Interview 004
Lemmikko
仕事でも私生活でも、
誰かのために刺しゅうがしたい。
January 17, 2018
刺しゅうの魅力や惹かれた理由などを聞く連載インタビュー。第四回目は、ランウェイや銀幕、はたまたCMなど、様々な舞台で使われる華やかな衣装を刺しゅうでさらに彩るアトリエ、レンミッコを主宰している柴田士郎さんと小川明子さん。二人がデザインしてくれた刺しゅう模様も、このページの最後に紹介していますので、是非あわせてチェックしてみて下さい。
―― はじめにお二人が出会い、レンミッコ結成に至るまでの経緯をお教え下さい。
私たちがまだ20歳前後だった1999年に、渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで『パリ・モードの舞台裏』という展覧会が行われて、別々に観に行っていたんです。そのタイトルの通り展示されていたのは、表舞台でスポットを当てられるファッションではなく、それを裏でつくりあげている人びとと作品。そこでフランソワ・ルサージュという、イヴ・サンローランやクリスチャン・ディオール、ジャンポール・ゴルチエといった、名だたるメゾンから絶大な信頼を受けていた刺しゅう職人の世界にはじめて触れて衝撃を覚えたんです。彼のオートクチュール刺しゅうによって、従来の概念が覆されたというか……。
それからエコール・ルサージュというルサージュが培ってきた技術を学べる学校がパリにあることを知り、入学して柴田と出会い、職人としてモードシーンを支えたいという想いがお互い共通していたので、帰国した後の2004年にレンミッコを立ち上げたのが大まかな経緯ですね。(小川さん)
極端ないい方をしてしまうと、エコール・ルサージュは穴が開けられて糸で留めることができれば、どんな素材を使ってもいいと教えてくれました。ルサージュと出会うまでは、刺しゅう=糸だけでつくられるものというイメージにとらわれていたんですが、こんなに大胆に、かつ自由にやっていいんだと驚きを覚えたんですよね。
洋服のデザイナーさんに見せるためのレンミッコの刺しゅうサンプルがあって、それを見て頂ければわかると思うのですが、レザーやウッドチップなどの異素材と思われるものも利用しながら、立体的に構成をしているんです。ただ、奇抜さを追及しているわけではなく、あくまで主役であるベースの洋服と馴染むかが肝心なので、デザイナーさんの様々な趣向に合うよう、実験を繰り返しながらサンプルのバリエーションを増やしていき、今に至っています。(柴田さん)
―― ルサージュと出会うまでは刺しゅうに興味はなかったのでしょうか。
追求したくなったきっかけはルサージュなんですが、幼い頃、叔母の手ほどきを受けながら少しだけやってはいましたね。(右写真 の)さくらんぼのものは小学校1、2年生くらいだったかな。当時、教会に通っていて、これは聖書を入れるためのカバーですね。花の模様が施されている方は小学校5年生のとき、夏休みの自由研究でつくったもの。
それと、牧場の風景が施されたものは、写真家だった祖父が森れいこさんという刺しゅうの大先生の作品集で写真を手掛けていたんですが、そのお付き合いで祖父がプレゼントされて、後に私が譲り受けた思い出深い作品です。すごく素朴でいいですよね。(小川さん)
―― 柴田さんも何か思い出の品などおもちですか?
以前、百貨店に出店していたときに出会ったおばあさんがいるんですけど、僕たちの仕事にいたく感動してくれたんです。その際、持ち物なのか作品なのかは未だに定かじゃないんですが、「こういうのがあるのよ」と、ビーズがたくさん施されたポーチ(右写真の一番下)を見せて下さったんです。
それから数年後、別の百貨店で同じく出店したらまたいらっしゃってくれて、今度は「もう施設に入るから、こういうものをいいと思ってくれる人にもっていて欲しい」といいながら、それを僕たちにプレゼントしてくれました。(柴田さん)
―― 刺しゅうによって色々な縁が繋がっているんですね。
確かに。私はレッスン(レンミッコはオートクチュール刺しゅうを学ぶことができるレッスンを行っています。詳細については「Profile」下に記載されているURLからご確認下さい)がメインになっていて、自ら刺しゅうをすることが少なくなってきてしまったので、暇さえあれば色んなものに手刺しゅうをするようにしているんです。食事をしながらとか(笑)。できたものは誰かにプレゼントしたりしていますね。
いつも誰かのために刺しゅうがしたいと、本能的に思っているのかもしれません。(小川さん)
text:大隈祐輔 photo:山田薫
Lemmikko
パリの老舗メゾンが手がけるオートクチュール刺しゅうに衝撃を受けた柴田士郎さん(写真左)と小川明子さん(右)が、パリ留学後に発足したアトリエ。「モードの裏舞台を職人として支え、刺しゅうの可能性を広めたい」という想いの元、糸に限らない斬新な素材と自由な発想を活かし、デザイナーの創造を具現化している。
Creator’s Motif
Designed by Lemmikko
アレンジしやすい、
エッジが立つモチーフ
「エッジが立つ蜂は、古くからある刺しゅうモチーフ。レンミッコもよく好んで使うものなので、今回採用しました。白のTシャツやシャツ、普段身に着けるシンプルな洋服にも施しやすいと思います。ポイントでラインストーンを置いたり、抜けている部分に色糸を足したりと、アレンジも楽しんで頂けるはずです」
この写真の洋服に施されているレンミッコさんがデザインした刺しゅう模様は、刺しゅうダウンロードサービス「ハートステッチズ」からダウンロード可能です。※会員登録後、有料での販売となります。
刺しゅうを知る、楽しむ、新しいきっかけを
刺しゅうはきっと、普段の生活に関わるもののなかにひとつはあって、一度は触れたことがある、とてもありふれたもの。しかし、時に記憶の奥深くに残ったり、ものに対する想い入れを強くしたりもする、ちょっと特別なものでもあります。
どうして刺しゅうに惹かれたの?
SeeSew projectは、刺しゅうの作品をつくったり、ライフスタイルに取り入れたりしているクリエイターの方々にそんなことを聞き、改めて刺しゅうがもつ魅力を探るために立ち上げたプロジェクトです。幼い頃にお母さんからもらったもの、お子さんに施してあげたもの、親しい人からプレゼントされたもの。あなたの身近にありませんか?SeeSew projectで話をうかがった方々は意外と、何気ないことを機に刺しゅうに魅了されているようです。