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同時5軸加工とは?
同時5軸加工の概要やメリットについて解説
公開日:2024.02.21
製造業界における加工技術の進化は著しく、その中でも「同時5軸加工」は近年普及が進んでいる技術のひとつです。1~3軸加工にはない特徴をもち、生産性向上や省人化などのメリットがあります。では、同時5軸加工はこれまでの加工方法と何が異なり、具体的にどのような製造分野に用いられているのでしょうか。本記事では、同時5軸加工の概要をお伝えしながら、そのメリットや活用例、導入を検討する際の注意点をまとめてご紹介してきます。
目次
同時5軸加工とは?
同時5軸加工は、主軸やタレットが動くX・Y・Zの3軸に加えて、回転・傾斜軸の2軸を同時に制御して加工を行う技術です。5つの軸を同時に稼働させることで、従来の3軸加工では実現できなかったような複雑な加工ができるようになります。
上記は、5軸加工機の稼働軸を表した写真です。これを見ていただくと、工具主軸が3軸移動するだけでなく、ワークを取り付けるテーブルも回転と傾斜しているのがわかります。それぞれの軸を同時に動かしながら、ワークの切削を行っていくのが同時5軸加工ということです。なお、回転・傾斜軸は必ずしもテーブルが動くというわけではなく、工具主軸が旋回・回転する5軸加工機も存在します(5軸加工機は後述)。
3軸加工や割り出し5軸加工との違い
3軸加工では文字通り、縦・横・高さの3軸を基準にして加工を行います。テーブルが動くのか、工具が動くのかは、工作機械によって異なりますが、基本的に3軸加工でほとんどのワーク加工に対応できます。しかし、複雑な製品の場合、傾斜を合わせる治具や特殊な工具を使わないといけないケースが少なくありません。その点、5軸加工であれば傾斜面に対しても適切な角度で工具を当てることができ、アンダーカットも段取り替えなしで行えます。
また、同時5軸加工とは異なる「割り出し5軸加工」という加工方法もあります。これは加工を始める前に、特定の軸を固定したうえで切削を行う加工手法です。回転と傾斜の両方、もしくは片方を事前に固定し、4軸・3軸を同時に動かして加工を施します。同時5軸加工よりも加工データの作成や切削条件の調整が容易なため、実際の現場において割り出し5軸加工は頻繁に用いられます。
同時5軸加工のメリット
同時5軸加工は、精密さと柔軟性を兼ね備える技術で、企業の多くのメリットをもたらします。ここでは同時5軸加工の特徴や利点を紹介します。
加工の柔軟性が高い
同時5軸加工の最も大きな利点のひとつは、加工の柔軟性です。1回の段取りで多面加工ができるほか、プロペラやファンのように3次元で湾曲する面の加工にも向いています。さまざまな形状やサイズの製品を作れるため、小ロットの多品種生産に対応できるのも同時5軸加工ができる工作機械のメリットといえるでしょう。
生産性が向上する
同時5軸加工なら生産性の向上も期待できます。一度、加工プログラムを作成してしまえば、あとは自動で加工を行ってくれます。複数の工程を一度の加工で完了させることができるため、ワークをいちいち付け替える必要もありません。そのぶん加工ミスも大きく減り、高品質かつ効率的な生産を実現できます。
また、傾斜を付けて切削を行うことで最適な周速域で加工ができるため、切削条件を上げることによるサイクルタイム短縮も可能となります。
工具消耗を抑えられる
5軸加工では、工具とワークの接する角度をコンピューターで適宜調整ができます。たとえば、3軸加工では垂直に工具を当てるしかない場合でも、5軸加工であればワークに対して工具を斜めに当てられます。これにより周速ゼロ点がなくなり、工具の摩耗をそのぶん抑えられるでしょう。さらに、同時5軸制御により工具の突き出し量を短くできるため、面品位の向上も図れます。
同時5軸加工のデメリット
同時5軸加工は多くのメリットがある一方で、デメリットも存在します。5軸加工機の導入を検討している方は、いい面・悪い面の両方を理解しておくことが大切です。
導入コストがかかる
同時5軸加工機を導入するうえで、一番のネックとなるのが導入コストです。3軸加工機と比較すると同時5軸加工機は高価で、どうしても初期投資が大きくなってしまいます。5軸加工機を使ったことがないという企業の場合、費用対効果を見極めきれず導入に踏み切れないというケースもあるでしょう。
粗加工や重切削には不向き
