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Brother World Online 2021レポート②
-製造、物流、小売 各業界のDX-

更新日:2022.01.07 公開日:2022.01.07

ブラザーの配信型イベント「Brother World Online 2021」が、2021年11月25日に開催されました。昨今の不安定な情勢の中で、企業が生き抜くために必要な戦略の一つであるDX(デジタルトランスフォーメーション)ですが、実際に取り組もうとしても「どこから始めればよいか分からない」「人財や時間、投資資金といったリソースが足りない」という課題にぶつかっている企業やご担当者様の声をよく耳にします。そこで本イベントでは、「すぐに取り組める小さな一歩」をテーマとして、ゲスト講師の皆様にDXのコツやスモールスタートについてお話しいただきました。 本記事では、製造・物流・小売の各業界で活躍されているゲスト講師による講演をご紹介します。
※業界横断的なDXの本質や、共通するポイントについての記事はこちら⇒

【製造】DXを志すすべての人に知ってほしい!
製造業DXに潜む痛みの原因と処方箋

製造業の実情に即したDXを進めるためのヒントを伺ったのは、株式会社マクニカの阿部 幸太さんです。阿部さんはこれまで様々な企業のDXを支援してこられたご経験から、「人が中心のDX」、つまり将来にわたって実行可能な人・技術・インフラを揃えることの重要性を発信されています。

   

ご登壇者

株式会社マクニカ デジタルインダストリー事業部 事業部長 阿部 幸太 氏

戦略系コンサルティング企業で、製造業向けマーケティング / 営業支援に従事。その後、株式会社マクニカに転職。 シリコンバレーを中心とした海外最新電子コンポーネントのマーケティング / 導入支援を、国内製造業の設計開発向けに実施。2020年5月に技術雑誌『機械と工具 2020年5月号』にて「スマートファクトリーの実際」を執筆。 現在はスマートファクトリー導入支援事業を推進。

   

DXという言葉が溢れている中でも、多くの企業にとって壁となっているのは、妥当性や進捗の判断が難しいという点です。このために期待値との乖離や、メンバーに対するプレッシャーが発生しているケースが散見されるようです。 どのようなDX施策を取るにせよ、ほぼ必ず業務プロセスの変更と部門間の連携が伴います。磨き込まれてきた既存システムをどの順番で連携させていくか、誰が部門間の連携をハンドリングするのかという部分で躓き、先へ進めないということになります。

そこで、取り組み始めている企業もこれから取り組もうとしている企業も、何より「コミュニケーションの難易度を下げること」が鍵になります。阿部さんはそのはじめの一歩として、①健康診断 ②シミュレーション の2つを挙げました。
「健康診断」とは、全社横断的なコミュニケーションのための客観的・定量的な現状分析を指します。現状の出発点が明確になっていないと足元が不安定なままとなり、最初のタイミングを逃すと手戻りになってしまうリスクもあります。まずは部門同士の足並みを揃え、共通言語として持っておくために実施したほうがよいと言えます。
次に「シミュレーション」です。「健康診断」と同様に、部門同士で体験を共有し、方向性を合わせる目的で実施するもので、工場などを再現して「人を増やしたら」「在庫を増やしたら」「投入量を増やしたら」といった条件でシミュレーションすることで、コミュニケーションの円滑化が期待できます。また、そのときに再現性の高さにこだわりすぎないことも大切です。細部の精度は後から向上させることにして、全体の傾向を掴むことを優先するということです。 「健康診断」と「シミュレーション」を最初に実施することが、DXを成功させるための組織作りや、企業文化の変革の礎になります。阿部さんは、「会社の内部・競争環境と目指すべき方向を理解して、どういうテクノロジーが必要か考えて選べる人が社内にいれば、DXは成功します」と語りました。

製造DX

組織作りの重要性に続いて、データ活用を進める上で陥りやすい落とし穴についてもポイントをお話しいただきました。「データ活用は最初が一番難しい」とした上で、データの要件定義・質の検討・取得方法の検討の3つを、最初は外部のプロと一緒に取り組むのが近道だと言います。特に製造現場では、予め装置や設備の稼働データについて起こりやすい課題を考慮してプランを立てる必要があるためです。
データは取得と活用のサイクルを回し続けるものであるので、運用を見据えてプロジェクトを進めることも重要です。管理・評価の役割やルールを明確にしておくことも一つのポイントです。

