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Brother World Online 2021レポート①-DXの本質とは?-
更新日:2022.01.07 公開日:2022.01.07
ブラザーの配信型イベント「Brother World Online 2021」が、2021年11月25日に開催されました。
昨今の不安定な情勢の中で、企業が生き抜くために必要な戦略の一つであるDX(デジタルトランスフォーメーション)ですが、実際に取り組もうとしても「どこから始めればよいか分からない」「人材や時間、投資資金といったリソースが足りない」という課題にぶつかっている企業やご担当者様の声をよく耳にします。
そこで本イベントでは、「すぐに取り組める小さな一歩」をテーマとして、ゲスト講師の皆様にDXのコツやスモールスタートについてお話しいただきました。本記事は、イベントで語られた「DXの本質とは」「様々な業界で共通するポイント」に焦点を当てて、基調講演およびパネルディスカッションの様子をお伝えします。
※製造・物流・小売の各業界で特有の事例や考え方をご紹介する記事はこちら⇒
特別SESSION「明日からはじめるDX」
本イベントの基調講演は、株式会社Kaizen Platformの須藤 憲司さんに行っていただきました。様々な業種の顧客体験の改善を支援してきたご経験から、DXをどこから始めればよいか、どのような現場業務が改善されるか、といった点をご解説いただきました。
ご登壇者
株式会社Kaizen Platform 代表取締役 須藤 憲司 氏
2003年に早稲田大学を卒業後、リクルートに入社。同社のマーケティング部門、新規事業開発部門を経て、リクルートマーケティングパートナーズ執行役員として活躍。その後、2013年にKaizen Platformを米国で創業。現在は日米2拠点で事業を展開。企業の顧客体験DXを支援する「UX」「動画」「DX」の3つのソリューションを提供。
著書
「ハック思考~最短最速で世界が変わる方法論~」
「90日で成果をだす DX(デジタルトランスフォーメーション)入門」
「総務部DX課 岬ましろ」
須藤さんは最初に、ペーパーレスから始めるDXがコロナ禍で急速に進んだことを挙げました。チラシやパンフレット、研修や営業の資料などが動画になったことによって、その視聴に伴う行動のデータが活用できるようになりました。特に営業では、動画をはじめとしたデジタルのコミュニケーションを活用して営業トークとヒアリングの質を高める手法を取り入れたところ、移動時間やコストを節約しながらも商談化率が向上するという成果が出ているとのことです。
そうしたDXのスモールスタートの一つには、自社サイトにおける動画の活用もあります。スマートフォンやタブレット、SNSの普及によって、多くの人が情報取得に対して受動的になり、さらに1本あたりの視聴に耐えうる時間の短尺化が進んでいます。そのような中で、自社サイトをDXの第一歩=動画活用のハブとして活用することは、顧客接点の強化に最も有効な手段の一つです。
また、営業におけるデータ化のメリットには、営業担当者に余力ができることで付加価値を生み出すことができるという点もあります。つまり、サービスの説明などのクオリティを底上げできるだけでなく、説明の時間を減らして新たなニーズを探る時間に充てるといった使い方も期待できるということです。そして営業だけでなく、CRM(顧客関係管理)でもデジタル化のメリットは大きいと言えます。例えば、メーカーの保証書や取り扱い説明書をデジタル化すれば、顧客がいつ何を買っており、どのようにアフターフォローすればよいかといったことも分かりやすくなります。DXを進める上で大事なことはデジタルを使うことではなく、デジタル化によるデータを活用することだ、と須藤さんは強調しました。
ニューノーマルの働き方や、紙の卸値・物流費用の観点も考慮すると、これまでのような営業手法を継続するのは難しくなると考えられます。一方で5Gによってデータ送受信のコストが下がることで、デジタルシフトはますます加速するでしょう。情報は紙から動画に、エネルギーは石油から電気に、お金は現金からキャッシュレスに、といったように、DXの本質は移動コストを下げ、働きやすさや利便性を向上するために工夫を重ねることにあると須藤さんは指摘しました。そして、その先で世界が抱える社会課題の解決につながることも重要なポイントです。紙の使用量を減らせば物流量が減り、温室効果ガスの排出量も削減されると考えると、SDGsの観点でも、DXはこれからの時代に必須の要素です。まずは紙だったものを動画にすることから始め、そこから生まれた余力で次の改善策を考えるというサイクルを回しながら進めるのがDXの真髄であり、意義でもあるということです。
パネルディスカッション「DX実現のカギは何か」
様々な業界でDX推進を担当されているゲストによるパネルディスカッションでは、株式会社マクニカの阿部 幸太さん(製造分野)、ヤマト運輸株式会社の小金 悦美さん(物流分野)、トランスコスモス株式会社の柏木 又浩さん(小売分野)、ファシリテーターとしてD4DR株式会社の藤元 健太郎さんにご登壇いただきました。
<トークテーマ>
①DXを進めるうえでの課題は、どのようなものか?
