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趣味

「刺しゅうは素材やデータによってこだわることができる場所がとても多い」
140万円の業務用刺しゅうミシンを購入された“たろきち”さんインタビュー

140万円の業務用刺しゅうミシンを購入された“たろきち”さんインタビュー

2022年9月、Twitterに投稿された漫画が大きな注目を集めました。

140万円の業務用刺しゅうミシンという大きな買い物に至るまでの葛藤についてユーモアを交えて描いたのは、Twitterユーザーのたろきちさん。半年もの間悩みながら、手にした業務用刺しゅうミシンではどのような作品を作られているのでしょうか。

今回、クラフト日和ではミシンを購入した背景とともに、実際に制作された作品についてインタビューを行いました。

たろきちさん
たろきちさん

きっかけはオリジナルアイテムの制作だった

─ たろきちさんが業務用の刺しゅうミシンを知ったきっかけや興味を持ったきっかけをお聞かせください。

たろきちさん: もともと僕は同人イベントで自分の絵柄をつかったアイテムを、印刷所さんに外注して販売していました。刺しゅうの服も作っていたのですが、外注だと糸の密度や風合いといった、細かなところにこだわることが難しいと感じていました。

「このままでは自分で満足できるものはずっと作れないかもしれない」とも思い始めていました。そこで、家でできて、自分の理想の可愛いものを作り出せる方法を考えていったところ、だんだんと刺しゅうミシンに近づいていきました。

─ 最初はご自身のデザインでのアイテム作成がきっかけだったのですね。

たろきちさん: ブラザー販売株式会社から発売されている、衣類に直接インクを塗布して印刷するガーメントプリンターも最初は検討していたのですが、刺しゅうならではの温かみや可愛らしさが好きだったこともあって、「刺しゅうミシンを買っていろいろと作ってみよう」という結論にいたりました。

─ 刺しゅうミシンは一般的な家庭用のものもありますが、最初から業務用を選ばれた理由はあったのでしょうか。

たろきちさん: 僕が以前外注して作っていた服も、これまで多くの方に買っていただきましたが、もっと作品を愛していただくために、そもそもの商品数を増やすこと、ひとつひとつの商品のクオリティを高めることが課題としてありました。

もともと僕がミシンに慣れていれば家庭用刺しゅうミシンでも対応できたかもしれませんが、「いっそ業務用刺しゅうミシンに全て任せてしまうのもありなのではないか」と思ったんです。

─ たしかに、プロも使う業務用刺しゅうミシンであれば、満足いく作品もできそうですね。

たろきちさん: それから実際に店舗で業務用刺しゅうミシンを触ったり、説明を聞いていくうちに、「まずは家庭用で練習するよりも、最初から業務用で作っていった方が効率も良いし、求めているものもできるのではないか」と業務用に気持ちが向かっていったっていうのはありますね。

─ 家庭用刺しゅうミシンと比較して、業務用刺しゅうミシンの良さはどんなところに感じましたか。

たろきちさん: 購入した業務用刺しゅうミシンの特徴のひとつとして、刺しゅう糸を10色までストックしておいて、自動で糸を切り替えてくれる機能があるのですが、その機能が家庭用と比較して大きかったです。

やはりひとつの絵柄で色を使えば使うほど、糸を変える手間は増えていきますし、ミシンの性能で僕が作りたい絵柄や作りたいものに制約がかかってしまうとしたら、それは本末転倒だとも思いました。

─ SNSでは早速刺しゅうされている様子も紹介されていました。

たろきちさん: 糸を10色ストックしておけることで、どの糸がいいか色選びのテストもすぐできるのでとても満足しています。

刺しゅうは奥が深く、難しい

─ 業務用刺しゅうミシンを購入するにあたり、たろきちさんがTwitterに投稿された漫画では、丸半年悩んだとありました。それでも140万という大きな買い物に至るまでをあらためてお聞かせいただいてもいいでしょうか。

たろきちさん: 業務用刺しゅうミシンでの140万円という買い物は、僕のこれまでの人生で最も大きいものでした。

Twitterの漫画では、「今しかいろいろとチャレンジできない」「年齢を重ねていくにつれて、大きな決断は難しくなっていくのでは」と考えた中で、「これだけやりたいことがしっかりあるから、買って後悔はないようにしていきたいな」と気持ちの面について書きました。

漫画で書けなかった部分として、業務用刺しゅうミシンを見せていただいて、購入までさせていただいた実店舗の「ミシンのフジモト」さんがとても丁寧な対応をしてくださったのも大きな理由ですね。

─ 大きな買い物だからこそ、実店舗との出会いは大事ですね。

たろきちさん: 欲しいとずっと思い続けても、140万のものをいきなり買って「使いこなせないかもしれない」「体当たりで勉強していけるのかな」という不安はありましたが、ミシンのフジモトさんで機能や使い方の説明を受けていくなかで、「本当に素人なんですけれども、わからないことが出てきたら質問できますか」と聞いたら「なんでも聞いてください」とお答えいただけたり、親身になって相談に乗っていただけて、雰囲気や人柄に背中を押してもらったところもあるかもしれません。ミシンを買った後もトラブルが発生した際は自宅まで来ていただいているほか、難易度の高い刺しゅうに取り組む際も、相談させていただいているので本当に助かっています。

─ 業務用刺しゅうミシンを手にされて、本格的に制作に入られてから刺しゅうに対するイメージは変わりましたか。

たろきちさん: あらためて刺しゅうは奥が深く、難しさを感じています。

紙に印刷するプリンターと違い、ミシンは生地に糸を刺しゅうしていく際、わずかに生地の伸び縮みが発生していることを知りました。データ上ではきれいにできていても、布の特性で絵柄が歪んでしまうことも珍しくありません。ミシンを実際に触るまで、僕は「データを作って、ミシンの使い方を勉強していけば仕上がるだろう」と思っていました。しかし、布の特性を踏まえたデータの作り方からやっていかなければならないのは、大きなギャップでしたね。

