Interview 007
Saki Obata
自分の体験や想いから出てくる、
発想を活かしたものづくり。
May 8, 2018
刺しゅうの魅力や惹かれた理由を聞く連載インタビュー。第七回目は、何気ない風景のひとコマを線画で描き出すイラストレーター小幡彩貴さんが登場。小幡さんがデザインしてくれた刺しゅう模様も、このページの最後に紹介していますので、是非あわせてチェックしてみて下さい。
——小幡さんのイラストは、独特なタッチとどこかで見たよう風景が魅力だと思うのですが、イラストのイメージはどういうところから出てくるんでしょうか?
いつもの日常生活のなかから描きたいと思ったものを題材にすることが多いですね。午後の日差しが入る窓辺でカーテンが揺れている様子とか、冬の朝、やかんから湯気が出ているところとか。本当に何でもないシーンなんですけど、季節によって見え方がぜんぜん違うんです。
四季をテーマに描くことが多いんですが、そうした季節ごとの何気ない風景を絵にすることが自分の作品では多いですね。すぐに描かないと忘れてしまうので、その時の自分の“記憶の記録”を取っている感じなんです。
―—小幡さんの見た風景を描いているんですね。
はい。思い出を写真に撮っておく、という感覚に近いというか。自分の中に思い浮かんだ風景をかたちにしてみたくて。このカーテンの光の射し方や光の揺れ方に、その瞬間、ほかの誰かもきっと心を動かされている人がいるんじゃないか。そう思って、発信し続けています。
—— イラストレーターになられるきっかけはInstagramだったそうですね。
以前はエディトリアルデザインをしていたのですが、イラストレーターになるとはまったく思っていませんでした。あくまでもイラストは趣味のひとつで、仕事にするとは思っていなくて。仕事を辞めると決めたころから、Instagramにらくがきしたイラストをアップし始めたら、それを見た方からお仕事をいただくようになったんです。あるときは、Tumblrにアップした一枚の絵が注目されたこともありましたね。
当時、住んでいた家の近くで見た光景で、満開の桜の下にいた高校生のカップルを描いたものなんですが、ビニール傘に桜の花びらがくっついているのがすごくきれいだなと思ったのを覚えていて。記憶のなかの風景に演出を少し加えて、その時の印象がより際立つよう、エモーショナルに描いています。
――モノクロなのには、何か理由があるのでしょうか?
もともと漫画を描きたいというのがはじまりで、Gペン(インクをペン先につけて使う、いわゆるつけペン。漫画を描く際に用いられることが多い)を使ってイラストを描きはじめました。父が昔、印刷業をやっていたので、スクリーントーンをもらってきては自分で切って貼ったりするのが小さい頃から大好きで。それが原体験になっているのかもしれません。
漫画家の高野文子さんもシンプルな絵やひとコマからいろいろ伝わってくるものがありますし、日本画家の小村雪岱(せったい)も、白と黒でこんなにかっこよくできるんだと、とても影響を受けました。色を加えずに情報を削ぎ落としていくと、むしろ想像してもらえる幅が増えているのかもしれないです。
——小幡さんの線画のイラストはシンプルなので、刺しゅうのモチーフにもしやすそうですね。
幼稚園の頃、お弁当や着替えを入れる布ものグッズにミシン刺しゅうで名前を入れてもらっていたんです。ひらがなで「おばたさき」と名前のあとに、女の子の絵が必ず入っていて。今でもその刺しゅうは覚えています。自分のものには全部刺しゅうが入っていたから、それを見ると、「自分のものだ!」と感じていたんですよね。刺しゅうって、それだけで上等なものに見えるというか、さりげないのに存在感があるというか。
——小さくても記憶に残る刺しゅうというのは、小幡さんのイラストの世界にも通じる気がします。
イラストを見た方に「懐かしい感じがする」とよくいわれるんです。きっといろいろな方の思い出に重なるところがあるのかなって。懐かしいと思った風景とか感情をイラストにしてみた時に、同じような気持ちが蘇るのか、それを自分で見てみたくて、作品を描いているのかもしれません。
text:大隈祐輔 photo:山田薫
小幡彩貴
2009年桑沢デザイン研究所総合デザイン学科卒業。2010年~2014年有限会社ナノナノグラフィックスにてグラフィックデザイナーとして勤務の後、現在フリーランスのイラストレーター・グラフィックデザイナーとして活動中。『美術展の手帖』(小学館)の装画・挿絵や、その他雑誌、書籍等でもイラスト、デザインを手掛けている。個人作品では季節をテーマにイラストを描いており、作品集『季節の記録 Records of the Seasons』がある。
Creator’s Motif
Designed by Saki Obata
どんな子でも取り入れやすい
ワンポイント刺しゅう
「誰かのようで、誰でもないようでもある男の子と女の子。どんな子でも使って頂ける、そんなマークになればいいなと思い、描き下ろしました」
この小幡彩貴さんがデザインした刺しゅうデータは、刺しゅうダウンロードサービス「ハートステッチズ」からダウンロード可能です。※会員登録後、有料での販売となります。
刺しゅうを知る、楽しむ、新しいきっかけを
刺しゅうはきっと、普段の生活に関わるもののなかにひとつはあって、一度は触れたことがある、とてもありふれたもの。しかし、時に記憶の奥深くに残ったり、ものに対する想い入れを強くしたりもする、ちょっと特別なものでもあります。
どうして刺しゅうに惹かれたの?
SeeSew projectは、刺しゅうの作品をつくったり、ライフスタイルに取り入れたりしているクリエイターの方々にそんなことを聞き、改めて刺しゅうがもつ魅力を探るために立ち上げたプロジェクトです。幼い頃にお母さんからもらったもの、お子さんに施してあげたもの、親しい人からプレゼントされたもの。あなたの身近にありませんか?SeeSew projectで話をうかがった方々は意外と、何気ないことを機に刺しゅうに魅了されているようです。