オンラインイベントレポート「ブラザー オンラインカンファレンス 『変化の時代』を乗りこなそう」
第4部「企業が取り組むべきDXの新潮流とは!?」
更新日:2022.01.12 公開日:2021.04.02
2021年2月26日、ブラザーの配信型イベント「ブラザー オンラインカンファレンス 『変化の時代』を乗りこなそう」を開催いたしました。VUCAとも呼ばれる変化の時代、企業は自ら変わることが求められています。本イベントではそのためのヒントをお届けすることを目的として、小売・製造・物流の3つの分野の専門家をお招きし、各業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)について講演を行っていただきました。
小売分野「真のDX・小売のDX」
最初の講演として、DX JAPAN代表の植野大輔さんに、DX全体と小売におけるDXの2つのテーマについて解説していただきました。
1. DX全体について
1.1.真のDXの必要性
植野さんによると、DXを考えるとき、10年という時間軸がとても大事になります。ここ1、2年の一過性のブームとしてではなく、10年という長いスパンでDXを捉え、真のDXを実現していく必要がある、と植野さんは話します。
過去、日本はテレビのような大きいハードや、実店舗を介してコンテンツを享受する「物理世界」に生きていました。しかし、この10年で様々なデジタル技術が生活に入り込み、「情報世界」が登場しています。そして、物理世界と情報世界とが混ざりあい、電車内にいながら、スマホのような小さなデバイスを通じて広大な情報世界に没頭する――こうした事態がより進行していくと考えられます。その結果、企業はデジタルを通じて、顧客と常時接続されることになります。それは、これまでの企業広告のような一方通行のやりとりではなくなるということを示唆しています。
また、AIの登場によって、人間には不可能だった膨大なデータの演算も可能になりました。
これらの状況を鑑みると、企業はこれまでのアナログ・リアルな業務やサービスでは立ちいかなくなる可能性が高いと言えます。顧客に常時接続状態だからこそ、顧客あるいは社会起点の変革が必要になってくる上に、全社改革的に取り組んでいく必要が出てきます。そのため、単なるデジタル化ではなく「DX」が必要になってくるのだと、植野さんは強調しました。
1.2.デジタル時代の新しい潮流が小売を襲う
消費者と直接取引するD2C(Direct to Consumer)や定額で顧客に買っていただくサブスクリプションという形態によって、これまでのような工場や店舗・広告がいらない時代が来ます。一度商品を売って終わりのブランドスイッチ・短期の売り上げではなく、定額で1人の顧客に生涯かけてどれだけそのブランドに支払っていただくか(ライフタイムバリュー:生涯顧客価値)が重視されるようになります。それを支えるのがブランド体験(BX:Brand Experience)であり、これに小売業界がどう向かい合うかが喫緊の課題となっています。
2. 小売のDX
マッキンゼーの調査によると、DX成功企業の一つの特徴は「新規投資の50%以上がデジタル化への投資であること」だと言います。
事実、海外の小売はデジタル化へ多額の投資を行い、顧客とのタッチポイントから決済、受け渡しのあらゆる工程にデジタル技術を取り入れたサービスの構築を実現しています。それを支えるインフラ基盤や、全体的な業務の効率化にいたるまでにデジタルを取り入れ、デジタルによって首尾一貫したグランドデザインが為されること、これがまさにDXであると言えます。
一方、日本の小売のDXは表面上のパッチワークで終わってしまっていると言わざるを得ません。DXは全社改革が必須であるにもかかわらず、自社内の小さい組織に丸投げしたり、目先の流行をバラバラに取り入れたりしているだけという例も少なくありません。集客アプリ導入で満足している企業も多いのではないでしょうか。
DXは既に第2回戦とも呼べる局面に移行しつつあります。店舗を持たないECサイトを主戦場としてきた企業たちが、無人店舗の開発というデジタル戦略によってリアル店舗の市場に進出しつつあるのです。
そうした中で既存の小売企業としては、目先の利益・流行にとらわれずに10年後を見据え、本腰を入れてDXを推進していく必要があります。植野さんは「そのためにも、DXを経営アジェンダに据えて、新規投資の半分はデジタルに回し、グランドデザインを構築していくことが求められている」という提言で本講演を締めくくりました。
製造分野「製造のDX」
