- マシナリーお役立ちNAVI
- 工作機械を学ぶ
フライス加工とは?加工方法や
種類、特徴、切削機械まで徹底解説
公開日:2024.07.23
フライス加工は穴あけ、平面削り、溝彫りなどの用途で用いられ、旋盤加工と並びモノづくりに欠かせない加工手法のひとつです。ただ、フライス加工と一口にいっても、汎用フライス盤やマシニングセンタなど様々な工作機械があり、使われる工具も多種多様です。この記事では、フライス加工ができる工作機械、加工方法、工具の種類などを詳しく解説します。
目次
フライス加工とは?
フライス加工は、高速回転するフライス工具でワークを削り取る加工手法です。まずはフライス加工の基本的な知識を確認しておきましょう。
フライス加工の原理
フライス加工では、回転するフライス工具をワークに当てて切削を行います。切削工具とワークが接触したり離れたりを繰り返すことから、フライス加工は「断続切削」とも呼ばれます。
角もの、丸もの、箱ものなど、様々な形状のワークに対して加工を施すことができ、平面削りや溝削りなど切削手法も多様です。3次元の移動軸をもつ工作機械であれば、立体的な製品を作ることもできます。
フライス加工と旋盤加工の違い
旋盤加工では主軸に取り付けられたワークを回転させ、それに対して静止した切削工具を押し当てることでワークを任意の形状に加工します。ワークが回転するという性質上、旋盤加工は主に円筒形の部品製造や内径の加工に適しています。
フライス加工とミーリング加工との違いは?
英語圏においてフライス加工は「Milling」(ミーリング)と訳されます。「挽く」という動詞が語源のMillingは、コーヒーミル、ペッパーミルの由来になっている英単語です。そのため、ミーリング加工はフライス加工と同義に使われ、フライス加工を行う工作機械「フライス盤」は英語で「Milling machine」といいます。
フライス加工とマシニング加工の違いは?
マシニング加工とは、マシニングセンタを使用する加工方法の総称です。マシニングセンタはNCフライス盤をベースとした工作機械で、NC制御や工具自動交換などの機能を搭載しています。そのため、広義の意味ではマシニング加工もフライス加工の一部に含まれるといえるでしょう。
フライス加工における基本的な切削条件
フライス加工は、加工内容に応じて加工条件や切削工具を適切に設定する必要があります。ここではフライス加工の切削条件について解説します。
切削速度・工具の回転数
切削速度とは、フライス工具がワークに接触する際の速さのことです。一般に、切削速度は材料の硬さや種類、切削工具の材質などに合わせて設定され、速くすれば加工効率は上がるものの、工具の摩耗が大きくなり加工精度も低下します。切削速度は、次のような式で表されます。
切削速度の計算式:V(m/min)=π×D×N/1000
π:円周率
D:フライス工具の外径(mm)
N:工具回転数(min-1)
例えば直径10mmの工具が毎分1,000回転する場合、切削速度は「V=π×10mm×1000回転/min÷1000=31.4m/min」と計算できます。
切り込み量
切り込み量とは、フライス工具がワークに接触する部分の工具軸方向の長さを指します。切り込み量 が多ければ加工時間の短縮を図れる一方、摩擦抵抗が大きくなるため工具の摩耗や高温化につながります。
切り込み量は、切削排出量(Q)を計算する際などに用いられます。
切屑排出量の計算式:Q(cm³/min)=ap×ae×F/1000
ap:切り込み量(mm)
ae:切削幅(mm)
F:1分間当たりの送り速度(mm/min)
テーブル・ワークの送り速度
送り速度とは、ワークの上を工具が移動する速さのことを指します。この速度は加工する材料の種類や硬度、使用する工具のタイプによって変わり、一般的な計算式は次のとおりです。
テーブル送り速度の計算式:F(mm/min)=f×z×N
f:1刃当たりの送り量(mm)
z:刃数
N:工具回転数(min-1)
例えば、4枚刃の工具で1刃当たり0.05mmで送り、工具の回転数が1,000回転/minの場合、送り速度は「4×0.05mm×1000回転/分=200mm/min」となります。
工具の回転方向
工具の回転方向には「アップカット」と「ダウンカット」の2種類があり、どちらを選ぶかによって切削条件に違いがでてきます。
アップカットは切削工具の回転方向とテーブルの送り方向が反対に進む加工方法で、切削量が最小から最大になり
しっかり切削できるため仕上面は良好になるが、工具の摩耗進行は早くなります。
ダウンカットは切削工具の回転方向とテーブルの送り方向が同一方向に進む加工方法で、切削量は最大から最小に
切り進むため擦り摩耗の進行が比較的遅く、工具の寿命が長くなります。
マシニングセンタなどの工作機械では、工具の寿命が長く、ビビリが少ないダウンカットが一般的に推奨されます。
