Report 003
Brother museum
“兄弟”たちと
その父が辿ってきた軌跡。
Sep 4, 2018
ブラザーは創業当時から独自の技術開発に注力し、蓄積した技術を駆使して事業の多角化を推進しながら、常に新しい市場を開拓し続けることで成長してきました。ブラザーミュージアムでは、ミシンそのものの成り立ちと、成長の過程を実際のプロダクトを鑑賞しながら追うことができます。今回はブラザーのルーツを振り返りながら、ミュージアムのなかの様子を少しだけ紹介していきます。
ミシンが世界で普及しはじめたのは、18~19世紀に起こった産業革命が皮切りでした。それ以来、衣服の大量生産がスタートし、欧米の企業がミシン製造に積極的に取り組むようになります。その企業のひとつが、おそらくみなさんがご存知のアメリカのシンガーです。発展の真っただ中の1860年、日本の幕府は日米修好通商条約の批准書交換のため、はじめて遣米使節をアメリカへ派遣します。その際に使節団員のひとり、ジョン万次郎がシンガーのミシンを持ち帰ってきたことによって、日本でも知られていくようになりました。幕末の日本人が最も衝撃を受けたのが、いわずもがなの黒船の存在。それを機に、幾人かの日本人の心に欧米の機械文明をもっと見てみたい、日本にも根づかせたいという気持ちが沸くようになりました。しかし、大きな蒸気機関を持ち帰ることは当然、難しい。そこで最新の技術が凝縮されているミシンが選ばれたのです。
知られるのと同時に、ミシンは洋服や帽子の製造にどんどん取り入られるようになり、一気に日本にとっても欠かせない存在になりました。しかし、ある根本的な問題が起きます。それは、故障を直せる専門の人がいない、修理部品がない、ということ。そのため当初、手先が器用な職人が部品を手づくりし、直していました。その職人のひとりが安井兼吉。ブラザーの創業者、安井正義の父です。修理の依頼は予想をはるかに超え、やがて兼吉は独立。1908年に安井ミシン商会を設立し、店を出すことを決意します。
開業したものの、兼吉はあまり身体が強い方ではなく、多忙のせいで体調が徐々に悪化してしまいます。正義はそんな父親の助けになりたいと、幼いころから仕事をよく手伝っていました。そうするうちに、正義は外国製のミシンしかないことに疑問を抱くようになります。
1925年、兼吉の死去により安井ミシン商会は青年になった正義に継承され、正義は弟と共に国産ミシンの製造を志すようになりました。当時はまだ誰もやっていない未開拓の分野。しかも、莫大な資金が必要だったため、国産化は困難だといわれていました。そこでまず、当時主流だった麦わら帽子の製造に欠かせない水圧気をつくり成功をおさめます。縫い上げたあとの麦わら帽子はくしゃくしゃの状態。その状態に熱と圧力を加えて形を整えるためのものとして、その水圧気は使われました。そこで得た資金を元にミシンの製造を開始し、1928年に念願が叶い、国産ミシン第一号となる昭三式ミシンという麦わら帽子製造用環縫ミシン(写真上から5番目)が誕生します。つけられたブランド名は“ブラザー”。兄弟が力をあわせてつくったことの証として、そう名づけられ、現在に至ります。
それから、ブラザーは多角的に発展していきます。1950年代以降、ミシンに搭載されるようになったモーターを活かして洗濯機や掃除機、扇風機などを開発。1970年代にアメリカのセントロニクス社と共同で小型コンピュータ向けのドットプリンターをつくり、その知識をミシンにも採用しジグザグに縫うことができる電子ミシンを生み出し、刺しゅうミシンはその進化版として1991年に誕生しています。
今ではミシンはブラザーが扱っていうプロダクトのひとつに過ぎないかもしれません。しかし、すべては兼吉の未知の舶来品だったミシンを直すという挑戦から、歴史ははじまっており、それは今なお息づいているのです。
text:大隈祐輔 photo:中矢昌行
Information
ブラザーミュージアム
入館料:無料
開館時間:10:00~17:00 ※水曜日のみ 10:00~19:00
休館日:日曜日・祝日・ゴールデンウィーク・夏期連休・年末年始
住所:名古屋市瑞穂区塩入町5-15
現在、幻のブラザー製品が展示されている特別展「ブラザー110周年企画展」開催中。開館日であれば、いつでもご自由に見学いただけます。ご予約の必要はありません。ただし、団体(11名以上)および学校行事でのご見学は、事前予約をお願いいたします。
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