阿部さんの講演からは、テクノロジーを導入する前に目的をどのように見定めるか、その目的には何が必要かという基本を抑えることの重要性が伝わってきました。特に複数のシステムや機械が入り組む製造業において、まずは社内での部門間のコミュニケーションを円滑にし、同じ方向を向くことが、成功するDXへの第一歩なのです。

【物流】データ・ドリブン経営を目指した取り組みのご紹介

デジタルへの転換が迫られている物流業界。そのリーディングカンパニーであるヤマト運輸株式会社で、データ・ドリブン経営への転換に向け、データ戦略の策定・推進に取り組まれている小金 悦美さんをお招きし、物流におけるイノベーションのポイントをお聞きしました。

   

ご登壇者

ヤマト運輸株式会社 デジタル機能本部 デジタルデータ戦略部 シニアマネージャー 小金 悦美 氏

大阪大学卒業後、エネルギー会社のマーケティングに従事。その後、株式会社インテージにて、主にマーケティングにおけるデータ活用支援を行う。 2020年7月から、同社にて、デジタルデータをグループ横断で最大限に活用するためのデータ戦略の策定・推進を担う。

   

小金さんは、まずヤマトの歴史を振り返り、2020年1月に策定した経営構造改革プラン「YAMATO NEXT 100」の中で、現在社会的インフラ企業として取り組んでいることを紹介しました。 「3つの事業構造改革」と「3つの基盤構造改革」からなる「YAMATO NEXT100」は、お客様、社会のニーズに応え、これからもヤマトグループが持続的に成長していくための抜本的な改革と位置づけられています。そして、それがデータ・ドリブン経営の実現につながっていることも、決して偶然ではありません。

事業構造改革のポイントの一つは、ECエコシステムの確立です。宅急便は従来、個人から個人へものを送るのが主流でしたが、現在はECの普及により、自分がECで注文したものを自分が受け取ることが増えました。そこで求められるのは、欲しいタイミングで欲しい場所で確実に受け取ることです。そうしたシーンとニーズの変化に対応するため、新しいデータ基盤として「Yamato Digital Platform」を構築し、ECに特化した物流サービスの創出に取り組んでいます。

一方、基盤構造改革では、グループ経営体制の刷新や、データ・ドリブン経営への転換、サステナビリティへの取り組みといった要素が組み込まれています。 データ・ドリブン経営への転換でまず取り組んでいることとして、小金さんが挙げたのは「現場の経験と勘に、徹底したデータ分析とAIを組み合わせ、物流オペレーションの全体最適を目指す」ということです。そのために①機械学習モデルの開発と運用、②それをもとにしたMLOps基盤(業務システムに機械学習を組み込んで、自動で予測サイクルを回す基盤)の開発、③適正な人材確保・配置、の3つを進め、物流オペレーションの効率化・標準化にくわえ、データ分析に基づく業務量予測による経営資源の最適配置を図る、と小金さんは説明しました。 さらに、データ・ドリブン経営への転換は、グループ経営体制の刷新と直結しています。つまり、これまで事業ごとに持っていたデータを統合する体制を整えることがもう一つのステップとして現れてきます。法人を含むお客様のアカウントデータを統合し、顧客体験を向上させるべく進めているのも、その取り組みの一つだそうです。

物流DX

荷物量が市場全体で伸びている状況で、今後もこの流れは続くと予測されます。小金さんは、お客様の利便性向上は取り組むべき永遠のテーマだと語りました。そしてこれからのヤマトの方向性にも現れています。 現在はセールスドライバーや営業所などフィジカルな接点で得られるデータが豊富にある状況です。フィジカルで得たデータをデジタル上で分析・最適化し、再度フィジカルの現場に落とし込むことが理想の運用となります。いわゆるデジタルツインの構想を実現する経営基盤を構築していくことが今後のヤマトの課題である、ということが、小金さんの講演の締めくくりとして示されました。