次に、Team Cross FA・FAプロダクツの谷口真一さんに、製造業においてDXが必要とされる背景や「スマートファクトリー」についてお話しいただきました。
1. 製造業のDX化が必要な背景
1.1.製造業が置かれている環境
谷口さんは、現在製造業をとりまく環境には、大きく以下の3つの特徴があるといいます。
①不確実性が高まり、先が見通せない
リーマンショック以降、世界の政策不確実性指数は右肩上がりである。グローバル化の進展により、隣国の出来事が自国の会社などに大きく影響に出るようになっている。自分たちではコントロール不可能な要素が増えている。
②設備投資するものの、旧型設備のメンテナンスが多く生産性が低迷
設備投資はリーマンショック後伸びているものの、その予算は新規設備導入にあまり回されていない。古い設備をメンテナンスすることがメインである。そのため、国内の生産性が上がらず、問題となっている。
③リードタイム短縮・人手不足などの多くの課題
消費者ニーズの多様化に由来する製品寿命の短命化、リードタイム短縮ニーズの高まりに加え、人手不足、価格競争などの課題があり、多品種少量生産になっている。
1.2.解決のキーワードは「ダイナミックケイパビリティ」「デジタルトランスフォーメーション」
上記のような環境において、課題を解決するためのキーワードとして、谷口さんは以下の2つを挙げました。
①企業変革力(ダイナミックケイパビリティ)の強化の必要
これまでは中期計画、長期計画が一般的でしたが、昨今ではイレギュラーな要因によって短期間で急激に売上が変動する事態が増えてきているという事実があります。計画的に何かを実現するというより、目の前の事態にいかに対処するのか、という柔軟性が求められるようになってきていると考えられます。
②企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション推進の必要
企業変革をするにしても、その過程がアナログだと時間がかかってしまい、本末転倒のリスクもあります。つまり、デジタル化の必要性はここでも出てくるということになります。
1.3.製造業の課題解決と将来の発展にはDXの実現が急務
これまで、IoT化やスマートファクトリーなど、生産をいかに効率化するかが重視されてきましたが、実際のところそれだけでは不十分です。それ以前のサプライチェーン・エンジニアリングチェーンとのデジタル連携がなされることで初めて、製品開発のリードタイムを短縮することになります。これらを達成した上で、それ以外の工程ともデジタル連携していくことで更なる付加価値を高めていくことができ、それが企業価値にもつながると谷口さんは説明しました。
2. カギを握るインテグレーター
製造業でDXを実現するためには、デジタルファクトリーを構築し、それと各種企業・業務の連携によって、全体最適化された工場づくりが求められます。
デジタルファクトリーの中でのシミュレーションに基づいて未来予測を作り、そこで得られた最適な生産データをリアルに還元することで、リアル工場でも本当に効率の良い生産ができます。そして、リアルで得られたデータをデジタル上に反映し、よりシミュレーションの精度を向上するといった循環を、谷口さんは「デジタルファクトリーの真髄」と表現します。
しかし、デジタルファクトリー構築に必要な能力も、登場するプレイヤーも多く、鍵を握るSIerにも各社得意分野・苦手分野が存在するという課題があります。そこで、1社で出来なければチームになればよいという発想から生まれたのが、様々な分野のトップSIerを集めたTeam Cross FAです。
3. Team Cross FAが考えるスマートファクトリー
谷口さんによると、スマートファクトリーの構築に必要な要素は、大きく以下の5つがあります。
①市場にあわせたアジリティの高い生産ライン
②マスカスタマイズの実現(量産とカスタマイズができる統合ライン)
③国内・海外工場のリソース最適化
④変化に対応できるフレキシブルな生産ライン
⑤エコシステムが構築可能なプラットフォーム
前述のとおり、世の中の不確実性が高く、業界としての課題も多い現状を打破するためには、デジタルファクトリーを構築して生産効率を上げるだけでなく、それ以外の各企業・業務とのデジタル連携を進めることが必須です。しかし、一社だけで推進できることに限界があるのもまた事実です。Team Cross FAのような取り組みは、今まさに「DXといっても何から始めればよいか分からない」という製造分野の企業にとって大きなヒントとなるのではないでしょうか。
物流分野「物流DX」
