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複合加工機とは?
複合加工機のメリットやマシニングセンタとの違いを解説
公開日:2024.02.21
日本の主要産業である製造業。IoTやビッグデータなど革新的なテクノロジーの活用が進む一方で、深刻な人手不足とも向き合わなくてはいけません。また、大量生産時代はすでに終わりを迎え、多様化するニーズへの対応も迫られています。
そういった社会環境を背景にして近年導入が進んでいるのが「複合加工機」です。複合加工機は、旋盤、フライス盤、研削機など、複数の機能を一台の機械でこなすことができる高度な工作機械のこと。これにより、製造プロセスが大幅に効率化でき、生産コストの削減や生産性の向上が期待できます。この記事では、複合加工機が持つ特性やメリットについて詳しく解説し、その利用例や適用範囲についても探ります。
複合加工機とは?
複合加工機は、旋盤、フライス盤、研削機など、複数の機能を兼ね備える工作機械です。従来、旋盤とマシニングセンタを組み合わせなければできなかった作業も、複合加工機であればそれ一台で完結できます。
JISにおいて複合加工機は、以下のように定義されています。
“回転工具主軸、連続割出し可能な工作主軸、及び工具マガジンを備え、工具を自動的に交換する機能をもち、工作物の段取り替えなしに、旋削、フライス削り、中ぐり、穴あけ、ねじ切り、ホブ加工などの複数の加工が行える数値制御工作機械。”(JISB0105:2012 工作機械―名称に関する用語)
複合加工機は、加工時間の大幅な短縮や作業効率の向上につながることから、導入する製造業者が急速に増えています。複数の機械を一台に集約できるため、省スペースになるというのも複合加工機の利点です。一方、複合加工機は高価であるため、コストの面がネックになることが少なくありません。ただ初期投資は大きいものの、生産効率の向上や品質の向上による中長期的な効果を考慮すれば十分に費用回収はできるでしょう。
実際、小規模な工場であっても複合加工機を取り入れて、高い利益率を実現している会社は少なくありません。もちろん導入にあたっては慎重な検討が必要となりますが、適切な投資判断によって企業は競争力の強化と持続的な成長を追求できるのです。
マシニングセンタ、ターニングセンタとの違い
工作機械の多様化とともに、「マシニングセンタ」や「ターニングセンタ」といった言葉もよく耳にします。ここでは、それぞれどのような違いがあるのかを確認しておきましょう。
マシニングセンタの特徴
マシニングセンタは、主にフライス加工を得意とする工作機械です。従来型のNCフライス旋盤とは違い、ATC(工具自動交換装置)を備えているのも特徴です。プロペラやタービンを加工する大型のものから、精密な切削加工ができる小型のものまで、その種類はさまざま。滑らかな曲面加工にも対応する「5軸制御マシニングセンタ」も近年では増えています。
ターニングセンタの特徴
ターニングセンタはNC旋盤を基本として、そこにマシニングセンタの機能を組み込んだ工作機械です。旋削加工やフライス加工など複数の作業ができることから、ターニングセンタは複合加工機とほぼ同義語として捉えられます。
なお、「マシニングセンタをベース」にした複合加工機も存在すます。そのため実際には、複合加工機・マシニングセンタ・ターニングセンタそれぞれを明確に区別することは難しいといえるでしょう。
複合加工機のメリット
複合加工機は、多種多様な加工を一台で実行できる工作機械です。導入することで次のようなメリットが得られます。
作業効率の向上
一台の機械で複数の加工ができる複合加工機は、製造現場の生産性向上に寄与します。複合加工機を導入することでワークの段取り替えの回数が減り、工程間の待ち時間も減らすことができるでしょう。全体の生産時間短縮につながるため、その結果として納期の短縮や柔軟な生産体制の実現が可能となります。
人手不足の解消
多くの加工工程を一気通貫で行えるため、複合加工機は生産工程の省人化につながります。技術や経験が要求される加工でも自動で精密に行えることから、熟練工が不足している現場でも高品質な生産体制を構築しやすくなります。また、複合加工機は24時間連続稼働できるため、夜間や休日など人手が足りない時間帯でも生産をしやすくなるでしょう。
フロアスペースの節約
複数の加工機械を一台に統合することで、工場のフロアスペースを有効に利用できる点も複合加工機のメリットです。その意味では複合加工機の導入は、工場レイアウトの最適化をはかるきっかけにもなります。仕掛品が減るため在庫管理適正化、さらにはヒューマンエラーの防止といった副産物も生まれるかもしれません。
多品種少量生産への対応
複合加工機は一度のセットアップで旋削やフライス削りなど複数の加工を行うため、何千個、何万個と生産するような製品には不向きです。他方、小ロットの加工には向いており、複合加工機を導入することで小ロットの案件も受注できるようになるでしょう。多品種少量生産に取り組み、事業構造を変革できれば利益率改善も期待できます。
持続可能な生産体制の構築
複合加工機の多くは、高い省エネ性能を備えています。電力の自動制御技術、高効率なクーラントポンプ、電源回生システムなどを備えたものなどがあり、そういった省エネ型の複合加工機は電気代削減につながります。同時にCO2排出削減にも寄与するため、「持続可能な社会実現に取り組んでいる企業」というイメージの醸成にもつながるでしょう。なお、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、政府も設備投資を促す補助金を用意しています。省エネ型の複合加工機を導入する際には、そういった経済的支援を受けられるのもメリットといえるでしょう。
複合加工機の利用例
複合加工機は、その多機能性から幅広い産業で利用されています。前述の通り、少量多品種で複雑な形状のワーク加工に適しており、航空宇宙から自動車、医療機器、そしてエネルギー産業に至るまで、多くの分野で活用が進んでいます。
【複合加工機で加工されている製品一例】
・エンジン部品(自動車や航空機)
・人工関節や医療機器の部品
・タービンブレード(発電機やジェットエンジン)
・高精度な金型部品
・ロボットアームや自動化装置の部品
・時計の部品
・高性能カメラや光学機器の部品 など
以下は、ブラザー工業株式会社の複合加工機がモータケースを製作している様子です。ご覧いただくわかるとおり、旋削、平面加工、穴あけ、リーマ仕上げなどの工程をすべて自動で行っています。複合加工機であれば、複雑な形状のワークでも自動かつ高効率で加工できます。
https://youtu.be/1Kf5Pr4JJCs?si=RkXfqqcIZ-H5RxR8
まとめ
航空宇宙、自動車、医療機器、エネルギー産業、はたまた家電や日用品にいたるまで、複合加工機によって世に生み出される製品は多岐にわたります。製造業においてはすでに欠かせない存在になっているといっても過言ではないでしょう。
また、複合加工機の導入メリットは大きく、生産性の向上、製造コストの削減、工場内の省スペースなどに大きく寄与します。
大量生産大量消費の時代が終わって久しい昨今、時代の移り変わりとともに製造現場も絶えず進化しなくてはなりません。CO2排出削減や省人化にもつながる複合加工機はそんな時代に即しており、導入することで企業の成長につながるでしょう。
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文:小林悠樹
1988年生まれ。一橋大学卒業後、食品メーカーへ入社。営業職を経験したのち、2017年にフリーライターへ転身。企業への取材記事、通信大手のオウンドメディアなどをはじめ、幅広いコンテンツを手がけています。
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編集:株式会社イージーゴー
WEBコンテンツ、紙媒体、動画等の企画制作を行う編集制作事務所です。ライターコミュニティ「ライター研究所」も運営しています。
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