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趣味 【かわいいフォントが作られる裏側に迫る!】フロップデザイン・加藤さんインタビュー

文章の印象を大きく変える「フォント」。直線を組み合わせたようなものから手書き文字のように見えるものまで、たくさんの種類のフォントが私たちの周りには存在しています。

それぞれが独自の個性をまとうフォントたちは、どのような発想から生まれ、作られているのでしょうか。

今回は、かわいらしく個性的なフォントを多く生み出してきた、フロップデザイン・加藤雅士さんに、フォントデザインの発想から制作の過程、さらにはフォントの魅力をお聞きしました!



今回ご協力いただいた方

俳句を詠むように、瞬間の気持ちをフォントにこめる

▲これまでに加藤さんが制作したフォントの一部。独自のフォント名、イラスト、フォントによって構築されるどこか幻想的な世界観が多くのファンを魅了している。

―加藤さんの作るフォントは、自由な発想から生み出されている印象を受けます。フォントデザインのアイデアはどのように思いつかれるのですか?

加藤さん: 普段の生活の中で、出かけたり、家事をしたりする中でふと浮かんでくることが多いです。僕の場合、例えば「歴史小説の本文に合うフォントを作る」とコンセプトを決め、それに沿って文字を作ることはほとんどありません。日々生きている中での何気ない気づきや、自分の中ではやっていることに着想を得てフォントを作っています。瞬間瞬間の気持ちを形にするという意味では、俳句を詠むことに近いかもしれませんね。

―フォントづくりを俳句を詠むことに例えるのは斬新ですね。思い浮かんだアイデアはデザインにどのように反映されているのか教えてください。

ねこかぶり

加藤さん: 「ねこかぶり」は三角形を使って描いた線が多くあります。角を丸くしたので分かりづらいかもしれませんが、「い」「に」などの撥ねている部分がそれです。その形が猫の耳に見えるなあ、と思って「ねこかぶり」という名前にしました。僕の場合、フォントを作るときに自分の中でつける名前と、完成した後につける名前は違うことが多いですね。

※上記画像の「」はうつくし明朝、句読点はなきむしポルカで代替しました。

なきむしポルカ

加藤さん: ホラー、サスペンス系の映画や書籍に使われる怖い雰囲気のフォントをかわいらしい方向に持っていくことを目標に作りました。濁点や「い」の二画目が、涙の形に見えるようになっています。今までにないものを作る、というのもフォント作りの楽しみの一つです。

※上記画像の「」はうつくし明朝で代替しました。

ひこね本丸ゴシック

加藤さん: 本丸シリーズは、日本各地のお城をイメージして作ったフォントです。「ひこね本丸ゴシック」は、なかなか本丸にたどり着けない彦根城の複雑な作りと、一筆書きでフォントを作りたいという思いが組み合わさってできました。迷路を意識した線のデザインが特徴です。

―制作の上で、特にこだわりを持っていらっしゃる部分はどこですか?

加藤さん: ひらがなです。日本語の文章では、ひらがなが一番目立つのでフォントデザインの中心になります。僕の場合、フォントのデザインを思いついたときに、頭の中に浮かんでいるのもひらがなですね。

個人的には、日本独自の文字であることと、造形がかわいらしいところがお気に入り。フォント制作は、デザインしたひらがなを自分で好きになれるか考えながら作業しています。

―日本語のフォントは、ひらがな、カタカナだけでもそれぞれ50文字。漢字を加えるとなると、さらに膨大な文字を作る必要があります。多数の文字に統一感を持たせるのは難しくありませんか?

加藤さん: アイデアを思いついた時点で、頭の中にフォントの完成形が8割方できているのでそんなに困ることはないです。

フォントを作り始める際、鉛筆でラフを書いてコンセプトがデザインとして実現できるのか、確認する人も多いのですが、僕の場合は最初から本番を書きます。

いきなり本番の字を書いても特に行き詰まることなく完成させられるのは、キャリアがフォントデザイン一筋ではないからかもしれません。実は、僕は家具のプロダクトデザイナーからキャリアを始めています。イラストレーターとしても活動しているし、フォント以外のものづくりの経験が制作に生きているのではないでしょうか。

どれだけ時間をかけてもフォントが「完成」することはない

▲モニターいっぱいに映し出される加藤さんが制作したフォント。写真は、一度デザインした文字に細かい修正を反映させている場面。

―1つのフォントを作るのに、どれぐらいの時間がかかっているのでしょうか?

