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切削加工に使われる鉄系材料の基礎知識!
加工材料の種類や特徴を解説
公開日:2025.02.04
工作機械による切削加工において、材料の選定は製品の品質や加工効率に大きく影響する重要な要素です。特に鉄系材料は、その豊富な種類と優れた加工性から、多くの機械部品の製造に使用されています。しかし、材料の選定を誤ると、加工不良や工具寿命の低下、コストの増加などさまざまな問題の原因になってしまいます。
そこで本記事では、切削加工でよく使用される鉄系材料の基礎知識から、材料ごとの特徴までを解説します。
鉄系材料の基礎知識
私たちの身近にある「鉄」と呼ばれる材料の多くは、実は純粋な鉄ではなく、炭素などの元素を含む合金です。工作機械による切削加工では、材料の選定が加工品質や生産性に大きく影響します。まずは鉄系材料の基礎知識から理解を深めていきましょう。
鉄・鋼・鋳鉄の違い
鉄系材料は、含まれる炭素量によって「純鉄」「鋼」「鋳鉄」の3つに大別されます。
「純鉄」は炭素含有量が0.02%未満の材料です。一般的なイメージの灰色ではなく、白い光沢を持つのが特徴です。ただし、強度が低く錆びやすいため、工業製品にはほとんど使用されません。
「鋼」は炭素含有量が0.02%~2.14%の材料です。私たちが普段「鉄」と呼んでいる材料の多くがこの鋼に分類されます。適度な強度と加工性を備え、熱処理による性質の調整も可能なため、最も広く利用されています。代表的なものとして、構造用鋼(SS400)や機械構造用炭素鋼(S45C)などがあります。
「鋳鉄」は炭素含有量が2.1%~6.67%と高い材料です。融点が比較的低く、溶かして型に流し込む鋳造に適しています。マンホールの蓋や機械部品など、複雑な形状の部品製造に使用されます。
金属の硬さの単位
金属の硬さを表す単位には、測定方法によって異なるいくつかの規格があります。
たとえば、「HB(ブリネル硬さ)」は鋼球を材料に押し付け、その際にできるくぼみの大きさから硬さを測定します。
「HV(ビッカース硬さ)」は、ダイヤモンド製の四角錐を材料に押し付けて測定します。高精度な測定が可能で、薄い材料や表面処理層の硬さ測定にも使用できます。
「HRC(ロックウェル硬さ)」は、ダイヤモンド圧子を押し当て、圧痕の深さで硬さを測る方法です。測定が比較的容易で、測定者による誤差が少ないのが特徴です。
材料規格の読み方
JIS規格による鉄鋼材料の表記は、アルファベットと数字の組み合わせで材質や特性を表しています。
例えば、機械構造用炭素鋼鋼材「S45C」の場合はそれぞれ以下のような意味をもちます。
S:鋼(Steel)
45:炭素含有量0.45%
C:炭素鋼(Carbon steel)
また、ステンレス鋼「SUS304」の場合は以下の通りです。
SUS:ステンレス鋼(Stainless Used Steel)
304:成分の組み合わせを示す型番
このように、材料記号を理解することで、その材料の基本的な特性を把握することができます。ただし、同じ規格でもメーカーによって若干の特性の違いがある場合もあるため、詳細については個別に確認することをお勧めします。
熱処理とは?
