Interview054

Aoi Miyazaki

aoimiyazaki

人のために刺すことが好き。
刺しゅうに想いが込められ、一層楽しいものに。

April 19, 2024

刺しゅうの魅力や惹かれた理由を聞く連載インタビュー。俳優として様々な作品に出演するかたわら、刺しゅうなどのものづくりにも熱心に取り組んでいる宮﨑あおいさん。今回は、以前から親交の深い刺しゅう作家のatsumiさんとの対談形式で、暮らしへのものづくりの取り入れ方や、今まで作った刺しゅう作品についてお話を伺いました。


ーー宮﨑さんが刺しゅうを始めるようになった経緯を教えてもらえますか。

宮﨑:昔から編み物など自分の手を動かしてものを作ることが好きで、その延長線上に刺しゅうもありました。刺しゅうを始めたのは12、3年ぐらい前で、当時描いていた絵を立体にできたら楽しそうだなと思ったのがきっかけです。ぐるぐるした小さい渦巻をたくさん刺して、木をイメージした作品を作りました。

ーー刺しゅうのやり方は何かで勉強されたのでしょうか。

宮﨑:atsumiさんの本の解説を読んで、ステッチの基本を覚えました。本屋さんで刺しゅう本を探していたら、atsumiさんの本に一目惚れして!色使いや個性的な図案がとてもかわいくて、atsumiさんの著書は全部買いました。

ーー刺しゅう以外のものづくりもよくされるとのことですが、他とは違った刺しゅうの魅力はありますか。

宮﨑:通年でできるところです。編み物は毛糸を使うのでやはり冬のイメージが強いですが、刺しゅうなら1年中できますし、道具も少ないので、移動時間や待ち時間のタイミングでできるのも嬉しいです。袋状のものに刺しゅうをしているときは、その中に刺しゅう道具を入れて持ち運んでいて、それだけでどこでも行けるので便利ですね。ちょっとでも空いている時間があればやっていました。刺しゅうができるので、撮影の待ち時間も大好きです。

atsumi:聞いた話で面白かったのが、あおいちゃんは夢中になるといかに快適にできるかを突き詰めるから、夜に刺しゅうをするときはキャンプ用のライトを頭につけてやっていたって(笑)。そんな姿世の中の誰が想像するだろうって笑っちゃいました。

ーー宮﨑さんとatsumiさんはこれまでも何度か対談などされていますが、知り合ったきっかけは何だったのでしょうか。

宮﨑:以前、「あさイチ」という番組に出演した際に、刺しゅうしているところを見せてくださいと言われ、atsumiさんの図案を刺したんです。それがatsumiさんの耳にも入っていたようですが、私はただただatsumiさんのいちファンでした。

atsumi:「あさイチ」の話を聞いて、慌ててテレビを録画した記憶があります。それからちょっとして「あおいちゃんの30歳の誕生日プレゼントとして、刺しゅうをオーダーしたい」とマネージャーさんから連絡をいただきました。寝る前にメールチェックしたらそのメールが届いていて、「どうしよう?何て返そう?」となって3時ぐらいまで寝れませんでした(笑)。こちらがそのとき作ったもので、名前をもとに似顔絵にする「なまえかお刺しゅう」の作品です(写真上から2枚目)。この頃のあおいちゃんは前髪が長かったのですが、「らしさを出すには前髪が短い方がいい」といったやり取りをマネージャーさんとずっとしていて。私の「なまえかお刺しゅう」はアルファベットという少ない要素でもなんとなく似せるのを大事にしていて、この作品はよくできた方だなと自分でも思います。

宮﨑:マネージャーさんが頼んでくれたことも、atsumiさんが作ってくれたことも、すべてひっくるめてみんなの想いが感じられてとても嬉しかったです。ずっとインスタグラムで見ていたので、「自分の似顔絵だ!」と興奮しました。それから実際にお会いし、こうやって対談に呼んでいただいたり、一緒に刺しゅうをさせていただくようになりました。

ーー今まで宮﨑さんが刺しゅうした作品を見せていただけますでしょうか。

宮﨑:お嫁に行ったものが多いので自分の手元にはあまり残っていないのですが、気に入った図案があると何度も刺すことが多いです。このクロスの図案(写真上から3枚目の右下)もとても好きで何度も刺しましたし、フレンチノットにはまっていたときはアフロの人の図案ばかり刺していました。もう何人生み出したか覚えていないぐらい。でも私のフレンチノットはパンチパーマみたいなギュッとした感じになってしまって、atsumiさんの作品を見たときに「こんなふわっとした髪の毛だったんだ」と思いました。本で見ているだけだと違いが分からなかったので、実物を見られて感動した記憶があります。

