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タップ加工とは? 加工条件や種類、注意点
公開日:2024.06.25
タップ加工はねじ切り加工とも呼ばれる加工手法で、旋盤やフライス盤、マシニングセンタなどを使って行われます。タップ工具には、切りくず排出性に優れたもの、通し穴を得意とするもの、圧力でねじ山を形成するものなど様々な種類があります。本記事では、タップ加工の加工方法や工具の種類、作業時の注意点などをまとめて解説します。
目次
タップ加工とは?
タップ加工は雌ねじの内周面を加工する手法です。まずは、タップ加工の基礎知識、ドリル加工やリーマ加工との違いなどを確認していきます。
タップ加工とは
タップ加工とはねじ加工手法のひとつで、雌ねじの内周面にねじ溝を施す加工です。タップ工具と呼ばれる切削工具を使って、あらかじめ開けられた下穴内部を加工します。タップ加工は「ねじ切り加工」とも呼ばれ、ボール盤やマシニングセンタで行われるのが一般的です。
使用するタップ工具によって、切削方法や加工できる穴のサイズ、ピッチ(ねじにおける山と谷の間隔)が変わります。タップ加工では、工具ごとの特徴を理解し、加工する材料やねじのタイプに合わせて最適なものを選定することが重要です。
ドリル加工・リーマ加工との違い
タップ加工は、雌ねじの内周に山谷部分をつくることを目的とした加工手法です。ドリル加工は穴を開けること自体に主眼を置き、ねじ加工においては雌ねじの下穴を開ける目的で行われます。さらに、リーマ加工はドリル加工で空けた下穴に対して、穴の内径を拡張したり、内周をなめらかにしたりする加工です。
- タップ加工:すでに開けられた穴の内部にねじ溝を切る加工方法
- ドリル加工:穴を開けることに特化した加工方法
- リーマ加工:穴の内径、精度の仕上げや、面粗さを向上させる加工工法
タップ加工の方法
タップ加工には「切削式」と「転造式」の2種類の加工方法があります。それぞれどのように違うのかを見ていきましょう。
切削式タップ加工の特徴
切削式タップ加工は、タップ工具で雌ねじの内面を削り取りながらねじ穴の山と谷を形作っていく方法です。精度を高めるためにはタップ加工はもとより、下穴を施すところから正確に計算することが大切です。また、切りくずが発生するため、切りくずの処理が適切にされているかにも気を配ります。
転造式タップ加工の特徴
転造式タップ加工は、下穴を穴の内部から押し広げるようにしてねじ山をつくる方法です。「塑性加工」(そせいかこう)とも呼ばれ、切削式とは異なり切りくずを発生させないのが特徴です。ワークが硬すぎたり、柔らかすぎたりすると転造式タップ加工が行えないケースもあります。
タップ加工のメリット
タップには、スパイラルやポイント、ハンドなど様々な種類があります。それゆえ、素材や加工内容に合わせて多様な加工を施せるのがタップ加工のメリットです。
旋盤で雌ねじ内部の溝を形成する際には、雌ねじ切りバイトと呼ばれる工具が使われます。回転させたワークに刃物を押し当てて切削を行っていきます。雌ねじ切りバイトの先端はL字型になっているため、内径があまりに小さいと加工ができません。その点、タップであれば内径の小さいねじ穴でも溝を彫ることが可能です。
また、マシニングセンタや複合加工機であれば、工具自動交換機能を搭載しているので、下穴加工からタップ加工までの工程を自動化できます。工数を大幅に減らせるため、結果として製造コスト削減や生産性向上につながります。
タップの種類
ここではタップの代表的な種類を5つ紹介します。それぞれの用途、特徴、使用時の注意点を確認していきましょう。
スパイラルタップ
スパイラルタップは、スパイラル(渦巻き)状の刃をもつタップです。らせん状の溝が切りくずを上方にさせ、穴内部に切りくずが詰まりにくいのが特徴です。ただし、切り出されたワークの破片が工具に巻き付き、加工精度低下を招くこともあります。
ポイントタップ
ポイントタップは、通り穴のねじ切りに使われる工具です。スパイラルタップが切りくずを上へ上へと排出するのに対し、ポイントタップでは切りくずを工具進行方向と同じ向きに排出します。ワークを突き抜けない「止まり穴」では切りくずが穴の底に詰まってしまうため、ポイントタップは主に通り穴の加工に用いられます。
