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規制対象の物質数が2026年には4倍に増加!
新化学物質規制への準備は万全ですか?(1/2)
公開日:2023.11.27
2023年4月1日から労働安全衛生規則などの一部が改正され、「新たな化学物質規制」がスタートしました。規制の対象となる化学物質が年々増加しており、管理のあり方が従来の「法令遵守」から「リスクアセスメント(危険性評価)を軸とした自律的管理」へと大きく変更されました。これにより、対象となる化学物質を取り扱うすべての事業者に、様々な義務が課されています。
そこで今回は「新たな化学物質規制」の概要と重要ポイント(前半)、さらに化学物質管理の「見える化」とラベルを活用したSDS(安全データシート)の運用方法(後半)について、2回にわたって詳しく解説します。
「新たな化学物質規制」の改正ポイントとは?
特化則等の法令による個別規制から、民間事業者主導の自律的管理へ。
今回の労働安全衛生規則改正により「何がどう変わるのか」について、まずその全体像を押さえておきましょう。厚生労働省のホームページには改正の概要が詳しく紹介されていますが、特に重要なポイントは以下のとおりです。
※厚生労働省「労働安全衛生法の新たな化学物質規制〜労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」
1. 国が定めた有機則・特化則・PRTR・毒劇法などの「法令遵守」から、民間事業者主導の「リスクアセスメントによる自律的管理」へと、管理方針が大きく変わりました。
2. SDS(安全データシート)などによる通知とリスクアセスメント実施の義務対象となる化学物質が、674物質(2021年1月)から、GHS(※)基準のすべての薬品である約2,900物質(2026年4月)へと大幅に増加しました。
3. 化学物質に曝露される濃度の低減措置の実施と、記録の作成・保存が義務化されました。
4. 労働基準監督署から改善指示を受けた場合、選任した「化学物質管理専門家」の助言による改善計画作成・実施が義務化されました。
5. 皮膚などの健康障害を防止するために、「保護具着用管理責任者」の選任が義務化されました。
6. SDS(安全データシート)などによる通知方法が柔軟化され、含有量表示が適正化されました。
7. 作業環境測定結果が第3管理区分の事業場に対する措置が強化されました。
※GHS:化学薬品に対する危険性や注意喚起を目的としたラベル表記方法。GHS、SDS、JISの詳細はこちら。
(GHS・SDS・JISとは? 化学薬品製造業者なら知っておくべき化学物質のラベル表記法をやさしく解説)
これらの改正については、特に罰則規定は設けられていません。しかし化学物質による労働災害や健康被害を防止するために、極めて重要なポイントばかりです。化学物質を取り扱うすべての事業者は、十分に留意する必要があります。
「新たな化学物質規制」改正の背景とは?
化学物質による労働災害の8割は、規制対象以外の物質が原因。
これまで化学物質の取り扱いについては、有機則・特化則・PRTR・毒劇法で定めた特定の化学物質に対して、政府主導の個別規制が行われてきました。しかし化学物質による労働災害(休業4日以上)の約8割が、上記法律による規制対象以外の物質が原因で起こっています(厚生労働省調べ)。国内で輸入・製造・使用されている化学物質はすでに膨大な種類に及んでおり、それに対する規制が追いついていないのが現状です。
特に企業規模が小さいほど法令遵守が不十分であり、また作業環境測定結果が直ちに改善を必要とする「第3管理区分」と評価された事業場の割合が増加する傾向にあります。
こうした課題を解決するための方策が、化学物質の管理を民間に移管する今回の「リスクアセスメントによる自律的管理」です。つまり、法律で定められた特定の化学物質を国が規制する方法を見直し、危険性・有害性が確認されたすべての化学物質を対象として、暴露を最小限にするよう民間事業者が自律的にリスクアセスメントを行うことになったのです。
▲厚生労働省「労働安全衛生法の新たな化学物質規制について〜ラベル・SDS・リスクアセスメントを中心に〜」より
化学物質を取り扱う事業者に課される義務とは?
