら記事によってバラバラな文章で恥ずかしい限りですが、文字にすることで自分が何が好きで、何に魅力を感じているのかを整理するきっかけになりました。中には、取材後記をとても喜んでくださりメッセージをくださる方もいて、上手い下手とは違うところで気持ちが伝わったと嬉しくなりました。

自分が取材を受ける立場の時によく聞かれるの質問の中に、『刺しゅうの魅力』というのがあります。それは、世界中にあって、昔から人々が暮らしの中で生み出した知恵であり、当たり前の営みというところと答えています。この See Sew project を続けながら、もっとたくさんの魅力を知ることができました。それは、自分一人では見つけられなかったことだし、刺しゅうを続けていくことの意味のようなものを優しくそっと教えてくれました。

―― 印象深い取材

どの取材も印象に残る、わたしにとっては宝物なのですが、いくつか印象深かった記事を振り返ってみます。

かなり初期に取材させてもらった米田有希ちゃんの取材。海のものとも山のものともわからないはじめたての頃に、日本に帰省する貴重な機会をいただき、これまでの刺しゅうにまつわるお話を教えていただきました。彼女に依頼した大きな理由のひとつは、わたしにとって初めてできた刺しゅう友達だったからというのもありますが、何より、本当に刺しゅうを好きで彼女の刺しゅうに対する向き合い方が、わたしにとって、とても理想的だと感じていたこと。刺しゅうを生業にしているわけではないのだけど、節目節目でというのがいいのかな?暮らしの中、大切なお仕事の中、あるべきところにいつも刺しゅうが寄り添っているように感じています。

実際に刺しゅうをされているわけではないのですが、偶然京都の展覧会でお話しさせていただいたのをきっかけに知り合った、古い半襟のコレクターでもあるマリンバ奏者の通崎さんの取材。素晴らしいコレクションの数々(写真上から1枚目)と興味深いお話をたくさん聞かせていただいたのは刺しゅうが昔からわたし達の暮らしの側にあったこと、時代時代の超絶技巧を知ることができた貴重な機会でした。

わたしの素朴な疑問に色々とお答えいただいたブラザーさんの技術者のみなさんとの記事。
ミシン刺しゅうの仕上がりをより良くするための接着芯。<基礎編>
ミシン刺しゅうの仕上がりをより良くするための接着芯。<実践編>
ミシン刺しゅうを綺麗に仕上げる、要の刺しゅう枠。
入り口は刺しゅうミシンをより快適にというところだったのですが、手刺しゅうにも役立つし、新しい作品を実現するためのヒントもいただきました。(写真上から2,3枚目)これは、メーカーさんなどへの取材でも同様で、直接というのとは少し違うけれど、わたしの活動や何か刺しゅうを取り入れたいと思っている方々へのヒントにもなったのではないかと自負しています。この連載をきっかけに学んだ刺しゅうProも今では、わたしの一つの武器になっているように思います。(写真上から4枚目)

初めての海外取材。リチャードの話はとても刺激的でした。これまで、日本でも現代アートに刺しゅうを用いて作品作りをされている方に依頼をしたことがるのですがなかなか都合が合わなかったりで実現できない中、イギリスという刺しゅう文化が根付いているところでアートにおける刺しゅうと、昔から暮らしの中にある刺しゅうを軽々と行き来しながら活動する彼の考え方、あり方にとても勇気をもらいました。刺しゅうは柔軟なんです。そこも魅力なんです。

しょうぶ学園の取材(写真上から6枚目)では、長年の想いが溢れてしまっていますが、ずっと焦がれていた場所へ行かせていただき、お話を聞かせていただいたのは夢のような時間でした。ありがたいことに、取材後記を学園の季刊誌でもご紹介いただき、ご褒美までいただいてしまったような気持ちです。

そして、満を持してと言ってもいいでしょう。わたしにとって刺しゅうがなければこんな風に出会い仲良くなることがなかったであろう、宮崎あおいちゃん。(写真上から7枚目)
数多くの取材を受けているであろう彼女が、こんなに刺しゅうのことを話してくれたことはないと思います。取材後記にも書きましたが、本当に刺しゅうが好きでよかったと思う出会いでした。わたし達のように刺しゅうが繋いでくれたご縁で楽しい輪が広がっていくと素敵だなっと改めて思います。

―― 心からの感謝を込めて

本当なら、取材を受けてくださった方全員に感謝の気持ちや、取材から時間が経った今だからこそ感じることを書きたいくらいなのです。このコンテンツがなければ、お会いして、お話する機会がなかった方がほとんどなので改めて、素晴らしい機会をいただいたと感謝しています。そして、これをきっかけに好きな人が増えた。会いたい人が増えたというのは、わたしの喜びですし、そんな気持ちが伝わっていたらいいなと思います。
まだまだお会いしたい方や、訪ねたい場所が世界中にあります。そのくらい刺しゅうは歴史があるし多様な魅力があるのです。この連載は一旦お休みになりますが、いつでも記事は読んでいただけます。そして、いつかまた再開できる日までわたしの会いたい人、訪ねたいリストは増え続けます。

こうやって振り返ると、結局自分が楽しくて、成長させてもらったり、出会わせてもらったりで、なんだか今になって恐縮してきたのですが、少しでも楽しんでいただけていたり、好きな作家さんを見つけたり、作家さんの新たな一面を発見したり、心が動く何かがあったら嬉しいなと思います。手前味噌ですが、やっぱり自分も刺しゅうをするから刺しゅうが好きだから聞けた話があったと思っています。WEBは何度でも手軽に読み返すことができるというのが良いところ。何か迷ったり、刺激が欲しくなったりした時に読み返してもらえる記事が一つでもあったら嬉しいです。

最後になりましたが、読んでくださったみなさん、取材にご協力いただいたみなさん、やりたい放題のわたしをいつも優しく見守ってくださったBrotherさん、デザイナーさん、カメラマンさん、ライターさん本当にありがとうございました。
いつかまた再開できることを心から願っています。

text:atsumi
Photo:中矢昌行 / junya / 石川奈都子 /
Maki Sekine / 湯浅亨 / 山田薫 / 清水将之