フライス加工を行う主な工作機械
フライス加工では、様々なタイプの工作機械が使用されます。続いては、フライス加工ができる代表的な工作機械を紹介します。
汎用フライス盤
汎用フライス盤は、加工の操作を手動で行う工作機械です。手動で工具の位置を調整しながらフライス切削を行うため、機械操作者の技術や経験が加工精度に大きく影響するのが特徴です。コンピュータ制御のものよりもコストを抑えられ単純加工であればすぐに作業できるので、小ロット製品や試作品の生産に適しています。
NCフライス盤
NCフライス盤は、数値制御(Numerical Control)技術を用いてフライス加工を行う工作機械です。汎用フライス盤よりも高価でプログラミングの知識を要する一方、複雑かつ高精度な加工にも対応できます。プログラムされた指令に従って自動で工具の位置を制御するため、連続生産や大量生産に適しています。
マシニングセンタ
マシニングセンタは、NCフライス盤に自動工具交換装置(ATC)の機能が搭載された工作機械のことです。フライス加工だけでなく、穴あけやタッピングなどの作業を自動化でき、人の手をかけずに多様な形状の加工を行えます。
NC歯車加工機
NC歯車加工機は、フライス加工の中でも特に歯車製造に特化した工作機械です。歯車の形状やサイズ、歯の数などをコンピュータにプログラムすることで、精度の高い歯車を製造できます。歯車は、自動車産業や機械産業など多様な分野で必要とされるため、NC歯車加工機は日本の製造業を支える工作機械として広く利用されています。
フライス加工で使用される工具の種類
フライス加工では、様々な工具が使用されます。「正面フライス」や「エンドミル」などはフライス加工において広く用いられ、次にフライス工具の種類について解説します。
正面フライス
正面フライスは、円筒状工具の外周にチップと呼ばれる複数の刃がついた工具で、ワークの表面を平滑に削るときに使用されます。フェイスミルとも呼ばれ、フライス盤において最もよく用いられる工具のひとつといえるでしょう。
エンドミル
エンドミルは、工具の先端や側面にに切削用の刃が設けられており、溝加工、側面加工、穴加工など幅広い用途に使用されます。ドリルのような形状をしており、正面フライスよりも一度に加工できる面積が狭いため、複雑な形状や細かい部分の加工に適しています。
溝フライス
溝フライスは、ワーク表面に溝をつけるための工具です。先端に円盤状の刃がついています。円盤の外周に切削用の切れ刃があり、それでワークをなぞるように切削することで溝加工を施します。Tスロットカッター、アリ溝カッターなど、形状によっていくつかの種類にわかれます。
平フライス
平フライスは、主に平面の加工に用いられる工具です。円筒状の工具側面に刃がついており、一般的に横型フライスに装着して使われます。広い面積を均一に削ることができ、サイズの大きなワーク表面や平面度が要求される部品の仕上げに適しています。
フライス加工の種類
フライス加工はその適用範囲が広く、加工方法も多彩です。ここでは「平面切削」、「側面切削」、「段加工」など、代表的なフライス加工の手法を紹介します。
平面切削
平面切削は材料の平面を均一に削り平らにする加工方法で、正面フライスやエンドミルといった工具が用いられます。部品の基準面を作ったり、材料を所定の厚さに加工したりする場合などに採用されます。
側面切削
側面切削は、ワークの側面を加工する方法で、被切削材の長さや幅を調整する際に行われます。エンドミルを使って切削するのが一般的で、外周についている刃でワーク側面をなぞるように加工していきます。
段加工
段加工は、ワークの一部に段差を作る加工方法です。部品に凹凸やステップを作る場合に用いられ、「コーナーR」(角が弧になっている)、「コーナーC」(角がC面になっている)など角の形状によって使われる工具が異なります。
溝加工
溝加工は溝やスロットの加工に用いられ、エンドミルや溝フライスといった工具が使われます。ワークの平面部分に溝を施し、溝の底の部分がT字の「T溝加工」、三角形型の「アリ溝加工」などの種類があります。
穴加工
穴加工は文字通りワークに対して穴を開ける手法で、ボルト用の穴やネジ穴などの加工に用いられます。穴内部の側面をネジ穴状にすることを「タップ加工」、表面をなめらかにするものを「リーマ加工」、ボルトの頭が入るよう穴の上部を広くしたものを「ザグリ加工」と呼びます。
三次元加工
三次元加工は、X/Y/Zの3軸を同時に制御して加工を行う高度な技術です。立体的な形状や曲面をもつ部品に適しており、CAD/CAMシステムと組み合わせて加工を行うのが一般的です。
フライス加工例
実際の製造現場では、フライス加工はどのように行われているのでしょうか。ここではフライス加工の具体例を見ていきましょう。
多面加工