暴露濃度の低減措置や、各種専門家・責任者の選任などが義務化。
では今回の「新たな化学物質規制」により、事業者にはどのような義務が課されたのでしょうか。その具体的内容について、まず前述した重要ポイントの3〜7を具体的に見ていきます。(もっとも重要である1と2については後述します)
3.化学物質に曝露される濃度の低減措置の実施と、記録の作成・保存が義務化
暴露される濃度の低減措置は、以下の4項目が掲げられています。
・代替物等を使用する。
・発散源を密封する設備/局所廃棄装置、または全体換気装置を設置し、稼働する。
・作業の方法を改善する。
・有効な呼吸用保護具を使用する。
リスクアセスメント対象物のうち、厚生労働大臣が定める濃度基準値設置物質については、屋内作業者場で暴露される程度を濃度基準値以下にすることも義務化されています。
また記録の作成・保存については、暴露状況について労働者の意見を聞く機会を設け、記録を作成し、3年間保存しなければなりません。ただし「がん原性物質(GHS分類の発がん性区分1に該当する物質)については、30年間の保存義務が課されています。
4.改善指示を受けた場合、化学物質管理専門家の助言による改善計画作成・実施が義務化
化学物質管理専門家とは、専門的講習の修了者です。その講習内容は講義・実習で合わせて12時間が義務づけられています。職務内容は、ラベル・SDSの作成・確認、リスクアセスメントの実施管理、暴露防止措置の選択と実施管理、各種記録の作成・保存など、多岐にわたっています。
※講習の詳細は、厚生労働省「労働安全衛生法の新たな化学物質規制〜労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」
5.皮膚などの健康障害を防止するために、保護具着用管理責任者の選任が義務化
保護具着用管理責任者とは、保護具について一定の経験・知識を有する者で、有効な保護具の選択、使用状況の管理に関わる業務を行います。
6.SDSなどによる通知事業が追加され、含有量表示が適正化
改正前は、文書の交付、相手方が承諾した方法(磁気ディスク、ファクスなど)による通知でした。改正後は、相手方の承諾を得る必要がなくなり、電子メール、通知事項が記載されたホームページアドレス、二次元バーコード等による通知が追加されました。
またSDSの通知事項である成分含有量の記載については、従来の10%刻みを改め、重量%の記載が必要となります。
7.作業環境測定結果が第3管理区分の事業場に対する措置の強化
作業環境測定の管理区分とは、以下のとおりです。
・第1管理区分:作業環境が適切である状態
・第2管理区分:作業環境に改善の余地がある状態
・第3管理区分:作業環境が適切でない状態
この第3管理区分に該当した場合には、外部の作業環境管理専門家の意見聴取をした上で、改善措置の実施と効果確認をする必要があるなど、厳しい具体的な措置が義務付けられています。
「化学物質のリスクアセスメント(危険性評価)」の具体的対策とは?
多くの事業者がリスクアセスメントの「方法がわからない」と回答。
さて今回の改正でもっとも重要な「化学物質のリスクアセスメント」を解説します。民間事業者による自律的管理の最重要ポイントになるため、確実に押さえておきましょう。
リスクアセスメントとは、化学物質のラベルやSDS(安全データシート)により危険性・有害性を特定し、リスクを見積もるとともに、その低減措置を講じることです。
もともとリスクアセスメントは、2016年から対象化学物質を使用するすべての事業者に義務化されました。対象物質の数は2016年に640物質だったものが、2021年には671物質となり、その後も増加し続けています。これらは「有機則・特化則・PRTR・毒劇法」で定めた化学物質と比べると、その範囲が非常に広くなっています。
しかし、化学物質のリスクアセスメントが義務化されたものの、その実施率は69.6%(2022年 厚生労働省調べ)にとどまっています。その理由としては、「義務であることを知らない」「人材がいない」「方法がわからない」が多く、「罰則なない」ことも要因の一つといえるでしょう。
特に問題なのは、リスクアセスメントの「方法がわからない」という回答です。厚生労働省の資料でも「対象物に暴露される濃度の低減措置」や「代替物等を使用」など、やや抽象的な表現にとどまっています。リスクアセスメントの具体的な方法については、以下のホームページで支援ツールなどが紹介されていますので、参考にしてください。
※厚生労働省:化学物質のリスクアセスメント実施支援
★次回(後半)は、「新たな化学物質規制」に対応するために、ラベルを活用したリスクアセスメントの具体的方法をご提案します。化学物質管理を「見える化」し、SDS(安全データシート)の提供と化学物質管理をルール化する方法を、解説します。
ぜひご期待ください。
ブラザー販売 ビジネスNAVI 編集部
ブラザー販売、ビジネスNAVI担当者です。ビジネスNAVI編集者として、トレンドコラムやお客様の導入事例、パートナー企業、製品のソリューション情報などを発信していきます。
※この記事の内容は、2023年11月現在のものです。
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