Story004
atsumi with brother
ミシン刺しゅうの余白に、
作り手の祈りを込める。
December 20, 2021
刺しゅうデータをダウンロードできるサービス「ハートステッチズ」に、刺しゅう作家atsumiさんがデザインした新しい模様が加わりました。オーソドックスな形ながらも、ポップな色と柄で表現された世界でたったひとつのお守り。受験を控えているお子さんや、健康や幸せを願う大切な人への贈り物として、これからの季節に打ってつけの図案ではないでしょうか。今回の図案にした理由やお守りならではのアレンジの仕方について、atsumiさんに伺いました。
―― 今回は今までの図案とは一味違いますが、どうしてお守りにしようと思ったのでしょうか?
図案を入れるだけで完結するものも手軽でいいのですが、ミシン刺しゅうを施したあとに、手刺しゅうなど一手間加えることでより唯一無二のものを作れないかという気持ちがずっとありました。そんなときにコロナ禍でも結構話題に上がっていてなんとなくひっかかっていたのが、友人や姪っ子の話にもあった部活の大会や受験のことで、そこからお守りの図案を考えました。今までもオーダーで手刺しゅうのお守りを作ってほしいと言われたことがあるんですが、けっこう反響が良かったんです。意外とみんな「お守りが好き」とか、「お守りを贈りたい」という気持ちがあるんだなって。あとは、個人的に本当のお守りのデザインを依頼されたいなと思っていることもあります(笑)。
お守りというとフェルトなどで手作りしたことがある人はいると思うんですけど、全て手刺しゅうで作るのは相当大変で。ミシン刺しゅうだったら、手刺しゅうでは難しい密度の高い縫い方で重厚感を出すことができるので、お守りのイメージにもぴったりだなと感じました。また、今回の図案は中央の部分に余白があるので、そこをアレンジすることで手刺しゅうの良さも込められるようになっています。
―― 真ん中はあえて空けているんですね。
手刺しゅうで縁を飾り付けたり、「おまもり」や「合格」といった文字を入れられるようにしました。もちろん、刺しゅうじゃなくペンで書いても大丈夫です。刺しゅうを入れた布は、テープでもとめられるので、仕立て自体は簡単にできます。一般的に神社やお寺などで販売されているお守りには、紙や木板でできた内符と呼ばれる御札が入っているので厚みや固さがありますが、今回の図案は全体に刺しゅうが入っていて布自体が固くなっているので、特に中に支えとなるようなものを入れなくても大丈夫です。「ミシン刺しゅうの仕上がりをより良くするための接着芯。基礎編」・「実践編」でミシン刺しゅうには接着芯が必要不可欠なことをお伝えしましたが、生地の厚さに合わせた接着芯を選ぶとよりきれいに仕上げることができますよ。
―― 紐を通す部分は何で穴を開ければいいでしょうか?
革に穴を開けるポンチみたいなものがあると一番いいんですが、一般的な家庭にはあまりないと思うので、小さいハサミでチョキチョキ切っていくのがいいと思います。手芸が好きな方は目打ちやハトメなどを持っていることも多いので、そういうものを使って開けても大丈夫です。
―― 今回の刺しゅうデータとしてダウンロードできるピンク色の他に、2色見本を用意していただきましたが、何かイメージはありますか?
ピンクはちょっとキャピキャピしているので(笑)、女の子同士で交換するようなイメージで作りました(写真上から3枚目)。それに対してグレー(写真上から4枚目)は大人の女性向けで友達の安産祈願などに、青(写真上から5枚目)はお母さんから息子の合格祈願に、という想定です。他にも、お父さんが運転する車につける交通安全のお守りなどもありかもしれないですね。架空の設定でもこれだけ想像ができたので、リアルだともっといろいろなパターンがあると思います。作る人や贈る相手によって願うことが違って、それぞれ異なるストーリーが生まれるのがお守りの良さだと思うので、図案が発売されたら、どういう想いを込めたのか実際に作ってくれた人に聞いてみたいですね。
―― お守りだと、自分用ではなく人にあげるために作ることの方が多そうですもんね。
私も刺しゅうをしているときは、自分のためではなく誰かのためにという想いが頭の中にあった方が楽しいし、作業がはかどるような気がします。「贈る人のことを考えながら刺す」というのも刺しゅうの魅力のひとつだと思うので、その点も踏まえて作る人が楽しんでくれたら嬉しいですね。特に今回の図案は、ミシン刺しゅうをしたら終わりではなくその後に仕立てるという工程がプラスされるので、そのひと手間にも愛情をかけられると思います。
また、これまでの模様はハンカチやシャツ、バッグなど好きなものに刺しゅうすることができたのですが、お守りは用途が限定されてしまうので、その制約の中でいかに工夫するか、自分らしさを出すかに面白さを見出してもらえればと考えています。
―― 図案のモチーフは何かあるのでしょうか?