最後に、株式会社souco代表の中原久根人さんに、物流全体の将来像と、今進みつつある物流におけるDXについて伺いました。
1. 物流市場の将来像
物流業界は今、少子化や労働時間の規制等の影響を受け、全業種中でも3位と言われるほど人手不足が叫ばれています。一方でそうした現状を踏まえ、技術の進展や新たなサービス開発によって、ロジスティクスの自動化、省人化、倉庫の稼働率改善など更なる倉庫の効率化が進み、さらにデータが繋がることで物流MaaS(Mobility as a Service)の実現も視野に入る「Logistics4.0」というステージに移行しつつあります。
物流MaaSでは、荷主運送事業者・車両の物流・商流データ連携と部分的な物流機能の自動化の合わせ技で、最適物流の実現を目指すことになります。中原さんは物流市場の展望について「物流の最適化が進むことで、サプライチェーンそのものがサプライウェブへ、つまり固定的な取引関係から柔軟な取引関係が構築されることになる」と言います。
2. 今進む物流におけるDXとは
中原さんによると、そもそもDXとは、業務プロセスのデジタル化を目指す「デジタイゼーション」と、事業の在り方・収益構造自体をデジタル化する「デジタライゼーション」に大別されます。
そして中原さんが考える取り組みの順番としては、前者のデジタイゼーションが先だと言います。
現行の物流業界の業務は伝票・帳票類にまつわるものが多く、受付から日常業務まで紙ベースでの管理がされているため、煩雑になってしまっています。そこで帳票系ソリューションの開発・提案が実施されていますが、それはあくまで、後者のデジタライゼーションにあたり、帳票のデジタル化だけでは不十分だと中原さんは強調しました。
つまり、デジタルのためのインフラ整備が行われるのも重要ですが、その前段階において、デジタイゼーション=業務自体が標準化されている必要があるということです。
そのデジタイゼーションを阻むデジタル以前の3つの壁として、以下が挙げられます。
①高いカスタマイズと低い標準化率(パレット物流比率が先進国最低クラス)
②稼働を平準化できていないため、投資対効果を見極めることもできない
③企業間で情報が共有できるインフラが整っていない
これらの壁を壊すため、標準化・デジタル化・ネットワーク化のそれぞれに取り組む必要があるのが現状だということです。
3. 物流業界のイノベーションに欠かせない標準化
「20世紀最大の発明」には様々な意見がありますが、中原さんはそれがコンテナだと考えています。かつて荷姿が多様なものを人が港に運び入れていた役割を、今ではコンテナが担うようになり、世界中の港がコンテナに対応しています。コンテナが起こした革命はコストの面で特に大きな結果が出ており、それが、デジタルが無くてもできているという点も考慮すべきところです。
したがって、中原さんは、物流の課題解決に標準化から取り組むことを重視しています。
①まず標準化する領域を定義し、②その領域をデータとして可視化、③そのデータをシェアすることでメリットを示し、④インフラとしてネットワークを拡大する、という4つの工程を循環させることで、標準化できる領域をブレイクダウンしていくことができると考えています。
最後に、フィジカルインターネットという考え方についてもご解説いただきました。
インターネットが無数のサーバーを利用してデータを最適ルートで送信する仕組みを現実の世界に置き換えた「フィジカルインターネット」という考え方を応用し、物流のネットワークにおいても出荷拠点を自由に組み替えることで物流ルートの最適化が可能になると考えられます。
全国の倉庫をネットワーク化していつでもどこでも使えるという状況を作り出すこと、そしてその中で執り行われる業務・取り扱われる貨物の標準化を推し進めることによって、物流業界のコストとリソースの問題も解決できるはずです。
「最適な場所から、例えば最適な空きスペースのあるトラックが貨物を載せていくということができれば、無理にコストをかけてリソースを増やすことなく、物流業界を支えることができるようなインパクトをもたらすことができるのではないかと考えています」という言葉で、中原さんの講演は締めくくられました。
DXといってもその定義は様々であり、分野や企業によって必要なアジェンダは異なります。今回のセミナーが、自社に必要な取り組みが何かを見つける一助になりましたら幸いです。
ブラザー販売 ビジネスNAVI 編集部
ブラザー販売、ビジネスNAVI担当者です。ビジネスNAVI編集者として、トレンドコラムやお客様の導入事例、パートナー企業、製品のソリューション情報などを発信していきます。