Interview 001
atsumi
刺しゅうの一番の魅力は、
話の種や思い出になること
November 20, 2017
刺しゅうの魅力や惹かれた理由などを聞く連載インタビュー。第一回目はブラザーの新商品、parieに内蔵されている刺しゅう模様を提供してくれた、刺しゅう作家のatsumiさん。
―― どうしてatsumiさんは刺しゅう作家になろうと思ったのですか?
元々は美術大学でグラフィックデザインやインタラクティブなデザインを学んでいたんです。パソコンを使った平面の表現ですよね。でも段々とやっていくうちに、テクノロジーの進化を追っていくことに限界を感じるようになってしまって……。
自分がおばあさんになったときもまだこれやれてるかな、好きでいられるかな、と思っちゃったんですよね。それで、糸口を探すように色んなことに挑戦するようになって、そのひとつが刺しゅうだったんです。特に大きなきっかけがあったわけではないんですけど、やってみたら楽しかったし、これなら続けられるな、と。
大学を卒業したあとは、アパレルメーカーに勤めたり、母校で助手をしたりしながら、同時に作家活動も続けていて、およそ8年前から刺しゅう作家でやっていこうと決めました。
―― 大学入学時とは真逆ともいえる道に進んだわけですね。
確かにそうですね。例えば工芸から醸し出される言葉にできない力ってあるじゃないですか。ものすごくシンプルで緻密な作業を経て、できあがった物の魅力に気づいた瞬間があったんですよね。私もその姿勢に倣って仕事がしたいと思って決意したんです。
でも、最近は何かをつくって欲しい、と依頼されてつくることが多くなってきていて、そういった場合、求められることと自分の趣向をどうやってミックスさせるかをきちんと考えて進めないといけないんです。そういう意味では、商材をよりよく見せるデザインの考え方を学んでいてよかったなと感じています。
―― 刺しゅうに触れた原体験にあたる物や出来事ってありますか?
幼い頃、母が身のまわりの物を色々とつくってくれていたんですけど、一番よく覚えていて、今でも残しているのがコップ入れ。チェックの布地に私の名前が刺しゅうされていて。可愛いですよね。それからしばらくの間は刺しゅうが施された物をもっていなかったと思うんですが、大人になってから海外に旅行に行った時、至るところで手刺しゅうの作品を見かけたんです。それに自然と惹かれていた自分がいたんですよね。
以前、アートディレクターの葛西薫さんのトークショーを聞きにいった時、「時間をかけてつくられた物って、そのぶん、ずっと見ていられる」とおっしゃっていて、その言葉がすごくしっくりきたんです。だから、一本一本の糸で丁寧に施されていった刺しゅうって素敵なんだな、と。
それから、刺しゅうに意識が向くようになって物の買い方も変わりましたね。食べ物でも置き物でも、つくり手が見えることを大切にしたいなって思うようになったんです。
―― 今、atsumiさん考える刺しゅうの魅力を教えて下さい。
何かをしながらでもできるっていう気軽さがありますよね。あと、話の種や思い出になると思うんです。お母さんが刺しゅうをしている工程をお子さんが隣で見ていたりすることもあるかもしれないし、大切な人へのプレゼントに特別な刺しゅうをすることもあるかもしれない。物を買って渡すだけだったら、すぐ終わっちゃうけど、刺しゅうだったら時間や背景を共有できる。そこが一番魅力的なことかな。
刺しゅうは歴史が長いし、世界中にある物だから、同じ糸を使っていても、手順や呼び方がたくさんあるんです。でも、そういうことにとらわれる必要はなくて、好きなようにまずはやってみるといいと思います。取っ掛かりとして刺しゅうミシンは最適で、それで色々と試していけば、自ずとここをこうしてみたいなっていう欲が出てきて、手刺しゅうもやってみようという気持ちがわいてくるはず。
はじめは難しいと思うかもしれませんが、慣れてくればペンや絵筆のように自由に縫えるようになるので、臆せず挑戦してみて下さい。
text:大隈祐輔 photo:清水将之
atsumi
刺しゅう作家。多摩美術大学卒業後、アパレルメーカー、同大学に勤務ののち刺しゅう作家としての活動をはじめる。刺しゅうをベースとした作品で個展を開催するほか、異素材を扱う作家・企業とのコラボレーションワークやアニメーションへの素材提供・装画制作、ワークショップなどの活動をしている。著書に『刺繡のエンブレム』(2011年)、『ことばと刺繡』(2013 年)、『刺繡のエンブレム AtoZ』(2016 年、以上は文化出版局)『刺繍のいろ』(2014 年、BNN 新社)、『刺繡のはじめかた』(2016年、マイナビ出版)などがある。
About parie
atsumiさんがデザインした刺しゅうが縫えるミシン
parie(EMM1901)
オープン価格
刺しゅうを知る、楽しむ、新しいきっかけを
刺しゅうはきっと、普段の生活に関わるもののなかにひとつはあって、一度は触れたことがある、とてもありふれたもの。しかし、時に記憶の奥深くに残ったり、ものに対する想い入れを強くしたりもする、ちょっと特別なものでもあります。
どうして刺しゅうに惹かれたの?
SeeSew projectは、刺しゅうの作品をつくったり、ライフスタイルに取り入れたりしているクリエイターの方々にそんなことを聞き、改めて刺しゅうがもつ魅力を探るために立ち上げたプロジェクトです。幼い頃にお母さんからもらったもの、お子さんに施してあげたもの、親しい人からプレゼントされたもの。あなたの身近にありませんか?SeeSew projectで話をうかがった方々は意外と、何気ないことを機に刺しゅうに魅了されているようです。