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モーダルシフトとは? 物流業務における環境負荷低減の取り組み

公開日:2023.07.13

     

あらゆる企業に環境への配慮が求められる時代。物流業でも持続的可能な社会の構築に寄与できる輸送や、倉庫管理が求められています。そうした中、物流業界で注目されているのが「モーダルシフト」と呼ばれる輸送方法です。

モーダルシフトは貨物輸送の方法をトラックから鉄道や船舶に切り替えること。モーダルシフトへの取り組みは環境への配慮だけでなく、物流業界の人手不足解消にも有効で、企業の印象もよくするものです。

本記事ではモーダルシフトの基礎知識や注目される理由、メリット・デメリットや国の補助制度などを紹介します。モーダルシフトの導入を検討している企業の方は参考にしてください。

モーダルシフトとは

モーダルシフトとは

物流業界で注目されているモーダルシフトとは、都市間の貨物輸送をトラックから鉄道や船舶に転換することです。貨物を長距離輸送するときに、一部区間をCo2排出量の多いトラックから、Co2排出量の少ない鉄道や船舶にシフトするだけで環境負荷を減らせます。

モーダルシフトの概念は、2度の石油危機を経た1980年代、省エネのために登場。1991年には物流業の労働力不足対策としても推進が提言さましたれたこともあります。

1997年には、京都会議(COP3)を前に開催された「地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議」で、2010年までにモーダルシフト率を50%に引き上げる方針が決定されました。そして近年、SDGsが世界的に注目されていることから、モーダルシフトはこれまで以上に関心を集めています。

出典:国土交通省「鉄道へのモーダルシフトの状況及び検討にあたっての問題意識について」
https://www.mlit.go.jp/common/001086757.pdf [新しいウィンドウ]

物流業界でモーダルシフトが注目される理由

物流業界でモーダルシフトが注目されているのは、我が国の全Co2排出量の中で運輸部門の排出量が18%(2億1,300万トン)を占めているためです。18%は産業部門に次いで2番目に多い数字です。特に物流分野でのCO2削減が重要とされ、国も低炭素物流の実現を目指しています。

社会的にSDGsが推奨されている中、物流業でも環境に配慮した倉庫管理や輸送方法にシフトして持続可能な社会へ貢献する取り組みが不可欠となりました。その代表的な施策がモーダルシフトです。

モーダルシフトを実現できれば、トラックの輸送距離も短縮され輸送が効率化されます。輸送の現場で働くドライバーの人手不足や労働環境も改善されるでしょう。モーダルシフトは物流業界のさまざまな課題解決にも役立つため、注目されているのです。

出典:国土交通省「国土交通省における地球温暖化対策について【概要】」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000006.html [新しいウィンドウ]

持続可能な社会に貢献する動き「SDGs」とは

SDGs(Sustainable Development Goals)とは、持続可能な開発目標を指します。2015年9月に開催された国連サミットで加盟国の全会一致で採択され、2030年までに持続可能でよりよい社会の構築を目指すことが国際目標とされました。

SDGsには17の目標が定められています。13番目に挙げられているのが「気候変動に具体的な対策を」とることです。気候変動を招く大きな要因は、地球温暖化にあるとされています。地球温暖化の原因は、Co2をはじめとする温室効果ガスです。そのためCo2の排出を抑えることが重要だと考えられています。

モーダルシフトによってCo2を大量に排出するトラック輸送を鉄道や船舶での輸送に代替すれば、Co2排出量を抑えられます。モーダルシフトの実現は、SDGsの目標である気候変動対策に貢献できるのです。

出典:外務省「SDGsとは?」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html[新しいウィンドウ]

モーダルシフトを実施するメリット

モーダルシフトを実施するメリット

モーダルシフトには次のようなメリットがあります。環境にメリットがあるだけでなく、工夫次第で物流業界に属する企業もメリットを得られる可能性があります。自社に合った方法を考えてみるとよいでしょう。