─ 苦戦されながらも、使っていくうちに「これはいいな」と感じたミシンの機能はあるのでしょうか。

たろきちさん: 糸替えの頻度が少なくて済むところのほか、内蔵のカメラで生地を撮影し、それをもとに刺しゅうする位置を細かく調整できる機能、渡り糸が自動でカットできる機能のように、使っていくうちに細やかなところでたくさん良い機能があることを知って、「だからこそこの値段になっているんだ」と納得しました。

─ SNSでは、試行錯誤しながらも楽しみながらミシンを使っている印象を受けました。

たろきちさん: ミシンを使っていくなかで、布の伸び縮みや、糸の密度をはじめとする細かい条件、数値を考えながら何パターンも作って、どのデータが自分の求めている形で出力できるか試行錯誤しています。苦労する分、完成したときの喜びも大きかったです。

苦戦しながらも挑戦を続けた作品たち

─ 実際に作品をご紹介いただけますでしょうか。

たろきちさんの作品「HETAKUSO BEER」

たろきちさん: これは好評をいただいている「ほとんど泡になってしまっている」ビールの絵柄です。シンプルな絵柄なので簡単にできるのではないかと思っていましたが、細かい部分でずれてしまったり、イメージ通りの風合いにならなかったり、かなり苦戦していました。

こちらは色ごとに糸の密度や縫い方をいじってあって、中央は細かく、外は広くて密度も粗めにしています。

そういったところで全体の雰囲気か出るように調整したのと、使う糸もこだわって選んでいます。

HETAKUSO BEERの文字部分の糸ですが、オレンジの中に白や黄色も入った混色になっていて、これを使うことで、可愛いくて柔らかな雰囲気が加えられました。

─ 刺しゅう糸ひとつで、微妙な風合いも加えられるのですね。

たろきちさん: 使う刺しゅう糸ひとつで完成品が見せてくれる顔が変わるので、こだわることができる場所がとても多いと驚きました。単色の刺しゅう糸同士を組み合わせるだけでは、出せない細やかな色の変化や雰囲気を出してくれます。

─ 糸のほか、生地自体もこだわりはありますか。

たろきちさん: ミシンで実際に刺しゅうするなかで、生地選びもすごく大事だと気づいたため、二次加工可能な服をさまざまな卸し業者さんから取り寄せて自分で試着したうえで、着心地がよかったものを選んでいます。

─ 完成品はシンプルに見えても、刺しゅうのデザインだけでなく素材選びにも時間をかけられているのですね。

たろきちさんの作品「HETAKUSO MAHJONG」

たろきちさん: こちらは麻雀の絵柄をテーマにしたトレーナーです。一盃口(イーペーコー)という麻雀の役になっていそうでなっていないという小ネタも含んだ、可愛いデザインにしています。

先ほどのビールと同時並行で製作していたのですが、これも四角形に丸を刺しゅうすることがシンプルなようでいて、結構苦戦しました。

また、刺しゅう糸の色選びにも頭を悩ませました。たとえばこちらのトレーナーはケリーグリーンという色なのですが、この緑色に1番合う色を探すのにかなり試作を重ねました。

完成した服を着てもらう場面をイメージしながら、今後もひとつひとつにこだわっていきたいなと思っています。

─ 本当にこだわって制作をされていることが、お話を聞いていてもうかがえます。

たろきちさん: ゆくゆくは自分の描いた漫画をそのまま刺しゅうしたものも作ってみたいのですが、試作した結果、糸の処理が細かくなりすぎてしまって、着心地が悪くなることがわかりました。トレーナーはインナーを着れば解決できても、生地が直接肌に触れるTシャツはどうしても着心地が気になってしまいます。

そうなると漫画をそのまま使ったような複雑な絵柄は難しいですし、生地や糸も含め、取り組む課題はまだまだあると感じました。

─ 服以外にも、ミシンで作ってみたものはあるのでしょうか。

ぬいぐるみのパーツも刺しゅうミシンで作成できる

たろきちさん: ミシンを購入した後の発見としては、ぬいぐるみのパーツを作ることができたのは驚きでした。つい最近、「ぬいぐるみのパーツの一部はミシンでも作れるな。試してみよう」と気がついて挑戦したら、まさしく思い描いていたようなものが作れました。こんな形でも役立ってくれるとは思ってなかったので、ぬいぐるみ作りにも今後活かしていきたいなとは思いますね。

─ 今後、作ってみたい作品や展望はありますか。

たろきちさん: 自分が本当にかわいいと思う絵柄を刺しゅうするため、納得のいく刺しゅうデータを作っていくのは今後も続けていきたいです。また、服以外でも小物類の制作にもチャレンジしてみたいです。

業務用刺しゅうミシンを買ったとはいえ、僕が素材を仕入れて制作している以上、どうしても生産に手間はかかってしまうのですが、だからこそ1つ1つ丁寧に、引き続き作っていきたいです。

取材を終えて

オリジナルの作品作りに挑まれているたろきちさん

140万円という、とても大きい買い物として手に入れられた業務用刺しゅうミシンで、苦戦しながらもオリジナルの作品作りに挑まれているたろきちさん。買う前は知ることのなかった、刺しゅうや素材選びの奥深さを興味深く語っていただきました。

また、Twitterでの漫画をきっかけに、たろきちさんに背中を押される形で新たな挑戦に向け大きな買い物をして新しい物事に挑まれた方も多かったというお話もありました。迷っている方も、一歩踏み出してみることで新たな世界を知ることができるのかもしれません。