あまり和のイメージに絞りたくなかったので、特別なモチーフはありません。レイアウトも対称的にはしていないですが、完成したときに統一感が出るように、なんとなく繋がるような配置にしています。ゆるやかな曲線で可愛らしさを表現しつつ、ミシン刺しゅうならではの模様を入れたく今回のデザインになりました。
やはり、刺しゅうミシンが得意な縫い方や、ミシンだからできることというのも活かしたいと思いました。図形の中に使用したいくつかの縫い模様は、特に名前などはありませんが、ミシンならではの精巧さと密度があります。また、お守りの特性上、持ち歩いたりするので、全体に刺しゅうを施すことで丈夫になればという意図もあります。
加える手刺しゅうに関しては、本当に自由でいいと思っています。私が作った見本にとらわれず、余白や、ミシン刺しゅうの上から手刺しゅうやビーズなどを加えてみてもいいかもしれません。
形に関しては、10×10cmのサイズの中に収めなければいけないので、変形にはせずトラディショナルなものにしました。お守りって昔からある伝統的なものだけど、あえてそういう古くからあるものをみんなが好きにアレンジして使うのが新鮮なので、趣向を凝らしながら楽しんでもらいたいです。
お知らせ
SeeSew projectでは、今回ご紹介したデータで作った「みなさんのお守りのエピソード」を募集します。大切な誰かを想って作られたお守りについて、ぜひお話をお聞かせください。 ご応募いただいたエピソードの中から、いくつかをSeeSew Project内でご紹介させていただきます。
■募集期間:2022年12月30日(金)まで
■応募条件:atsumiさんデザインのお守りの刺しゅうデータを用いて作成すること
- ・応募いただいた作品写真、エピソードはSeeSew Project内でご紹介させていただくことがございます。
- ・ご紹介する作品・エピソードの中から、「atsumiさん賞」「ブラザー賞」をそれぞれ1名ずつ選ばせていただきます。atsumiさん賞受賞の方には、atsumiさんの手刺しゅうの作品を、ブラザー賞の方にはミシン刺しゅうに役立つ嬉しいアイテムをプレゼントいたします。
また、その他のご紹介させていただいた方には、atsumiさん監修の刺しゅうアイテムをプレゼントいたします。
text:藤枝梢 photo:中矢昌行
Designed by atsumi
atsumiさんがデザインした新たな刺しゅう模様のダウンロードは、「ハートステッチズ」からダウンロード可能です。
※会員登録後、有料での販売となります。
刺しゅうを知る、楽しむ、新しいきっかけを
刺しゅうはきっと、普段の生活に関わるもののなかにひとつはあって、一度は触れたことがある、とてもありふれたもの。しかし、時に記憶の奥深くに残ったり、ものに対する想い入れを強くしたりもする、ちょっと特別なものでもあります。
どうして刺しゅうに惹かれたの?
SeeSew projectは、刺しゅうの作品をつくったり、ライフスタイルに取り入れたりしているクリエイターの方々にそんなことを聞き、改めて刺しゅうがもつ魅力を探るために立ち上げたプロジェクトです。幼い頃にお母さんからもらったもの、お子さんに施してあげたもの、親しい人からプレゼントされたもの。あなたの身近にありませんか?SeeSew projectで話をうかがった方々は意外と、何気ないことを機に刺しゅうに魅了されているようです。