― 豪州でのグリーン水素製造・パラオへの輸送・燃料電池による利活用の実証事業

グリーン水素を豪州からパラオへ

令和4年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(二国間クレジット制度資金支援事業のうち水素製造・利活用第三国連携事業)

事例の概要

国内で築いた「製造→輸送→利活用」の水素サプライチェーン、初めて海を越えて島嶼国へ。

本実証は、環境省の二国間クレジット制度(JCM)資金支援事業として採択され、代表事業者を中心とする国際コンソーシアムにより実施されました。豪州クイーンズランド州で製造された太陽光発電由来のグリーン水素を、水素吸蔵合金を用いた燃料ケース(MH燃料ケース)に充填して海上輸送し、パラオ共和国・パラオ国際空港で燃料電池により利活用する国際実証です。ブラザー工業は、このコンソーシアムの一員として、水素の貯蔵・利活用を担う機器の提供と仕様調整を担当しました。

これは、高輪ゲートウェイシティや名古屋・ブラザー工業瑞穂工場で取り組んできた、グリーン水素の「製造・輸送・利活用」というサプライチェーンを、国内から国際・海上輸送へと拡張する初めての試みです。

関連事例:
高輪ゲートウェイ駅に燃料電池設置
水素吸蔵合金グリーン水素充填・配送プロジェクト(瑞穂)

導入の背景にあった課題

太平洋の島嶼国では、電力の多くを化石燃料発電に依存し、送配電網も必ずしも安定していません。脱炭素への関心が高い一方で、再生可能エネルギーやクリーンな電源をどう確保していくかが共通の課題となっています。

こうした地域でグリーン水素を活用しようとすると、次のような難しさがあります。

・水素の供給源(製造地)が遠く、海を越えて運ぶ必要がある
・水素を扱う専門の事業者や設備が、現地に十分に整っていない
・それでもなお、安全に運び、保管し、使える形が求められる

「遠隔地・島嶼国に、グリーン水素を安全に届けて電源として使う」――この条件を満たす手段として白羽の矢が立ったのが、ブラザーの水素吸蔵合金を用いたMH燃料ケースでした。

コンソーシアムの中でブラザーが担った役割

複数の事業者が役割を分担する中で、ブラザーは水素の貯蔵・利活用の領域を担当しました。具体的には、水素吸蔵合金を用いたMH燃料ケース、燃料電池、水素充填装置を提供し、導入までの技術打合せと仕様調整を担いました。

ブラザーのMH燃料ケースには、非危険物認定を受けている水素吸蔵合金キャニスタが採用されています。水素の供給にMH燃料ケースを使用することで、安全な供給・運搬・保管を実現できる点が選定の決め手となりました。このMH燃料ケースは10気圧未満で充填されているため高圧ガス保安法にも抵触しません。水素を専門に扱う事業者が現地に常駐していない環境でも、過度な特別扱いを必要とせずに取り回せること――この「運べる水素」としての扱いやすさが、遠隔地・島嶼国という条件に適していました。

加えて水素吸蔵合金は、「まずは小規模で水素を使ってみたい」というニーズにも応えやすい方式です。高圧ガスのような大がかりな設備投資を前提とせずに始められ、取り扱う関係者への保安教育やトレーニングの負担も比較的軽く抑えられます。水素活用の第一歩を、過度なハードルなく踏み出せること。これも、専門の事業者や設備が十分に整っていない現場で水素を試すうえで、大きな利点となりました。

MH燃料ケースに使われている水素吸蔵合金キャニスタ(容器)

MH燃料ケース

実証の全体像 ― 製造から利活用までのサプライチェーンと、海上輸送で確立したこと

本実証は、グリーン水素のサプライチェーンを一気通貫でたどる形で行われました。

①製造(豪州クイーンズランド州)

現地の発電事業者が、太陽光発電由来の電力でグリーン水素を製造。ブラザーのMH燃料ケースに充填。

②輸送(海上)

コンソーシアムの物流体制により、MH燃料ケースをコンテナ船でパラオへ輸送。

③利活用(パラオ国際空港)

ブラザーの燃料電池にMH燃料ケースをセットし、空港内で発電・利活用。

国内で積み上げてきた「製造→輸送→利活用」の流れを、そのまま海上輸送を挟む国際サプライチェーンへと延伸した点に、本実証の意義があります。

グリーン水素サプライチェーン全体図(豪州での製造 → 海上輸送 → パラオでの利活用)

ブラザーのMH燃料ケースで採用している水素吸蔵合金キャニスタは、前述のとおり日本国内では非危険物認定を受けています。一方で、その海上輸送となると、国内・海外を問わず、適用される輸送規則への対応が必要で、決して簡単ではありません。

本実証では、コンソーシアム全体で豪州からパラオへ至る輸送スキームを構築しました。ブラザーも、自社のMH燃料ケースを国際輸送する過程で、海上輸送に伴う手続きや関係機関との調整に関する知見を蓄積しています。じつは、「国内でも同じように、水素を海上で運んでみたい」というご相談をいただくこともあります。ブラザーは、今回の実地経験をもとに、こうした海上輸送についても、相談の段階からお力になることができます。

この実証から見えた展開可能性

本実証を通じて、次のような展開の方向性が見えてきました。

遠隔地・離島への展開

電力供給の安定性が低い、あるいは供給源から遠い地域への電源設置。海外の島嶼国に加え、国内の離島・山間部・災害拠点なども対象として考えられます。

国際輸送・各国規制対応の知見

本実証で構築された豪州→パラオの輸送スキームと、各国規制への対応で得た知見。同種の国際案件を検討する際の出発点となります。

「地産地消モデル」への布石

将来的には、輸入に頼らず現地でグリーン水素を製造して使う形も見据えられます。今回の利活用実証は、その前段階としても位置づけられます。

ブラザーは、国内で培ってきた水素サプライチェーンの知見と、本実証で得た国際展開の経験をあわせ、クリーンなエネルギーの新しい届け方を追求してまいります。

※本事業は、環境省「二国間クレジット制度資金支援事業(水素製造・利活用第三国連携事業)」として、国際コンソーシアムにより実施されました。本記事は、そのうちブラザー工業が担当した範囲を中心にご紹介しています。

導入製品

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本実証では、ACUPS500Wをベースに改造した実証機を使用しています。

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