あとは、刺しゅうにすることで言葉がストレートに伝えられる感じがするので、文字の刺しゅうもよくやります。この「MERCI」の図案(写真上から3枚目の右上)は樋口愉美子さんの図案ですが、atsumiさんの『ことばと刺繍』に載っている、様々な言葉の刺しゅう作品もすごく好きでした。

ーーatsumiさんの図案のどのようなところに惹かれますか。

宮﨑:色々な図案がある中でも特に、atsumiさんが描く女の子の脚と腕の健康的な感じとかが好きです。この膝の感じとか絶妙じゃないですか?(写真上から4枚目)なわとびの色が交互になっているのもかわいいですよね。atsumiさんの「ぬりえをするように刺しゅうする」シリーズは図案が生地にプリントされているので、図案を写すことが億劫なときでも気軽にできるし、初心者の方でも始めやすいのではないでしょうか。刺しゅうする上で、図案を綺麗に写せるかどうかは重要なポイントだと思っているので、元からプリントされていると最初のハードルが少し低くなるように感じます。

atsumi:でも、この図案は自分で写しているよね?

宮﨑:本当だ!このときの私よくやりましたね!こういうキットで売っていたんだと思っていました(笑)。最近は何かの図案ではなく、子どもが描いた絵を刺しゅうすることが多いです。紙に描いた絵を写したり、そのまま布に描いてもらうこともあります。自分の好きな図案を時間をかけて刺す時間はなかなかないので、隙間時間を見つけてという感じですね。

ーーatsumiさんから見た、宮﨑さんの刺しゅうの魅力や宮﨑さんらしいなと思うポイントはありますか。

atsumi:集中力が高いので手が早いし、綺麗ですね。小指を含め全部の指を上手に使っていて、糸を引くときの手さばきがやっている人だなと感じます(写真上から5枚目)。あとは、自分の好きな色に変えてみたり、刺すという単純な作業だけでなく色使いなども楽しんで刺しゅうしているというのが伝わってきますね。今まで一緒に刺しゅうする以外に、織りの体験などにも行ったことがあるのですが、ものづくりをしている人への敬意があって、そういうあおいちゃんの姿勢に私も刺激をもらっています。

ーーお互いにいい影響を与え合っているのですね。宮﨑さんにとって、思い出に残っている刺しゅうを教えてください。

宮﨑:妹の20歳の誕生日のときに、50枚ぐらいのハンカチに刺しゅうをしたことです。お祝い用の動画制作に協力してくれた方たちや、当日パーティーに来てくれた方たちに、お礼としてプレゼントしました。モチーフも全部バラバラにしたかったので、好きな画像を見つけたら保存し、スマホの上にハンカチを載せそのまま写したりもしていました。50枚という量もそうですが、全部の図案のどこかに年齢の20という数字を入れるようにしたのでそれも大変でしたね。当時は新幹線移動が多い時期だったので、何カ月間もかけて移動時間でコツコツと作りました。大量生産したというのも印象深いですし、人のために刺すのが好きなので、想いがのった刺しゅうは楽しいということもあり心に残っています。随分前のことですが、そのハンカチをまだどこかで誰かが使ってくれていたら嬉しいです。

ーー手刺しゅうだけでなく、ミシン刺しゅうもされるそうですが、始めたきっかけは何だったのでしょうか。

atsumi:私のデザインした刺しゅうデータが内蔵されているミシンができたときに、一緒に家でやってみたんです。その後、私があおいちゃんに使ってみてって同じ型のミシンを送りつけました(笑)。

宮﨑:いただいたミシンを使ってみたら、とても気に入って。ちょうど現場に入ったタイミングだったので、スタジオに持ち込んで隙あらば色々な図案をやっていました。かわいい図案がたくさん入っているので選ぶのも楽しいですし、ガタガタとミシンが進んでいくのを眺めているのも面白いです(写真上から6、7枚目)。手で刺す楽しみも知っているので、ミシン刺しゅうをずっとしていると手刺しゅうがしたくなることもありますし、その反対もあります。両方やっているからこそ、それぞれのいいところを感じられて、どちらも楽しんでいます。