熱処理は、金属材料の性質に大きく影響する要素です。熱を加えることで、その素材がもつ性質を目的に応じて変化させることができます。
処理方法にはいくつかの種類があり、その一部をご紹介します。
焼入れ | 材料をオーステナイト化するまで高温(約800~850℃)に加熱した後、水や油の中で急速に冷却処理する。 材料が非常に硬くなるため、切削工具や金型など、高い硬度が要求される部品に用いられる。 |
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焼戻し | 焼入れ後の材料を比較的低い温度(約150~650℃)で再加熱し、徐々に冷却する処理。 粘り強さ(靭性)が増し、処理する温度によって最終的な硬さと靭性のバランスを調整する。 |
焼なまし | 材料を高温に加熱した後、炉の中でゆっくりと冷却する処理。 材料が軟らかくなり、加工性が向上する。 |
焼ならし | 材料を高温で加熱してオーステナイト化させた後、空気中で冷却する熱処理方法。 材料内部の組織が均一化され、結晶粒が微細になることで、耐衝撃性などが向上する。 |
熱処理は材料の性質を大きく変える重要な工程で、温度管理や冷却速度など細かな条件設定が必要です。不適切な熱処理は、むしろ材料の性質を悪化させる可能性もあるため、目的と材質に応じた適切な処理条件の選択が重要となります。
切削加工でよく使用される主要な鉄系材料
ここでは、切削加工の現場でよく使用される代表的な鉄系材料について、その特徴と適した用途を解説します。
機械構造用炭素鋼
機械構造用炭素鋼は、切削加工における最も一般的な材料の一つです。
代表的な機械構造用炭素鋼のS45CやS50Cは、強度と加工性のバランスが良く、幅広い用途に使用されます。熱処理により性質を調整できることも大きな特徴です。
● 主な用途
- 機械部品全般
- シャフト
- ギア
- 各種締結部品 など
加工時の注意点として、機械構造用炭素鋼は比較的さびやすい材料です。そのため、加工時は防錆効果のある切削油を使用し、加工後は必要に応じて表面処理を施すことが重要です 。
一般構造用圧延鋼材
一般構造用圧延鋼材(SS400など)は、経済性と加工のしやすさを両立した材料です。主に建築構造物や産業機器のフレームなどに使用され、溶接性に優れているのが特徴です。たとえば、S400は引張強さが400N/mm2以上の構造用鋼で、一般的な構造用鋼材として広く普及しています。
● 主な用途
- 鉄道車両
- 橋梁
- 柱 など
材料の特徴としては、焼き入れはできず、さびやすいため防錆処理が必要です。一般的には塗装やめっき処理を施して使用されます。
ステンレス鋼
耐食性や耐熱性が要求される部品に使用されるステンレス鋼も、切削加工でよく使用される材料です。
代表的な「SUS304」は、食品機械や医療機器などに広く使用されます。ただ、加工時の工具摩耗が大きく、硬度変化や磁化が起きやすいという特徴があります。
● 主な用途
- 食品機械部品
- 医療器具
- 屋外使用部品 など
SUS304は加工硬化しやすい素材であることから、放熱がされにくくそのぶん工具の寿命が短くなりやすい点に注意しましょう。耐摩耗性に優れた工具を選択するほか、必要以上に切削速度を上げたり、切込み量を大きくしたりしないことが重要です。また、加工時の発熱による硬化を防ぐため、十分な切削油を供給しながら適切な切削速度で加工を行うことがポイントです。
クロムモリブデン鋼
クロムモリブデン鋼(SCM435など)は、強度と靭性のバランスが優れた材料です。焼入れがしやすく、熱処理後の機械的性質が安定しています。クロムモリブデン鋼のなかでもSCM435は、熱処理後に930N/mm²以上の引張強さが得られ、高い疲労強度も特徴です。
● 主な用途
- 高強度ボルト
- 自動車部品
- 高負荷用シャフト
- 航空機部品 など
クロムモリブデン鋼は、500℃程度までの高温環境下でも強度が維持されるため、高温・高圧部品にも適しています。また、酸や塩水などにも強く、長寿命な鉄系材料として知られています。
鉄系材料は特性に合わせた加工が大切
鉄系材料は、含まれる炭素量や添加元素によってさまざまな特性を持ち、用途に応じて材料選定をすることが重要です。また、熱処理を組み合わせることで目的に合った機械的性質を得られるのも鉄系材料の特徴といえるでしょう。
そのため、製品に要求される特性をよく理解し、材料選定から加工条件の設定まで、総合的な視点で製造工程を検討することが大切です。
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文:小林悠樹
1988年生まれ。一橋大学卒業後、食品メーカーへ入社。営業職を経験したのち、2017年にフリーライターへ転身。企業への取材記事、通信大手のオウンドメディアなどをはじめ、幅広いコンテンツを手がけています。
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編集:株式会社イージーゴー
WEBコンテンツ、紙媒体、動画等の企画制作を行う編集制作事務所です。ライターコミュニティ「ライター研究所」も運営しています。
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