Interview 018
Cat’s ISSUE
絵本の出版をきっかけに改めて気づいた、
“もの”として残していくことへの想い。
September 18, 2020
刺しゅうの魅力や惹かれた理由を聞く連載インタビュー。第十八回目は、第九回目にもご登場いただいた、猫好きクリエイターが集まって始まったプロジェクト「Cat’s ISSUE」代表の太田メグさんに再びお話を伺いました。2019年に絵本を出版した太田さん。今回は、その絵本を元に太田さんがデザインしてくれた刺しゅう模様の活用例と合わせてご紹介します。
――絵本を制作されたきっかけについて教えていただけますか。
子どもが大きくなる前に何か一つ残してあげたいという気持ちがありました。幼い頃のことって結構忘れてしまいますよね。私も3、4歳の頃のことはあまり覚えていなくて。インスタグラムでほぼ毎日写真をあげているので振り返ることは簡単にできますが、絵やお話にしたりしてこの時期のことを残しておきたいという想いがあったんです。
私の学生時代の友人のお母さんが絵本作家さんで、友人の名前がついた絵本を描いていました。自分の名前がついている絵本があるなんていいなあと思っていた当時のことを思い出して、自分の子どもに向けて何かつくってあげたい想いが強まりました。
――ストーリーはどのように組み立てていったのでしょうか。
お話の最初と最後は実話です。実はドラマや映画の脚本家になりたかった時期がありました。私は美術大学出身なのですが、中学校の時から美大付属の学校に通っていたので自分の方向性は絵だとばかり思っていたんですよね。途中でお話をつくることを学びたいと思い、脚本の勉強をしました。その時の経験から、企業さんのプロデュースなどの様々なお仕事の際にもなるべくストーリーをつけるようにしています。今回は、インスタグラムへ投稿しているハッシュタグ「コムとセコム」で猫と息子の成長記録がある程度の数になったので、お話にしてみようかなと自然な流れでアイデアが湧きました。
イラストレーターとしては全然仕事をしていないですし、自分の作風があるわけではなかったので、絵は正直自信がなかったんです。普段は、方向性を決めたら企画に合ったイラストレーターさんやデザイナーさんに依頼して組み立てることが私の仕事です。自分で最初から最後まで全部やるのはこれが初めてでした。
――ページをめくるたびに色とりどりの絵が目に飛び込んでくるので、親子で楽しく読み進める姿が想像できます。
私は児童文学好きで、特に『エルマーのぼうけん』のような冒険に出るワクワクした感じがすごく好きなので、そういうのを描きたくて。お母さんが読み聞かせをする絵本にしたいと考えていたので、あえて漢字を使いルビを振りました。大人がすらっと読みやすい方が感情移入できるかなと思ったんです。
ストーリーとしては長い方かもしれませんが、「子どもがもう一回読んで!と言ってくれる」と読者さんからの声をいただいて自信になりました。後半のしっぽが見つかるシーンで踊るところがあるのですが、そこでみんなホッとして楽しい顔になるようです。読んでくださった方からいろいろな反応を聞ける機会も多いので嬉しいです。
――息子さんは絵本が完成した時どんな様子でしたか。
最初はキョトンとしていましたね。保育園の先生に小さいクラスで読んであげてくださいと寄贈したのですが、先生が息子のクラスで読んでくださったみたいで。私は恥ずかしかったのですが、息子はすごく嬉しかったみたいです。絵本は大変だったけどチャレンジしてよかったなと思いました。自分の夢だったことが叶ったといいますか。
もしコムちゃん(太田さんの飼い猫)がいなくなったとしても思い出すことができますよね。もちろん動画や写真はたくさんありますが、絵本など“もの”としてあることは強いと思います。データはなくなってしまう可能性もありますし。今回はしっぽを探すお話ですが、本当は他にも描きたいことがあるので二作目、三作目とつくり続けられたらなと思っています。
――今回デザインされた刺しゅう模様はどのようなイメージでつくったのでしょうか。
「Cat’s ISSUE」では今まで大人向けの猫グッズが多かったので、子育て世代の方やギフトにしたいという方への、子ども向けのものを増やしたいと考えていました。ものづくりをしているのでわかるのですが、刺しゅうって何百個というロットで大量に同じものを制作して誰かに買ってもらわないと、商品として成立させるのはなかなか難しいですよね。だからデータという形で届けられることはものすごく嬉しいことです。
絵本の表紙絵を含めて3つの模様をつくりました。絵本のテーマでもある「2人で一緒にいる」という見え方をさせたいと思っていたので、このモチーフ(写真上から5・6枚目)はテーブルに2人が座っているというイメージです。息子は2歳くらいから一緒に並んでごはんを食べるようになって、今もそうしているんです。コムタンだけというのもほしいと思ったので、絵本に出てくるチョウやワニなどの動物と一緒の模様もあります。
――太田さんならどんなものに刺しゅうしますか。
トートバッグやTシャツなど、シンプルなものの端にポンとあるだけでも可愛いかなと思います。穴が空いてしまったところへのアップリケとしても使いたいです。自分の子どもと猫のものなのでつけてほしいというのが恥ずかしくて、まだ客観視ができていないのですが(笑)。でも、「うちの子にそっくり」と言ってくれる方もいるんです。それは写真ではなく、イラストだからこそのことですよね。例えば、「うちの子に似ているから保育園のカバンにつけよう」と言ってくれたりするとすごく嬉しいです。
text:高山かおり photo:中矢昌行
Meg Ohta
Cat’s ISSUE 代表、ディレクター。溢れる猫への愛を抑えきれない猫好きクリエイターとともに、猫への“偏愛”を発信するプロジェクト「Cat’s ISSUE」で、展覧会や猫新聞を出版したり、POP-UP STOREでの商品販売や様々な猫企画のプロデュースを行う。利益の一部は猫の保護活動に支援している。2019年には、絵本「こむたんとぼくのすてきなしっぽ」を出版。
Creator’s Motif
Designed by Meg Ohta
太田さんがデザインした新たな刺しゅう模様のダウンロードは、「ハートステッチズ」からダウンロード可能です。
※会員登録後、有料での販売となります。
刺しゅうを知る、楽しむ、新しいきっかけを
刺しゅうはきっと、普段の生活に関わるもののなかにひとつはあって、一度は触れたことがある、とてもありふれたもの。しかし、時に記憶の奥深くに残ったり、ものに対する想い入れを強くしたりもする、ちょっと特別なものでもあります。
どうして刺しゅうに惹かれたの?
SeeSew projectは、刺しゅうの作品をつくったり、ライフスタイルに取り入れたりしているクリエイターの方々にそんなことを聞き、改めて刺しゅうがもつ魅力を探るために立ち上げたプロジェクトです。幼い頃にお母さんからもらったもの、お子さんに施してあげたもの、親しい人からプレゼントされたもの。あなたの身近にありませんか?SeeSew projectで話をうかがった方々は意外と、何気ないことを機に刺しゅうに魅了されているようです。