ーー刺しゅうやものづくりをしていることが、役者のお仕事に活かされたと感じることはありますか。

宮﨑:昔はちょっと人見知りなところがあったので、撮影現場でも周りの方とコミュニケーションをとるのがあまり得意ではありませんでした。でも刺しゅうをしていると話しかけてくれる人がいて会話が生まれたり、コミュニケーションツールのひとつとして、刺しゅうが助けになってくれていました。

atsumi:最初に会った頃、人見知りと言っていたのをすごい覚えています。私と喋っているときもちょっと赤くなったりしてかわいいなって(笑)。

宮﨑:今は誰とでも話せるようになりました。あとは、お芝居の中で刺しゅうや編み物をやるシーンがあったときに、自然にできる自信はありますね。

ーー今後、宮﨑さんの中で何かやってみたいことはありますか。

宮﨑:かなり違うジャンルになるのですが、最近はハーブとかオイルが気になっていて、できるかぎり自然なもので健康になれる方法を勉強したいと思っています。いかに健康に、元気に楽しく生きられるかが大事なので。

刺しゅうなどのものづくりは、今後も永遠に続けていきたいです。本当は自分で図案も描いてもっと自由に刺しゅうできるようになったらと夢見ているのですが、こればっかりは努力ではどうにもならないところもあるので、atsumiさんにどんどんかわいい図案を考えてもらいたいですね(笑)。

text:藤枝梢
photo : 中矢昌行
stylist:藤井牧子
clothes:NATIVE VILLAGE
accessories:mamelon
hair & make:スズキミナコ

取材後記

あおいちゃんと初めてお会いしたのは、彼女が30歳のお誕生日を迎えた少し後のこと。その前から大好きな俳優さんで、凛とした佇まいとチャーミングさが絶妙なバランスで共存していてかわいいなぁ、綺麗だなぁっと画面越しに見つめていました。そんな彼女がわたしのことを知ってくれていて、本を買って刺しゅうをしていることを知りました。

当然、周りに自慢します。いつか会えるかなぁなんて、半分冗談、半分は願いながら暮らしていた中でマネージャーさんから突然のメール。嘘?!っと驚きながらも信じたい気持ちが勝って、どうしようどうしようとその日はなかなか眠れませんでした。そんな間接的な出会いでも充分に嬉しくてありがたいのにお会いできる機会に恵まれ、まさかまさか一緒に刺しゅうしたり、ごはんを食べたりすることになるなんて。わたしの人生に、こんな大事件が起こるなんて想像もしていませんでした。正直、今でも会うたびにドキドキしています。それほどに魅力的な方なのです。

まだまだわたしの興奮を書き連ねることはいくらでもできるのですが、あおいちゃんと出会ってさらにわたしの刺しゅう人生が彩りを増したと感じることについて話を移すと、彼女の集中力や向上心が大きな刺激をくれています。まずは、刺しゅうする佇まいの美しさ。所作も姿勢も美しい。

日の浅い作家よりもたくさん刺しゅうをしている彼女から、『ここがうまくできない』と質問をもらったり、どうしたらもっと綺麗に刺せるのか試行錯誤する姿を見せてもらったり、本の感想をもらったりすることで、刺しゅうはもちろん関わる全ての物事への向き合い方にハッとさせられ、子どものように熱中する姿に、初心を思い出させてもらったりしています。とにかく好きなことに真っ直ぐなのです。よりうまく、より綺麗に、より良い環境とは?などなど向上心はとどまることを知りません。

それまで一人で刺しゅうすることが日常だったわたしに、誰かと刺しゅうする喜びを教えてくれました。わたしが刺しゅうを続けていく上で、よきアドバイザーであることは間違いありません。そして、毎日する刺しゅうが作業になりかけていたわたしに刺しゅうの楽しさや喜びを改めて教えてくれた恩人です。刺しゅうが好きでよかった。刺しゅうが好きな人に出会えてよかった。

刺しゅうが好きなみなさんが、刺しゅうを通して大好きな人が増えたらいいなと願っています。

atsumi

Aoi Miyazaki

1985年、東京都出身。4歳のときに子役としてデビューして以降、歴代最年少でNHK大河ドラマの主演を務めるなど、数多くのドラマや映画にて活躍中。刺しゅうや編み物などのものづくりが特技で、番組などで腕前を披露することも。
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