二酸化炭素(Co2)排出量の削減

Co2の排出削減は、地球温暖化による気候変動を抑えるために有効です。ではモーダルシフトによって、どれくらいCo2排出削減が可能になるのでしょうか。

国土交通省によれば、貨物1トンを1キロメートル運ぶ際にトラックなどの営業用貨物車を使用した場合、216グラムのCo2が排出されると言います。一方、鉄道輸送なら排出されるCo2は21グラムでトラックの約10分の1。船舶でも43グラムとトラックの約5分の1に抑えられます。長距離輸送の一部でも鉄道や船舶に置き換えれば、Co2の排出削減に大きく寄与できるでしょう。


出典:国土交通省「モーダルシフトとは」
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/modalshift.html[新しいウィンドウ]

長距離大量輸送によるコスト削減

積載量の大きな貨物鉄道や船舶を利用すれば、一度に貨物を大量輸送することが可能です。モーダルシフトは長距離大量輸送によって、燃料費や人件費などのコスト削減にもつながります。

通常の貨物列車は26両編成です。26両の貨物列車で運べる貨物は、10tトラックに換算して65台分。輸送効率が高いため、長距離になればなるほど燃料や人件費などのコストが低減できます。

一般的な国内用貨物船499総トンの場合なら、1隻で輸送できる物量は10トントラック160台分に相当するとされています。船舶1隻当たりに必要な船員は5人。トラックドライバー160人分に比べて、人的コストが削減できるはずです。

コストコストを削減できるだけではありません。小口輸送の増加で、物流業界ではトラックドライバーが不足しています。そうした労働力不足対策にもモーダルシフトは有効です。

労働力不足対策では、モーダルシフトだけでなく物流のDX化も効果的です。物流のDX化については「物流DXとは|新型コロナウイルスの影響について解説」を参考にしてください。

出典:物流DXとは|新型コロナウイルスの影響について解説
https://www.brother.co.jp/product/biz/business-navi/column/product-logistic/use28/index [新しいウィンドウ]

出典:日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)「貨物鉄道の特長」
https://www.jrfreight.co.jp/modalshift/[新しいウィンドウ]

出典:国土交通省「内航海運を取り巻く現状及びこれまでの取組み」
https://www.mlit.go.jp/common/001296360.pdf [新しいウィンドウ]

道路の混雑解消

トラック輸送を鉄道・船舶輸送にシフトさせれば、必然的に走行するトラックの数が減って道路の混雑解消にもつながります。

トラックを鉄道や船舶を利用すれば、道路混雑が解消され予定時刻に届けやすくなるでしょう。

何より鉄道や船舶には渋滞がありません。予定どおりの時刻で運行しやすいため、必要なものを必要なときに配送する「ジャストインタイム物流(JIT物流)」の実現にも寄与します。

モーダルシフトの課題

モーダルシフトの課題

地球環境にも物流業化にもメリットがあり、国も推進しているモーダルシフト。しかし、現在はそれほど導入が進んでいるわけではありません。導入が遅れているのは、以下のような課題があるためです。

小口輸送の場合はデメリットが多い

インターネット通販の需要増加によって個人への宅配など、小口輸送が増加していることは物流業界の方にとって常識でしょう。トラック輸送は1台単位の小口輸送に便利で、時間や頻度も調整できます。

しかし、モーダルシフトに使用する鉄道や船舶は、コンテナ単位での輸送となるため、トラックのようにフットワークが軽くありません。

鉄道や船舶は長距離の大量輸送でこそコストメリットを発揮します。

一般的に鉄道や船舶がトラック輸送に比べてコストメリットを発揮するのは、500キロメートル以上の長距離だとされています。現状では全体の9割以上が500km未満の輸送です。そのため工夫がなければ理論上、多くの配送で鉄道や船舶での輸送はコストが割高になってしまう計算です。

トラックを鉄道・船舶による長距離輸送のラストワンマイルのみに活用するなど、モーダルシフトしても採算の取れる方法を模索する必要があります。

輸送期間(リードタイム)が長引く

工場などの出荷先から納品先まで直接トラックで運ぶのに比べると、鉄道や船舶を利用する場合、納品までのリードタイムが長くなります。駅や港への移動や、貨物を載せかえる時間が必要なためです。

鉄道や船舶の運行スケジュールに合わせる必要があるため、トラック直送に比べるとリードタイムが長引くこともあります。モーダルシフトに移行するなら余裕のあるスケジュールを立てることが必要です。