多面加工とはワークの複数面に加工を施すことを指し、6面加工、5面加工、4面加工などが代表的です。汎用フライス盤で多面加工を施す場合には、ひとつの面の加工が終わるごとにワークを付け替えながら作業を進めていきます。それに対して、マシニングセンタや複合加工機であれば、ワークの着脱をせずに多面加工ができます。
六角加工
六角加工は、ワークの側面およびその一部を六角形の形状に加工する方法です。ボルトやナットなどの締結部品に用いられます。
ヘリカル加工
ヘリカル加工とは、X/Y軸で円軌道・楕円軌道、さらにZ軸ではプラスまたはマイナス方向に工具を移動させて切削を行う加工手法です。ヘリカル加工の語源である「Helical」は、日本語で「らせん形の」と訳されます。文字通り、ワークをらせん状に掘り進めながら加工するのがヘリカル加工の特徴です。
ヌスミ加工
ヌスミ加工は、ピン角(先のとがった角)が取れないときに、角の部分にあそびを設ける加工手法です。内面研磨の際、ヌスミがないと角の部分にRが発生してしまうことがあります。それを防ぐために、隅にヌスミ加工を施して、Rの発生を防ぎます。
フライス加工の特徴・メリット
フライス加工には、「高精度で加工ができる」「加工できる幅が広い」などの特徴があります。ここではフライス加工のメリットを紹介します。
高い精度で加工できる
フライス加工の大きな特徴として、精度が高いという点が挙げられます。特に、NCフライス盤やマシニングセンタであればコンピュータ制御で加工が行えるため、製品ごとのばらつきを抑えながら高い生産性を維持できます。
様々な形状のものを加工できる
すでに見てきたように、フライス加工には数多くの加工手法があります。フライス工具を使用することで、任意の形状を自在に加工できます。柔軟性や自由度の高さはフライス加工の特徴であり、5軸加工ができる工作機械であれば立体的で複雑な切削も行えます。
加工工程を減らし、作業の効率化を上げる
NCフライス盤やマシニングセンタでは、プログラムで加工工程を指示します。それゆえ一度プログラムを作ってしまえば、加工作業を自動化できます。マシニングセンタは切削工具の取り替えも自動で行えるため、工具の付け替えの手間も大幅に減らせるでしょう。
フライス加工のデメリット、注意点は?
フライス加工はいろいろなメリットがありますが、一方で注意点も存在します。フライス加工特有のデメリットや加工時に注意すべき点について確認しておきましょう。
加工できない形状もある
フライス加工は多様な形状を加工できる汎用性をもちますが、万能というわけではありません。例えば、フライス加工ではコーナー内側をピン角に加工できません。工具が回転しているため、どうしても隅アール(円弧上の角)が生じてしまいます。
素材に適した工具、固定具が必須
フライス加工で使用する工具や固定具は、加工する素材に合わせて正しく選択しなくてはなりません。工具選択や固定方法を間違うと、機械の故障やワークの外れ、最悪の場合は事故につながってしまう可能性もあります。そのため、フライス加工では作業工程やワーク・工具の相性などを考慮して、安全かつ効率的に加工を行うことが大切です。
中小企業のものづくりはより効率化へ
労働力不足により、製造業の分野においても省人化や生産性アップに向けた変革が求められています。ものづくりを営む事業者は、どのように対応していけばいいのでしょうか。
熟練工の獲得が難しい中でどう対応していくか
厚労省が行った令和4年度「能力開発基本調査」によれば、製造業の約6割が「技術継承の問題を抱えている」と回答しています。熟練工の技術と経験は、製品製造の核心であり、失われてしまえば品質に直接影響がでてしまいます。そのため熟練工の雇用延長や再雇用などの取り組みを行うことで、人材不足という喫緊の課題へ対処する企業が増えています。
自動化の推進
工作機械の技術開発が進んだことで、「設備投資によって人材不足を解決する」企業も少なくありません。すでに見てきたようにマシニングセンタや複合加工機を導入することで、労働集約的なプロセスを簡素化し、生産性向上を図れます。さらに、自動化は従業員の作業負荷を軽減できるため、よりクリエイティブで価値の高い仕事にリソースを割けるようにもなるでしょう。そのような攻めの設備投資は、企業の持続的な成長につながります。
-
文:小林悠樹
1988年生まれ。一橋大学卒業後、食品メーカーへ入社。営業職を経験したのち、2017年にフリーライターへ転身。企業への取材記事、通信大手のオウンドメディアなどをはじめ、幅広いコンテンツを手がけています。
-
編集:株式会社イージーゴー
WEBコンテンツ、紙媒体、動画等の企画制作を行う編集制作事務所です。ライターコミュニティ「ライター研究所」も運営しています。
https://eggo.jp/
- 加工の実力を知りたい
- SPEEDIOの加工の実力を知る
- ブラザーホーム
- 製品情報
- 工作機械
- マシナリーお役立ちNAVI
- フライス加工の加工法や種類、特徴を解説