ハンドタップ
ハンドタップは、手動で雌ねじ内部に溝を彫る工具です。通常、「1番タップ」(先タップ)、「2番タップ」(中タップ)、「3番タップ」(上げタップ)の3本がセットになっており、それぞれを使い分けてねじ穴を少しずつ広げながら加工していきます。手作業でねじ穴を加工できることから、試作品製作などに用いられます。ただ、力の加減や角度を適切に調整しなくてはいけないため、ある程度の熟練度が求められます。
ロールタップ
ロールタップは、転造式タップ加工を行える工具です。切削ではなく、圧力で下穴を押し広げながらねじ山を形成します。切りくずによる精度低下が起こりにくく、アルミや銅など比較的硬度の低いワークに適しています。
管用タップ
管用タップとは、配管の接合部にねじ溝をつけるための工具で、「テーパねじ用」と「平行ねじ用」の2種類に大別されます。テーパねじ用は気密性に優れ、水道管や真空配管などの加工で用いられます。一方、平行ねじ用は強度が求められるような機械部品の加工で使われることが多い管用タップです。なお、管用タップはタップ工具ではなく、ねじ加工に分類されることもあります。
スレッドミル
スレッドミルはタップ工具とは異なりますが、ねじの加工に使う特別なフライス工具です。ヘリカル補間運動を行いながら下穴の内周に溝を刻んでいきます。ヘリカル補間運動とは、工具が自転と公転を繰り返す動きです。高速回転(自転)した工具が、下穴内周に沿って円を描く(公転)ように動くことでねじ切り加工を行います。
タップ加工のやり方・手順
タップ加工の手順は大きく3ステップです。
- 下穴を開ける
- 切削油を注入する
- タップでねじ溝をつくる
それぞれの工程を詳しく解説していきます。
下穴を開ける
タップ加工ではまず、下穴を開けることから始めます。ねじの直径に応じて、下穴の大きさは決まります。また、ピッチには「細目ねじ」と「並目ねじ」の2種類あります。細目ねじはピッチの間隔が狭いタイプのねじですが、特別な理由がない限り並目ねじが採用されるのが一般的です。
以下は、ねじ径と下穴径の対応表です。例えば、M8(ねじ径8mm)のねじに適合する下穴の直径は「6.78~7.12mm」であることが読み取れます。
ねじ径 | 下穴の直径 (ひっかかり率:70~90%) |
ピッチ(並目) |
---|---|---|
M1 | 0.76~0.82 | 0.25 |
M1.2 | 0.96~1.02 | 0.25 |
M1.4 | 1.11~1.19 | 0.3 |
M1.6 | 1.26~1.35 | 0.35 |
M2 | 1.61~1.72 | 0.4 |
M3 | 2.51~2.65 | 0.5 |
M4 | 3.32~3.51 | 0.7 |
M5 | 4.22~4.44 | 0.8 |
M6 | 5.03~5.30 | 1.0 |
M8 | 6.78~7.12 | 1.25 |
M10 | 8.54~8.94 | 1.5 |
M12 | 10.3~10.7 | 1.75 |
M14 | 12.1~12.5 | 2.0 |
M16 | 14.1~14.5 | 2.0 |
M18 | 15.6~16.1 | 2.5 |
M20 | 17.6~18.1 | 2.5 |
下穴の深さについては、一般的に「雄ねじの長さよりも少し深め」に加工を行います。一般的には以下のような計算式で下穴の深さを算出します。
下穴深さ = 雄ねじの長さ+ドリル先端部の長さ(三角錐の高さ)+ 不完全ネジ部の長さ + 余裕(1ピッチ)
切削油を注入する
下穴を開けたら、次に切削油を注入していきます。この工程により、ワークと工具の間で生じる摩擦を減らし、滑りをよくしてスムーズに切削ができるようになります。
切削油を使わないとタップ工具の寿命を縮めることにつながってしまいます。なお、切削油には「鉱物油」や「合成切削油」、「ストレートオイル」などの種類があり、ワークの素材や硬度などによって適切なものを選びます。
タップを回転させながら挿入する
最後に、工作機械に装着したタップ工具で、下穴内部にねじ溝を切っていきます。挿入角度が下穴に対して垂直になるようワークと工具をセッティングすることが大切です。切削条件の設定を誤るとタップが折れたり、溝がゆがんだりすることもあるので、加工内容に応じて適切に作業を行いましょう。
タップ加工の注意点は?