加藤さん: ひらがな、カタカナのみのフォントの場合は、制作開始から完成まで1ヵ月で作ると決めています。最初の2週間でデザインを終えたら、後の2週間は調整の期間です。

漢字を含むフォントの場合は、漢字の制作だけで2年以上費やします。ひこね本丸ゴシックに入っている漢字は4000字なのですが、どんなに忙しい日でも1日に25~50文字作っていました。1日でも文字を作ることから離れてしまうと、再開した時に感覚を取り戻すのに時間がかかってしまうんです。

フォント会社が書体を作る場合は、もう少し長いスパンで作られています。大勢で長い時間をかけてデザインして、調整することが多い。僕は一人でできる範囲で作っていて、それと比べると制作期間は短い方です。

―調整とはどのような作業をするのですか?

加藤さん: 文字を文章として並べたときに、おかしい部分や見た目の悪い部分がないかを確認・修正していく作業です。フォントは単体の文字では問題がなくても、他の文字と並べたときに違和感が生まれることがあります。

小冊子が作れるぐらいの分量の文章を画面いっぱいに打ち込んで、ひたすら修正。制作期間の半分から1/3は調整に使っています。

▲小さい文字で長い文章を書いても、見た目が崩れないのはデザイナーさんが時間をかけて調整を行っているから。
使用フォント:うつくし明朝

―「完成した」と判断する基準を教えてください。

加藤さん: 本当の意味で「納得のいくフォントが完成」することはないですね。どれだけ調整しても気になる部分は出てくるし、途中ですべての文字を作り直したくなることもあります。過去に作ったフォントも今見ると「もっとこうすればよかったな」と思うことばかり。

フォントを作る作業は本当にキリがないから、「1ヵ月で終わらせる」と時間を区切ってその中で最大限できることをやっていくのです。

※見出し1、見出し2で紹介した画像に、『星の王子さま』(岩波少年文庫 訳・内藤濯)の本文を引用した。

僕にとってフォントはホームセンターで売られている湯飲みと同じ

▲加藤さんがこれまでに制作したフォントは、本のタイトルに使用されたり、掲載されたりしている。

―フォントを作り続けて20年。フォントのどこに魅力を感じていますか?

加藤さん: 日常の生活に溶け込んでいるところです。僕は、フォントとホームセンターで売られている湯飲みは同じだと思っています。

ホームセンターで売られている湯飲みが、給湯室に置かれていても、そのデザインを気にする人はあまりいませんよね。でも、みんな毎日当たり前のように湯飲みを使っている。

フォントも同じです。フォントの違いを意識したり、形を見ただけで名前を言えたりする人は少ない。でも、みんな毎日仕事の資料やメールでたくさんの字を目にしています。意識されないけれど、直接的に人の役に立っているところが好きです。

これは、大学でプロダクトデザインを学んだ時に「人の役に立つものを作れ」と恩師に言われたことが、今でも、ものづくりの土台になっているからだと思います。

▲コンビニに売られている商品パッケージにも、加藤さんの作ったフォントが。

それから、湯飲みもフォントも、20~30年同じデザインがずっと使われていることが多い。物としての寿命が長いんです。

大きなデザイン会社が、明治時代に作られたフォントを復刻してリリースしていることもあるくらい、昔デザインされたものがいまも愛されています。

僕の作るフォントはそういったタイプのものではないかもしれないけど、寿命の長さや後世に残るところに魅力を感じます。

―今後の活動について教えてください

加藤さん: 小説の本文に使われる「本文体」を今作っているフォントが完成したら制作したいです。

ラノベ、恋愛小説、サスペンス…ジャンルによって本文のフォントが違ったら面白いと思うんです。「基本は明朝体」という縛りを大切にしながら、ジャンルの色をデザインで出していけたらいいな、と。

何より、僕はフォント制作以上に、1人でも多くの人にフォントの楽しさを知ってもらう活動を大切にしています。これまで、フォント擬人化コンテスト、たった5文字のフォントコンテストなど、フォントを身近に感じてもらえる参加型の企画「フォント祭 *外部サイトにリンクします」を毎年行ってきました。

これからもずっと活動を続けて、最終的に1億人ぐらいの人にフォントの楽しさを伝えたいです。

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