水素エネルギー活用促進に向けた柱上パイプラインによる輸送実証事業
福島県浪江町
事例の概要
エコでクリーンな水素エネルギー、安心・安全・低コストに使うことはできないか?
東京電力 福島第一原発事故の被災地となった福島県浪江町では、地上高約5mに敷設したパイプで水素を送る実証事業*が行われました。
令和2年度は、浪江町から「浪江町水素エネルギー活用促進に向けた柱上パイプラインによる輸送実証事業」をブラザー工業、横浜国立大学、巴商会の3者による共同企業体として受託しました。これは、令和2年度第1回「エネルギー構造高度化・転換理解促進事業」[経済産業省補助事業]の1つです。
本実証事業では、水素は空気よりはるかに軽く、大気中に放出されたとしてもすぐに上空に拡散するという気体特性を活かし、水素輸送の柱上パイプライン化により、安全で持続可能な地産地消エネルギーとして、水素のオンサイト利用のための輸送方法の実現を目指しました。
また、基本性能実証とあわせてリスクアセスメントおよび法的な観点からも基本的課題・解決策を検討し、提案を行ないました。
引きつづき、浪江町に建設された福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)で作られた水素を町内の産業団地の燃料電池に柱上パイプライン経由で送って活用する水素の地産地消を目指して参ります。
参画メンバー
参画メンバーとそれぞれの役割は、次のとおりです。
ブラザー工業(株)
燃料電池の提供、水素利用の専門家。基本評価の立案と実証実験を実行しました。
(株)巴商会
ガスの専門家。水素ガス配管に関連する設計施行、安全対策、実証実験を実行しました。
国立大学法人横浜国立大学
安全性評価の専門家。評価の立案と実証実験の実行、安全対策の策定を行ないました。
実証事業の概要
水素柱上パイプラインは、コンクリート柱に吊り線(メッセンジャー)を張り、水素のパイプラインを添わせて、ラッシングロッドと呼ばれるラセン状のワイヤーでメッセンジャーとパイプラインを一体化して敷設します。パイプラインは、SUS316Lのステンレスフレキシブル管にエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)を熱収縮被覆したものです。
電柱のように一定間隔で建てた柱に電線のようなパイプラインをつなげて低圧の水素を送る。安全を確立した上で、安価かつ効率的に水素の供給が行える環境を構築することで、水素社会の経済合理性と安全性の両立をはかります。
実証事業のプロセスと結果
令和2年度に行なった実証事業では、次のプロセスに則って行われました。
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1.
基本性能の検証
水素運搬手段として柱上パイプラインの性能を測ります。パイプラインの内径・全長・水素圧力を変化させ、水素ボンベ・燃料送り側と燃料電池・負荷側の挙動や 追従性を検証しました。
フレキシブルチューブのサイズ(mm)口径 内径 ピッチ 8A Φ7.9 4.2 10A Φ10.7 5.0 15A Φ12.5 5.2 20A Φ19.7 6.4 -
2.
安心・安全、経済合理性の検証
水素柱上パイプラインの敷設コストは埋設パイプラインの敷設コストの1/10以下と期待できます。通常の運転時に加え、自然災害やメンテナンス作業などに基づく事故シナリオを想定し、それに基づくリスクアセスメントにより、水素柱上パイプラインのリスクを把握し、その安全性を検討しました。 -
3.
法規制等の整理
関係する行政機関・団体等へヒアリングを実施したところ、水素柱上パイプラインについては国内における事例が無いことから、水素を柱上パイプラインで輸送するための実証実験に支障となる現行法はありませんでした。一方、多くの懸案事項があるため、今回の実証事業のリスクアセスメントと技術結果を基に水素柱上パイプラインの実用化に向けた法整備への提言を行い、浪江町発の安全で安価な水素の供給方法が法律として制定され保護されることを目指していきます。 -
4.
活用モデルの検討
浪江町では、棚塩地区にある福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)に隣接する地域に新しくRE100*産業団地の実現を構想しています。水素は、一般的に高圧ガスや液体水素にして大量に輸送されますが、水素を圧縮あるいは液化してトラックやトレーラーなどで運ぶことのコストは水素トータルコストに大きな影響を与えています。製造した水素は貯めない、圧縮しない、運ばない(3ない水素)ことが水素コストを下げる大きな要因と考えています。FH2Rで製造した水素が、水素柱上パイプラインを利用して棚塩地区に計画されているRE100産業団地に輸送し、浪江町内での3ない水素を実現することで、先進的な水素の地産地消活用モデルを目指していきます。 -
5.
本事業のまとめと令和3年度の計画
水素供給元から内径7.9mmの「まるで電線のような」360mの水素柱上パイプラインで圧力0.1MPaであっても4.4KWの燃料電池は正常動作しました。
今回の水素柱上パイプライン基本性能評価で得られた結果は、社会実装に向けた大きな第一歩と言えます。一方で、社会実装に向けて、燃料電池の設置台数の増加、災害発生・緊急時の対応、安全性の確保、課金方法など、さまざまな課題も見えてきました。
令和3年度は、これら社会実装に向けた課題解決のための実証実験を実施していきます。
*RE100とは。「企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブ」(出所:環境省ホームページ)
導入製品
72時間の長期運転が可能な高出力モデルを実現。通信基地局など、重要な社会インフラに電力を供給するモデル。
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