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熱変位とは?発生する原因と対策を解説
公開日:2025.01.21
工作機械を稼働すると機械の内部や工作物から熱が発せられます。この熱は、工作機械や工具の寸法を変化させる「熱変位」の原因となりうるものです。熱変位が与える影響は大きく、加工精度の低下や思わぬコスト増大を招く可能性があります。日頃からできる対策とともに、熱変位の概要を解説します。
熱変位とは?
熱変位とは、工作機械の温度の変化によって機械の寸法や性能が変わってしまうことです。工作機械を使用すると、必ず発生します。
変化する寸法だけを見れば、微細なものであることがほとんどです。しかし、部品製造では非常に精度の高い作業を求められることも珍しくありません。熱変位を完全に防ぐことは非常に困難ですが、事前の対策に努め、影響を最小限に抑えたいものです。
熱変位がもたらす影響
熱変位が起こると、以下のような支障をきたす可能性があります。
加工物の寸法が変わる
加工物の寸法が変わってしまい、加工の品質を落としてしまう可能性があります。
たとえば鉄は、その場の温度が1度上がると10μm(0.01mm)前後、膨張すると言われています。1mの鉄を想定した場合、温度が10度変わると100μm(0.1mm)ほど、寸法が変化する計算です。
正確な位置決めができなくなる
熱変位が起こると、工作機械そのものの寸法も変化します。熱による温度変化が起こると、ボールねじが伸縮したり、鋳物などの形状が変化したりしてしまいます。その結果、工具と工作物の位置が変化し、仕上がりに差が出てしまうリスクがあるのです。
コストがかさむ
熱変異による加工への影響を最小限に抑えることが、加工不良品の低減につながります。不良品ができれば、その分だけ材料費や人件費と、時間も別途必要になるでしょう。
特に連続運転をしている最中に加工不良品ができてしまうと、量によっては多大な損失につながります。熱変位による加工精度への影響を迅速に察知できるかどうかが、自社の製造コストを大きく左右すると言っても過言ではありません。
熱変位が起こる原因
熱変位が発生する原因は、1つだけではありません。日頃から抜け目なく対策をするためにも、これらは全て把握しておくと良いでしょう。
工作機械の内部の発熱
1つ目は、工作機械内部から発せられる熱です。工作機械で加工をすると、主軸や駆動部、軸受、モーター歯車などが摩擦し、発熱します。この温度上昇により、部品や構造体に熱が伝わって熱変位の原因になります。
工作機械の稼働開始時は温度上昇が大きくなる傾向があるため、稼働開始から連続運転を行う場合ほど熱変異を起こしやすくなります。
加工プロセスで生じる熱
2つ目は、加工の工程において発生する熱です。切削工具を工作物に押し当てて切削する点を、「切削点」と言います。工作機械を稼働させると、この切削点でも熱(切削熱)が生じます。また、切削熱が生じると工作機械内にある切削油(クーラント)の温度が変化しますが、これらも熱変位の一因となります。
さらに加工時に出た切りくずや、工作物から発せられる加工熱も影響します。加工プロセスで発生するあらゆる熱も、熱変位の原因になりうると考えても良いでしょう。
工作機械の設置場所の温度
3つ目は、工作機械を置いている場所です。時間帯や季節が変化して工作機械を設置している部屋の温度が上下することも、工作機械内の部品や構造体の膨張・収縮につながります。
日光や照明器具、冷暖房機などによる輻射熱も無視できません。また、よく開閉する扉の近くに設置してあるなど、工作機械の一部だけ温度の上下があることも関係します。
熱変位の測定方法
熱変位が起こっているかどうかは、加工済ワークの計測をすることで判断できます。一般的な方法は、機械からワークを取り外し、測定機を用いて計測する「機外計測」です。加工後のワークをノギスやマイクロメーター、3次元測定機などを使いながら、人力で計測します。
ただしこれには、多くの時間と人手を必要とします。検査員によって検査の方法や力加減に差が出たり、ヒューマンエラーが発生したりすることもあるでしょう。加工後の計測になる分、不良品が出た場合は検査数が膨大になることがあります。機外計測にこだわりすぎず、事前の対策にも注力することを推奨します。
熱変位を防ぐ方法
日頃から以下のような対策をすれば、熱変位の影響も軽減しやすくなります。まだ試していないものがあれば、ぜひ取り入れてください。
暖機運転をしてから使用する
工作機械を動かす前に、まず暖機運転をすると良いでしょう。暖機運転は低負荷での運転により、機械の構成部品同士の馴染みを促し、各部の働きを滑らかかつ確実にする目的があります。事前に行っておくことで、工作機械が持つ本来の性能を発揮し、安定した加工がしやすくなります。暖機運転の時間の目安は、各社で決まっていることがほとんどです。一度、社内で確認すると良いでしょう。
ただし当然ながら、暖機運転中も電力を消費しています。加えて環境への配慮や製造の短時間化が求められる昨今では、時代に逆行する面もあります。適切な時間での実施を意識しましょう。
工作機械の設置場所の室温を一定に
保つ
工作機械が設置されている部屋の環境を保つことも重要です。エアコンなどを活用し、室温が通年変わらないように意識してください。目安として、1年を通じて室温が24度ほどの状態を保つことが望ましいです。
また、工作機械を置く位置もかかわってきます。エアコンの風が直接当たる場所は避け、なるべく部屋の最適な場所に設置しましょう。
熱変位補正機能を搭載した工作機械を使う
近年多々登場している、熱変位制御機能を搭載した工作機械を使うのも良い方法です。熱変位制御機能は、工作機械内の温度センサーで温度を計測し、熱変位が起こりそうであれば自動で位置決めを補正する機能です。たとえばブラザーのマシニングセンタ「SPEEDIO」にも、熱変位自動補正システムを搭載しています。
切りくずを早急に取り除く
加工後に出た切りくずは、早急に取り除くよう心がけましょう。鉄くずも熱を持っています。長時間置いておくと、溜まった切りくずから工作機械に熱が伝わり、熱変位を引き起こすことがあります。
特に連続運転をして切りくずが大量に発生する可能性がある場合は、すみやかな除去を意識してください。もしすぐに取り除けない場合は、切りくずが1カ所に溜まらないように工夫することも効果的です。
定期的なメンテナンスをする
工作機械のメンテナンスを定期的に行い、熱変位の原因となりそうな要因を早々に取り除くことも効果的です。潤滑油や冷却用油の残量を1日1回は確認するなど、日常的な点検もきちんと行ってください。具体的にどういった点を点検すべきかは、メーカーの保守マニュアルに記載されています。
社内でメンテナンスチェックシートを作り、複数箇所に設置するのも良い方法です。現場の作業員が確認しながらメンテナンスができる体制を作っておくと、定期的なチェックがしやすくなります。さらにメンテナンスを定期的に行うことで、工作機械の長寿命化が目指せることもメリットです。
熱変位は事前の対策が重要
熱変位による膨張・収縮は、数字だけ見れば微々たるものではあります。しかし、高い加工精度が求められる部品製造では、場合によってはコストの面でも多大な影響が出ることがあります。
熱変位は必ず起こるものですが、日頃から室温管理や点検などを心がけ、効果的な対策を実施していきましょう。
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文:シモカワヒロコ
1994年生まれ。月刊誌の編集者を経て、現在はWebや新聞、雑誌、書籍など幅広い媒体で活動中のライター・編集者。ザ・文系ながら、昔からメカが好き。
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編集:株式会社イージーゴー
WEBコンテンツ、紙媒体、動画等の企画制作を行う編集制作事務所です。ライターコミュニティ「ライター研究所」も運営しています。
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