続いて、タップ加工を行う際の注意点や作業のポイントを解説します。求められる精度を保つためにも押さえておきたい重要なポイントなので、しっかりと確認しておきましょう。
作業内容に適したタップを選定する
タップ加工では、ねじの直径や深さによってタップを選定することが前提となります。そのうえで「通り穴か、止まり穴か」「ワークが硬質材か、軟質材か」など、作業内容に応じて適切な工具を選択します。例えば、通り穴の場合は食付き部が長いタップが選ばれることが多く、止まり穴では穴の深さに制限があるので食付き部が短いタップが選択されます。なお、食付き部とは、タップ先端の刃が斜めに払っている部分のことです。
ワークを確実に固定する
タップ加工に限らず切削加工では、ワークをしっかりと固定することが重要です。ワークが適切に固定されていないと、加工精度が下がったり、タップが破損したりするリスクが生じます。ワークの形状や特性を考慮しながら、必要によってはクランプやマシンバイスといった治具を使って確実に固定します。
下穴径の確認
下穴径はねじ径に対応した下穴早見表をもとにして決定されるほか、「ねじ径からピッチを引く」ことでも求められます。
【計算式】
下穴径=ねじ径-ピッチ
例えば、「ねじ径:M12、ピッチ:1.75mm」の場合の下穴径は「10.25mm(=12-1.75)」というように算出できます。
切削油の使用
切削油には、「潤滑」「冷却」「反溶着」という3つの作用があります。反溶着とはワークと工具がくっつくのを防止し、加工面の粗さや精度のばらつきを抑える働きのことです。
また、切削油の種類は「不水溶性切削油剤」と「水溶性切削油剤」のタイプに大別され、前者は潤滑性に優れ、後者は引火する恐れがなく冷却性に優れています。
また、従来は塩素が含まれる切削油が広く使われていましたが、塩素はダイオキシンを発生させます。ダイオキシンは環境に悪影響を及ぼすため、地球環境に配慮した塩素フリーの切削油が使われるケースが増えています。
切削速度の設定
切削速度を速くすることで作業時間の短縮につながりますが、切削熱が大きくなり工具の摩耗も激しくなります。そのため、精度向上や工具寿命を延ばすためにも、タップ加工では切削速度を適切に設定することが大切です。切削速度はタップの種類とワークの素材でおおよそ決まり、それに合わせた回転数を設定します。
なお、タップの切削速度は、以下の計算式で求められます。
【計算式】
切削速度:V(m/min)=D×n×π/1000
D:タップ刃径(mm)
n:1分当たりの回転数(min-1)
π:円周率
知っておきたい、タップ加工関連用語
最後に、タップ加工でよく耳にする用語を紹介します。
ねじ精度
ねじ精度とは、ねじ加工においてねじ山の形状や寸法がどれだけ正確かを示す尺度です。一般的に記号や数値で表され、これにより製造されるねじの精密さや公差の範囲が決定されます。
雌ねじの公差位置には、「G」(正の基礎となる寸法許容差)と「H」(0の基礎となる寸法許容差)の2種類あります。また、それに付随する数字は値が大きいほど公差の範囲は広くなります。「S・N・L」は、はめあいの長さを意味し、Sは短く、Lは長く、Nはその中間を指しています。
●推奨する雌ねじの公差域クラス
はめあい区分 | 公差位置 G | 公差位置 H | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
S | N | L | S | N | L | |
精 | ― | ― | ― | 4H | 5H | 6H |
中 | (5G) | 6G | (7G) | 5H | 6H | 7H |
粗 | ― | (7G) | (8G) | ― | 7H | 8H |
ひっかかり率
ひっかかり率とは、雄ねじと雌ねじのかみ合いを表す指標です。「雄ねじと雌ねじがかみ合う高さ」と「基準ねじ山高さ」の比率で表現されます。ひっかかり率が100%に近いほど下穴径が小さく、雄ねじと雌ねじの山と谷の重なり部分が大きくなります。
【計算式】
ひっかかり率(%)=(雄ねじの外径-雌ねじの内径)÷(2×雄ねじの基準ねじ山高さ)×100
むしれ、山飛び
「むしれ」と「山飛び」は、いずれもタップ加工における切削不良の現象です。むしれは、工具がワークに対してむしるように加工を行う状態で、切削面がささくれだち加工精度が悪化します。
雌ねじの山の部分が崩れることを山飛び(ピッチ飛び)といい、切削時に工具とワークの間に切りくずが噛んでしまうことなどが原因となります。
タップ加工をマシニングセンタで効率化する
タップ加工は雌ねじのねじ溝を施す加工で、工具の種類には様々なものがあります。ワーク素材や求められる精度など作業内容に応じて適切に工具選択をすることが欠かせません。また、切削油を使用する、タップの挿入角度を垂直にするなどの基本も押さえておきましょう。特に手動で作業するような場合は、穴に対してタップを斜めにねじ込んでしまうと品質低下を招いてしまいます。
タップ加工の精度維持・生産性向上のために、マシニングセンタを導入するのも方法のひとつです。プログラムによって工具を制御できるため、複雑なねじ形状も一貫して高品質に仕上げられます。必要に応じて設備投資も検討してみましょう。
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文:小林悠樹
1988年生まれ。一橋大学卒業後、食品メーカーへ入社。営業職を経験したのち、2017年にフリーライターへ転身。企業への取材記事、通信大手のオウンドメディアなどをはじめ、幅広いコンテンツを手がけています。
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編集:株式会社イージーゴー
WEBコンテンツ、紙媒体、動画等の企画制作を行う編集制作事務所です。ライターコミュニティ「ライター研究所」も運営しています。
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