5軸加工機は特に、繊細な作業や高度な精密加工を得意としています。他方、切り込み量が多い粗加工や大きな工具を使った重切削といった作業には、あまり向いていません。このため、そのような加工を主に行う場合には、3軸加工機や他の適切な機械を検討することが必要になってきます。
ワークサイズが限定される
5軸加工機の構造は比較的複雑であり、その結果としてテーブルサイズが3軸加工機と比べて小さい傾向にあります。大きな部品や材料の加工が制約されることもあるため、製造する製品のサイズや種類に合わせて導入する工作機械を検討することが大切です。
同時5軸加工事例ワーク
実際に同時5軸加工でどのようなものが作れるのか、以下の動画もぜひ参考にしてみてください。
同時5軸加工による「人工膝関節」製作動画
同時5軸加工による「インペラ」製作動画
同時5軸加工による隅取り加工
同時5軸加工によるアリ溝加工
同時5軸加工機の種類と選定ポイント
同時5軸加工機を導入することで、製造できる製品の幅は格段に広くなるでしょう。それでは、どういった5軸加工機を導入すればいいのでしょうか。ここでは、同時5軸加工機の主な種類と導入時に気を付けるポイントについて解説します。
まず、同時5軸加工機は大きく以下の3つの種類に分けることができます。それぞれに特徴があるので、自社に合ったものを選ぶことが前提となります。
回転傾斜テーブル型 (3軸に加えて、テーブルが 回転・傾斜する) |
・設備サイズが小型のものが多い ・テーブルの回転、傾斜の2軸が大きく動く |
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傾斜ヘッド回転テーブル型 (3軸に加えて、テーブルが回転、 主軸工具が傾斜する) |
・テーブルが傾斜しないため、比較的重量のあるワークでも安定して加工できる ・横型の加工機が多い ・深物加工に強い |
回転傾斜ヘッド型 (3軸に加えて、主軸工具が 回転・傾斜する) |
・テーブルに回転軸がないため、重量のあるワークでも加工ができる ・テーブルサイズが大きいものが多い ・傾斜、回転軸の可動範囲は狭い |
同時5軸加工機の導入を考える際にはまず、「どのような製品を作りたいのか」を明確なイメージをもつといいでしょう。そのうえで、5軸加工機の種類や機能を比較しながらメーカーや機種の選定を行います。はじめて5軸加工機を導入する場合は、機械の操作性やプログラムのしやすさに加えて、メーカーのサポート体制やアフターサービスが充実しているかも確認します。工作機械メーカーによってはショールームを構えているところもあるので、実際に足を運んでみるとよりイメージがわきやすいのではないでしょうか。また、メーカーから直接、5軸加工機についての詳しい説明や、具体的な選び方についてもアドバイスがもらえるはずです。
そして、5軸加工機の導入でどうしてもネックとなるのが価格面です。少なくとも数百万円単位の投資になるので、資金計画についても十分に検討する必要があります。工作機械の新たな設備投資に対する補助金制度も各種用意されているので、国や自治体のサポートも最大限活用しましょう。
まとめ:モノづくりの可能性を大きく広げる同時5軸加工
同時5軸加工の最大の魅力は、複雑な形状の部品も少ないセッティングで加工ができる点です。作業の自動化による加工時間の短縮、段取り替えが減ることによる精度アップが期待できます。また、人による作業が格段に減るため、工場の自動化・省人化にもつながるでしょう。
3軸加工ではできなかったような製品にも対応できるため、5軸加工機を導入することで事業の可能性は大きく広がるはずです。そのメリットを最大限に活かせれば、高品質で効率的な製品の生産を実現し、市場での競争力をさらに高めることができるでしょう。
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文:小林悠樹
1988年生まれ。一橋大学卒業後、食品メーカーへ入社。営業職を経験したのち、2017年にフリーライターへ転身。企業への取材記事、通信大手のオウンドメディアなどをはじめ、幅広いコンテンツを手がけています。
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編集:株式会社イージーゴー
WEBコンテンツ、紙媒体、動画等の企画制作を行う編集制作事務所です。ライターコミュニティ「ライター研究所」も運営しています。
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