スケジュールが狂いやすい

鉄道や船舶は天候の影響を受けやすく、運行スケジュールが変更になるケースも少なくありません。災害が起きた場合には不通になることもあり、予定の期日に荷物が届かない問題が起きる可能性もあります。

気候変動の影響で台風や豪雨災害などが以前より起きやすい現状でサプライチェーンを安定させるには、いざというときに備えて代わりの輸送手段を用意しておくことも大切です。

荷物の破損リスクが高くなる

鉄道や船舶での輸送はトラック輸送に比べると、荷物の破損リスクが高くなります。コンテナの積み替え作業が発生するためです。

トラックと比較した場合、鉄道は貨物に与える振動が大きいのが一般的です。洋上を航行する貨物船でも海が荒れた際には破損リスクが高まります。

預かった荷物が破損すれば、荷主から賠償請求される可能性もあります。破損リスクを低減させるためには、荷物に影響しないより適切な梱包などが必要です。

【関連法】物流総合効率化法

上記のようなデメリットを補う方法として、国は「物流総合効率化法(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律)」を制定しています。

物流総合効率化法では、物流業者が連携して流通業務における輸送・保管・荷さばき・流通加工を一体的に行うなどの輸送の効率化・合理化を図る事業を支援しています。

「物流総合効率化法」は、貨物の小口化・多頻度化などへの対応や環境負荷の低減、流通業務に必要な労働力の確保なども支援する法律です。モーダルシフトを考えている企業の方は活用してください。

出典:国土交通省「物流総合効率化法について」
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/bukkouhou.html#section-1 [新しいウィンドウ]

出典:国土交通省「物流総合効率化法(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律)の概要」
https://www.mlit.go.jp/common/001476255.pdf [新しいウィンドウ]

モーダルシフトを進めていくための取り組み

モーダルシフトを推進するため、国や団体はさまざまな取り組みを行っています。自社で活用できるものがあれば参考にしてください。

地域交通のグリーン化に向けた次世代自動車の普及促進事業

「地域交通グリーン化事業」は国土交通省の補助事業です。ハイブリッドトラックや天然ガストラックの導入支援として、運送事業者に通常車両価格との差額の一部を補助してくれます。

補助を受けるためには、交付申請前に「交付予定枠申込書」の提出が必要です。事業の実施スケジュールは例年、期間が限られているため、申請するなら実施スケジュールを確かめておきましょう。

出典:国土交通省「自動車環境総合改善対策費補助金(地域交通のグリーン化に向けた次世代自動車の普及促進事業)」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk1_000003.html [新しいウィンドウ]

Smart move(小co2排出量の交通手段の選択)

Smart move(スマートムーブ)とは、環境省が推奨するCO2排出の少ない移動にチャレンジする取り組みです。スマートムーブが推進している5つの方法を紹介します。

● 公共交通機関の利用
● 自転車、徒歩での移動
● 自動車の利用を工夫
● 長距離移動の工夫
● 移動・交通におけるCO2削減の取組に参加

スマートムーブは事業者以外にも広くCo2の排出削減に取り組んでもらう取り組みです。エコドライブの実践などは物流事業者にも役立つでしょう。

エコドライブは、CO2排出量を減らして地球温暖化防止につながる運転技術や心掛けです。具体的には次のような方法が推奨されています。

● 自分の燃費を把握する
● ふんわりアクセル「eスタート」
● 車間距離にゆとりをもって、加速・減速の少ない運転
● 減速時は早めにアクセルを離す
● エアコン使用は適切に
● ムダなアイドリングをやめる
● 渋滞を避け、余裕をもって出発する
● タイヤの空気圧から点検・整備をはじめる
● 不要な荷物はおろす
● 走行の妨げとなる駐車はやめる

出典:政府広報オンライン「Smart move(スマートムーブ)に取り組んでみませんか?」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201403/3.html#anc01 [新しいウィンドウ]

総合物流施策大綱

総合物流施策大綱は、物流を取り巻くさまざまな課題への対応を検討し、今後の物流施策についての提言を目的に策定されるものです。

2021年6月に閣議決定した「総合物流施策大綱(2021年度〜2025年度)」では、鉄道輸送を25億トンキロ、海運輸送を31億トンキロまでに増加させることを目指しています。