実際のご経験に基づいて小金さんが話した取り組みには、「経験と勘に頼らないオペレーション」「社内でのデータ統合」「デジタル上のシミュレーション」といった、DXの種が示唆されています。大規模な投資によって解決できることもありますが、そうした種を拾い上げて、自社でできることを考えていくのも、すぐに始められるDXのスモールスタートなのではないでしょうか。

【小売】小売業界における、DXのスモールスタート
- 個売とコミュニティから始まるデジタルイノベーション -

ライフスタイルの変化の影響を顕著に受けている小売業界では、これからのDXをどのように考え取り組むべきでしょうか。今回は、アパレル企業のDXを推進されたご経験もあるトランスコスモス株式会社の柏木 又浩さんに、小売業のトレンドを押さえたDXについてお話しいただきました。

   

ご登壇者

トランスコスモス株式会社 常務執行役員 デジタルトランスフォーメーション総括責任者 柏木 又浩 氏

2012年総合アパレル企業TSIのデジタル執行役員とEC 、OMO、デジタルマーケティングを統括する子会社社長を兼任。2020年4月よりトランスコスモスの常務執行役員としてカスタマーセントリックなNEXT小売のDX戦略を描く。

   

新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、小売は次のフェーズに入ったと柏木さんは言います。次世代リテールではDXを通じた顧客理解が更に重要になり、「Anywhere Commerce」をキーワードに、いかに生活者目線でサービスをデザインできるかが鍵になります。ニューヨークの空港で、搭乗券を読み込むことで飲食やゲームなど様々なサービスを受けられる事例を挙げ、シームレスな体験の価値が増大していることを示しました。 一方で、過去を振り返ってみたとき、情報化社会の中で生活者の力が強くなってきていることも指摘しました。特にiPhoneやSNSの影響力が強いことは言うまでもなく、従来の一方的な顧客接点ではなく、「双方向のエンゲージメントが価値になる」ということを強調しました。この点を意識できていないままにSNSを活用しようとしても、上手くいかないケースが多いとのことです。

新たな小売のあり方を定義するキーワードとして、「DNVB(Digital Native Vertical Brand)」についても紹介がありました。類似するものに「D2C(Digital to Consumer)」もありますが、ECとインフルエンサー・SNSを組み合わせて価値を訴求するD2Cに対して、DNVBはフィロソフィー(ブランド哲学)とコミュニティを基盤として価値を創造していくブランドを指します。米国のアパレルブランドBONOBOS(ボノボス)の創業者が提唱した考え方ですが、フィットネスのサブスクリプション(定額)サービスを提供しているPELOTON(ペロトン)や、ヨガウエア・トレーニングウエアのブランドlululemon(ルルレモン)など、顧客をコミュニティ化してフィロソフィーに触れてもらうことで、ブランドに関わる様々な行動全体を体験価値に昇華することに成功している事例が実際に登場しています。 こうしたブランドが生まれている欧米ではDXを投資として捉えているため、戦略的に取り組めていることも成功の要因ではないかと柏木さんは分析します。

小売DX

中国の小売トレンドも絶えず進化を続けており、やはりコミュニティに対する考え方の重要度が増しているようです。
プラットフォームを指す「公域」と企業独自のドメイン「私域」に分かれており、多くの企業は公域から入りながらも私域を目指している、という流れができているとのことです。コロナ禍で急激に伸びたライブコマースも、単なる販売チャネルではなく私域=企業独自のドメインでコミュニティを作るためのツールと捉えられているのだと柏木さんは解説しました。

何かをしたいと思った瞬間にスマートフォンを開く「マイクロモーメント」の拡大も相まって、世界的にメディアよりもコミュニティと共感を重視する消費傾向が強まっています。顧客接点がほぼモバイルベースに移っている今、そのツールを活用してコミュニティを築くことは、ブランド体験およびブランド価値を向上させるために必要な施策と言って間違いないでしょう。そして小売業界のDXは、まさにその体験価値を高めることをゴールと定め、コミュニティ作りから始めることも一つの方法論だと言えそうです。

   

ブラザー販売 ビジネスNAVI 編集部

ブラザー販売、ビジネスNAVI担当者です。ビジネスNAVI編集者として、トレンドコラムやお客様の導入事例、パートナー企業、製品のソリューション情報などを発信していきます。

   

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