②グランドデザインは描いてから取り組むことが多いか?/取り組んだか?
③トップダウン/ボトムアップ、双方の進め方のメリットと難点
④人材育成のポイント
⑤データ活用のための環境や機能の整備
ご登壇者
株式会社マクニカ デジタルインダストリー事業部 事業部長 阿部 幸太 氏
戦略系コンサルティング企業で、製造業向けマーケティング / 営業支援に従事。その後、株式会社マクニカに転職。 シリコンバレーを中心とした海外最新電子コンポーネントのマーケティング / 導入支援を、国内製造業の設計開発向けに実施。2020年5月に技術雑誌『機械と工具 2020年5月号』にて「スマートファクトリーの実際」を執筆。 現在はスマートファクトリー導入支援事業を推進。
ヤマト運輸株式会社 デジタル機能本部 デジタルデータ戦略部 シニアマネージャー 小金 悦美 氏
大阪大学卒業後、エネルギー会社のマーケティングに従事。その後、株式会社インテージにて、主にマーケティングにおけるデータ活用支援を行う。 2020年7月から、同社にて、デジタルデータをグループ横断で最大限に活用するためのデータ戦略の策定・推進を担う。
トランスコスモス株式会社 常務執行役員 デジタルトランスフォーメーション総括責任者 柏木 又浩 氏
2012年総合アパレル企業TSIのデジタル執行役員とEC 、OMO、デジタルマーケティングを統括する子会社社長を兼任。2020年4月よりトランスコスモスの常務執行役員としてカスタマーセントリックなNEXT小売のDX戦略を描く。
D4DR株式会社 代表取締役 藤元 健太郎 氏
野村総合研究所を経てコンサルティング会社D4DR代表。1994年からインターネットビジネスのコンサルティングをスタート。日本発のeビジネスオープンイノベーションプロジェクト「サイバービジネスパーク」を立ち上げる。広くITによるイノベーション,新規事業開発,マーケティング戦略などの分野でコンサルティングを展開。BSジャパン日経プラス10ゲストコメンテーター,日経MJでコラム「奔流eビジネス」,Newsweek日本版で「超長期戦略企画室」を連載中。
著書
「ニューノーマル時代のビジネス革命」
①DXを進めるうえでの課題は、どのようなものか?
阿部さんは「そもそもの業務プロセスを考え、そのためのシステム導入と捉えなければ上手くいかない」と、目的を明確化することの重要性を述べました。機械メーカーの例として、自動化を検討する際にシミュレーションしたところ、現行の業務プロセスの非効率や無駄が見つかり、結果としてシステムやロボットを導入しなくても課題が解決できたことがあったそうです。柏木さんも「たくさんのデータを取りたい・活用したい」と詰め込むのではなく、本来目指していることのためのデータという考え方にシフトすることで課題解決につながると示唆しました。
また、小金さんは社内の取り組み状況について「これまで現場の経験と勘で行っていたオペレーションをデータ・ドリブンで効率化・標準化したことで、現場の社員がよりお客さまに向き合う時間を創出することができた」と語りました。現場が優秀な日本企業だからこそ、現場の部分最適に依存するのではなく、経営層による現場の理解と仕事の本質の定義が必要と言えそうです。
②グランドデザインは描いてから取り組むことが多いか?/取り組んだか?