また物流を取り巻くさまざまな課題の解決に向け、新たな大綱の報告や、今後の推進体制などをテーマに「総合物流施策大綱に関する検討会」への報告会も開かれています。

出典:国土交通省「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_tk1_000179.html [新しいウィンドウ]

グリーン物流パートナーシップ会議

グリーン物流パートナーシップ会議は、国土交通省と経済産業省が共同で開催しているもので、荷主企業や物流事業者がパートナーシップを組んで、横断的に協力しながらグリーン物流を推進しています。

令和3年1月の時点で3,300を超える企業・団体が会員登録しており、優良事業者の会員に経済産業大臣表彰などをしています。表彰されれば企業のイメージも向上するはずです。

出典:国土交通省「グリーン物流パートナーシップ会議」
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/GreenLogisticsPartnership.html [新しいウィンドウ]

エコシップモーダルシフト推進事業

エコシップモーダルシフト事業は、国土交通省が海上輸送へのモーダルシフトに貢献する荷主企業や物流事業者を選定・顕彰するものです。

モーダルシフト貢献企業には、環境負荷が少なく、省エネ・Co2の排出削減効果のあるフェリー・ROKO船・コンテナ船・自動車船を利用する企業が選ばれ、選定企業にはエコシップマークの使用が認められます。

エコシップマークは、海上輸送を通じて環境対策に貢献する企業の証。国土交通省はその認定を通じて海運事業者や荷主企業のモーダルシフトを応援しています。

出典:国土交通省「エコシップモーダルシフト事業」の実施~エコシップマーク制度創設~」
https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/10/100321_.html [新しいウィンドウ]

モーダルシフト等推進事業

モーダルシフト等推進事業は国土交通省の補助事業です。Co2の排出削減、流通業務の省力化によるサスティナブルな物流体系の構築を図るため、協議会がモーダルシフトへの取組みを支援します。

モーダルシフト等推進事業では「総合効率化計画策定事業」「モーダルシフト推進事業」「幹線輸送集約化推進事業」を対象に、上限500〜1000万円規模の補助金を交付しています。

対象となるのは、直近1年間に物流総合効率化法の計画認定を受けた事業、または物流総合効率化法の計画認定を受けることを前提とした調査事業などです。

出典:国土交通省「モーダルシフト等推進事業」
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/ms_subsidy.html [新しいウィンドウ]

貨物鉄道の輸送障害に対する取組

国土交通省は災害などで鉄道輸送障害が起きたときの対応の一つとして、鉄道貨物を利用する運送事業者の貨物が運べなくなった際、トラックによる臨時代行輸送を支援しています。

鉄道輸送に障害が起きたときは、物流を維持するために必要な代行輸送のトラックを迅速に集めることが必要です。そこで国土交通省は、鉄道輸送障害時に集配営業所同士の車両移動の弾力化を可能にする通達を出しています。

出典:国土交通省「貨物鉄道の輸送障害時における集配営業所間の車両移動の弾力化を可能とする通達の発出について」
https://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000227.html [新しいウィンドウ]

モーダルシフトを導入してエネルギーを無駄にしない物流業務を実現しましょう

今は全ての企業に環境対策が期待される時代です。Co2の排出量が多い物流業界は率先してSDGsを推進すべき立場であり、地球温暖化防止の社会的責任を果たすことが求められています。

モーダルシフトはCo2の排出を削減して気候変動に対処するための重要な方策の一つです。メリットを最大限に活かし、デメリットを国の政策などでカバーしながら、自社に合った方法を検討し、できることから取り組んでいきましょう。

   
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ブラザー販売 ビジネスNAVI 編集部

ブラザー販売、ビジネスNAVI担当者です。ビジネスNAVI編集者として、トレンドコラムやお客様の導入事例、パートナー企業、製品のソリューション情報などを発信していきます。

   

※この記事の内容は、2023年5月現在のものです。
※この記事でご提供する情報は、その正確性と最新性の確保に努めておりますが、完全さを保証するものではありません。当社は、当サイトの内容に関するいかなる誤り・不掲載について、一切の責任を負うものではありません。

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