Story 001
atsumi
手刺しゅうでは難しいものだからこそ、
ミシンで刺しゅうを。
Feb 20, 2020
刺しゅうデータをダウンロードできるサービス「ハートステッチズ」に刺しゅう作家atsumiさんがデザインした新しい模様が加わりました。お花模様が女性の顔の上に冠のように施された彩り豊かなものとお裁縫をするのに欠かせないソーイングツールを図案化した模様です。2つの模様が生まれた背景についてやatsumiさんが考えるミシン刺しゅうならではの魅力についてもお話を聞きました。
—— 2つの図案はどのようにして生まれたのでしょうか。
parieができる時に内蔵模様のデータデザインをさせてもらったのですが、その中にモノクロの鉛筆や定規などを組み合わせた筆記用具の図案があるんです。お裁縫好きの方が使うのに手芸道具のような図案はデザインしていなかったな、と思って。シンプルで使いやすい図案だと思うので、ソーイングツールのものをつくろうと決めて、道具を選んでイラスト(写真上から1枚目)に起こしました。
もう一つは、私が刺しゅうミシンを使うようになって、手ではなくミシンだからこそできるステッチがあることに気づいたんです。例えばこのお花の中の網目のような部分は刺しゅうミシンならではだと思います。これほどの密度を手刺しゅうで施そうとするとかなりの時間がかかります。だからこそ、刺しゅうミシンらしいステッチを活かした図案をつくろうと考え始めました。
—— お花のモチーフは既存のものでもたくさんありますよね。どのようにして今回の模様にたどり着いたのでしょうか。
誰もが好きなモチーフだと思いますが、私にとってはかわいすぎるかなと思うものもありました。既存のものと差別化しながらミシンらしいステッチが生きるようなものをと考えていた時に、アトリエのテーブルの上に置いていた花器に目が止まったんです。名古屋にある知人のギャラリーで数年前に購入した、日本人作家さんによるものです。最近はドライフラワーを入れていますが、以前は生花を生けていました。表にも裏にも顔の表情があるのですが、こういうものってイラストだからこそ成立するんじゃないかなと思って、原画に起こしてみました。
—— 色合わせはどのように決めていったのでしょうか。多色使いで華やかさがある一方で、柔らかなトーンにまとまっているのでどんな生地にもなじみやすそうな印象を受けます。
ミシン糸には限られた色の制約があるので、その中でできるものというのが基本です。私の手刺しゅうの作品を支持してくださる方は、色合いが好みだと言ってくださる方が多いんです。年齢層も幅広いので、どんな方でも抵抗感なく受け入れやすいようなものをと考えました。刺しゅうが映えるように、生地に対してどう見えるかという部分は気にかけながら選んでいきます。
ミシンの良さの一つとして、自分の好きな色でアレンジできるというところがあります。必ずしも指定の糸通りにする必要はないんです。だから、特定の誰かに向けて色合わせを考えるのではなく、自分が好きな色を選びました。普段作業をするアトリエ内にも、古い洋書やポスター、道具など少し色褪せた雰囲気のアンティークのものが多いので、そういった場所にもなじむような色合わせを心がけました。
—— atsumiさんは刺しゅうミシンを使い始めてどのくらい経ちますか?
2017年12月のparie発売時から使っているので、3年目です。刺しゅうデータをつくらせてもらっていることもあって、ミシンらしいステッチの面白さに気づきました。例えば、今回のお花の模様を手刺しゅうでやろうとすると、とても難しいと思います。手刺しゅうでできないものはほぼないのですが、私の感覚的にはこれは手でやる気になるかな…という感じですね。ミシンでは22分でできてしまうので、速さという意味では全然違いますよね。ちなみに、ソーイングツールは12分で完成します。そして、簡単に複製ができるところも魅力だと思います。
ミシンでは所要時間の他に、何針分縫うのかという総針数も表示されます。今回のお花の模様は8,000を超える針数です。友人に言われて気づいたのですが、自分の過去の刺しゅう作品を振り返るときっと万単位の針数もあるんですよね。もちろん刺す時は全くそんなことは考えていません(笑)。昨年出版した『刺繍博物図』の表紙作品も相当な針数だと思います。
—— atsumiさんが影響を受けている作家さんや本についてもお話を聞かせてください。
画家のパウル・クレーが好きです。10年以上前にスイスにあるパウル・クレー・センターに行った時に、この本に出ているパペット(写真上から6枚目)が飾ってあったんです。使い古したような布の使い方やラフな雰囲気もすごくいいなと思って。顔のあるものが結構好きなんですよね。クレーの画集はよく見かけるのですが、パペットが出てくる本がなかなか見つからなくて。ずっと探していて、最近やっと神保町の古本屋さんで見つけました。私自身は人形は今までつくったことはないのですが、つくりたいなとも思っています。映像の仕事にも興味があるんですよね。
他にもインドネシアのテキスタイルを紹介したものやスイスの民芸についての本が最近のお気に入りです。どちらもいただいた本なんです。紋章のようなモチーフも好きですし、木の彫り物などは模様のヒントになりますね。
古本屋さんにはよく足を運びますし、古書は偶然出会った感があって好きです。海外の古い本には、表紙の裏などにメッセージが入っているものもあります。本を贈る文化があるからだと思うのですが素敵ですよね。
—— 「布博 in 名古屋」ではparieの刺しゅうを体験できるワークショップをされるんですよね。
brotherさんとワークショップを始めたきっかけは、parieです。最初はデモンストレーションのみで、来てくださった方は実際に刺しゅうミシンが動いているのを見ているだけでした。やっぱり体験してほしいなという思いがあって、以前横浜で開催した「布博」の時にワークショップをさせてもらいました。parieを触ったことがない方にぜひ参加してほしいですし、刺しゅうミシンの楽しさを味わってほしいです。
text:高山かおり photo:中矢昌行
atsumiさんが「布博 in 名古屋」で
ワークショップを開催!
「parieでミシン刺繍体験」と題し「布博 in 名古屋」が開催される2/22(土)・23(日)の両日ともに、parieを実際に使ってサコッシュにワンポイント刺しゅうを施してもらうワークショップを行います。この度atsumiさんが新しくデザインした模様もいち早くお試しいただけますし、刺す糸もお好みに合わせて変更することができます。刺しゅうを入れたサコッシュを持ち帰って、自宅で追加で手刺しゅうを入れるのもおすすめです。
詳細はこちらから
atsumiさんがデザインした新たな刺しゅう模様のダウンロードは、「ハートステッチズ」からダウンロード可能です。※会員登録後、有料での販売となります。
刺しゅうを知る、楽しむ、新しいきっかけを
刺しゅうはきっと、普段の生活に関わるもののなかにひとつはあって、一度は触れたことがある、とてもありふれたもの。しかし、時に記憶の奥深くに残ったり、ものに対する想い入れを強くしたりもする、ちょっと特別なものでもあります。
どうして刺しゅうに惹かれたの?
SeeSew projectは、刺しゅうの作品をつくったり、ライフスタイルに取り入れたりしているクリエイターの方々にそんなことを聞き、改めて刺しゅうがもつ魅力を探るために立ち上げたプロジェクトです。幼い頃にお母さんからもらったもの、お子さんに施してあげたもの、親しい人からプレゼントされたもの。あなたの身近にありませんか?SeeSew projectで話をうかがった方々は意外と、何気ないことを機に刺しゅうに魅了されているようです。