どちらが正しいということはありませんが、実際にDXを成功に導いてきたゲストの方々は「あったほうがよい」とのご意見でした。
柏木さんや小金さんはその上で「時代とともに変化する技術や価値観などを柔軟に事業に落とし込んで、さらにそれを現場と共有し理解してもらうことが鍵になる」「現場の状況を見ながら優先順位を変える」と補足しました。これはグランドデザインを描くにあたって、最初から完璧を求められるようなプレッシャーにならないという側面もあるのではないでしょうか。
阿部さんは「グランドデザインは必須」と強調し、製造業では個別の現場でできる改善はやり尽くしているケースが多いと指摘しました。さらなる改善には、グランドデザインに加え、現場同士の横連携も欠かせないようです。
③トップダウン/ボトムアップ、双方の進め方のメリットと難点
柏木さん曰く、旧態依然で必要のないルールを切り捨てる議論ができるのは経営層だけで、そこでルールが変更できることによってDXが進む場合もあるとのことです。小金さんも、経営層がDXという言葉だけでなく、危機意識を持っていたからこそ取り組むことができたというご経験を共有しました。
生活者と直接接点のある物流・小売業界では、生活者からの要求も強まっていると考えられます。その点で、直接接点のない製造業界の変革は、市場に追従する重要性を経営層が理解しているかが分岐点になりうるという阿部さんのお話もありました。
④人材育成のポイント
社内での人材育成も、持続的な改善・アップデートのために考えなければならないことの一つです。この点について、小金さんはまず、現場とエキスパートをつなぐ「ハブ人材」の重要性を挙げました。そして、意欲のあるデジタル人材が育つ環境や仕組みを整えることが必要であると語りました。同様に社員を育てる場合として、柏木さんは「ITの専門職も必要だが、長年現場で勤めている人がリテラシーを高めるほうが、DXの本質に近付くことができる」と語ります。
阿部さんによると、機能分化が進んでいる製造業の人材にとっては、他の人の業務の自分ごと化が難しい点も課題ですが、改善を進める人が積極的に発信することで現場と乖離することなく進められるということから、そうしたケースでも同じくハブ人材が重要であると言えるでしょう。
⑤データ活用のための環境や機能の整備
データ活用のために整えるべき条件の一つは基盤の構築で、設計や生産など様々なシステムが動いている製造業などは特に、俯瞰してシステム・役割・責任者を明確化するだけでも大きな一歩になります。その上で優先順位をつけ、データの中身をある程度揃えて使える状態にすることで、初めて活用のビジョンが見えるようになります。阿部さんや小金さんのご経験から、それらの運用が上手くいかない場合でも一つ一つ対処していくことが理想的な一方で、それが難しいこともよく伝わってきました。
また、今後は業界や企業の垣根を超えてデータを共有することも有効な戦略になると考えられます。柏木さんは活用していないデータやコストなどの無駄についても触れ、そうしたプラットフォームの必要性を訴えました。
DXは、これまで現場の部分最適に頼ってきた企業においてこそ、トップが音頭を取って全体最適のビジョンを描き、投資する必要のある施策です。一方で、ゲストの皆様のお話を聞くと、現場の力を活かしてアジャイルにPoCを回すことができるのも、そうした企業の強みであるということが分かりました。その強みを活かして、現場と経営層の距離をより縮めて取り組めば、持続的に成長する仕組みを作り上げることは難しくないのだと確信できる座談会となりました。
ブラザー販売 ビジネスNAVI 編集部
ブラザー販売、ビジネスNAVI担当者です。ビジネスNAVI編集者として、トレンドコラムやお客様の導入事例、パートナー企業、製品のソリューション情報などを発信していきます。