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趣味掲載日:2022-09-21

「紙は経年劣化の色褪せやシワも味に見えてくる」紙の造形作家、秋山美歩さんインタビュー

紙の造形作家、秋山美歩さん

今にも人懐っこく甘えてきそうな犬や悠々と大地を踏みしめて歩きそうな象といったリアルな作品や、ユーモラスなモチーフを取り入れたペーパークラフト。見る人の目を楽しませてくれるこれらの作品を創作されたのは、国内外にとらわれずに活動をされている紙の造形作家、秋山美歩さんです。

今回は、そんな秋山さんにこれまで創作された作品や、ペーパークラフトが子どもに与える影響などをインタビューしました。

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─ ペーパークラフトの制作を始められたきっかけについてお聞かせください。

秋山美歩さん(以下、秋山さん):私は芸術系の大学に進学したのですが、そこで立体を専攻していました。小規模な学部だったこともあり、制作素材や制作テーマに縛りもなく、元々好きだった紙素材で動物モチーフを存分に作ってみようとペーパーアートを始めたのがきっかけです。

精密機械を再現したペーパークラフトや、型紙をデザインするペーパークラフトは既にたくさんの作家さんが素晴らしい作品を発表されていました。そこで違う方向性を考えたときに、「大きなサイズの動物の立体を紙で作ったら面白いな」と思って最初に制作したのが、高さ1メートルぐらいのマンドリルの立体作品でした。

マンドリルの立体作品

─ とても迫力のある作品ですね。

秋山さん:動物園で見かけた、両手で体を抱え込んで小さくしゃがみこんでいるオスのマンドリルをモデルに作ったのですが、初個展でのその作品の写真が新聞に掲載され、それを見た動物園のマンドリルの飼育担当の方が「こういう作品は珍しい。動物園で展示してみないか」と声をかけて下さいました。その展示がアーティストとして初めてのお仕事です。

─ アイデアが生まれる瞬間はどのようなときなのでしょうか。

秋山さん:庭仕事や犬の散歩で外に出てリフレッシュした後に、ふと思いつくことが多いです。
「月とてんとう虫」「標本とカエル」とかあまり関係がなさそうな2つのものの組み合わせイメージがパッと浮かんで、アイデアスケッチをしながら全体像をシンプルに整えていきます。

イグアナの立体作品

─ 他の素材にない、紙の持つ質感や魅力はどこにあると思いますか。

秋山さん:紙は身近で加工しやすい素材ではありますが、その反面、制作上で色々な苦労もあります。

たとえば衝撃で折り目や凹みが生じると元に戻せませんし、長期間の展示では照明焼けや色褪せを完全に防ぐのは難しいです。

しかし大学で「紙の欠点をどうすれば解決できるか」と担当教官とお話したときに「破けず、凹まず、色褪せなかったらもうそれは紙じゃないよね。破けてこそ紙。」と言われて、ああそうだな、と。動物の作品をたくさん作るうちに、経年劣化の色褪せやシワも味に見えてくる作品も生まれたりして、紙の特性についておおらかに受け入れられるようになりました。

日焼けもするし、シワもできるし、天気の良い日はピンと張りが出てご機嫌、梅雨時はぐったり……それらは紙の欠点でも魅力でもあり、本当に生き物の皮膚を作るのにはぴったりの素材だなと思っています。

秋山さんの作品を紹介!

─ これまで制作された作品で印象に残っているものをご紹介いただけますでしょうか。

『Sting』

『Sting』

秋山さん:こちらは大学生の時に制作した初期の作品で、かつて長く飼っていたグリーンイグアナがモデルです。

─ とてもリアルで、今にも動き出しそうです。

『Sting』

秋山さん:購入希望の方が複数おられたのですが、手放せずに手元に残しています。紙作品の経年劣化も古書のように味になることがあるのだと気づかせてくれた作品です。

富士川切り絵の森美術館に収蔵された作品『Frog Polka Dot』

『Frog Polka Dot』

秋山さん:子どもと博物館で昆虫標本のコレクションを見たときに「もしこれらの昆虫が生きていたら、こんなにきれいにじっと並んでいてくれないよなあ」と思ったのが制作のきっかけです。

カエルを「ちょっと並んでね」と標本箱に並べてもすぐにモゾモゾ動いてピョンと飛び去ってしまう、その瞬間を作品にしました。富士川切り絵の森美術館に収蔵された作品です。

『ヨークシャーテリア』

『ヨークシャーテリア』

秋山さん:今年、イタリアのレザーブランドTOD‘Sのポップアップでディスプレイするために制作した作品です。写真はアトリエでの制作風景です。

大好きなブランドとのお仕事で色や大きさや毛並みも物凄く慎重に選んで集中して制作したのでとても思い入れのある作品になりました。子どもの頃に飼っていたヨークショーテリアに立ち姿がそっくりです。

─ ふわふわした毛並みがとてもかわいいですね!

『Jinbei(whale shark)』

『Jinbei(whale shark)』

秋山さん:水族館での展示のために作った2.5メートルの長さがある大型作品です。

その後デパートで化粧品売り場の天井を泳いだり、クルーズ客船にディスプレイされてロシアや香港などを旅したり……美術館での展示も2ヶ所経験しています。移動距離も展示回数もとても多い作品になりました。

コロナ後は人のたくさん集まる場所での大規模な展示、ディスプレイのお仕事が増えたら

立体造形の基本は「見立て遊び」

─ お子さまが参加されるワークショップも開催されているとのことですが、ペーパークラフトは子どもの学びにどのような効果があると思われますか。

秋山さん:紙に絵を描くことはたくさん経験している子どもが多いのですが、紙で立体を作ることにはたいてい不慣れです。紙に描いたイラストをそのまま立体にしようとして難しすぎて断念してしまう子もいます。

立体造形の基本は「見立て遊び」だと考えています。

「立体的なワニを作りましょう」というと、ほとんどの子どもたちは「出来ないよ〜どうやって作るの?」となりますが、菱形の紙を半分に折ってパクパクさせて「ワニの顔に見える形」なら誰でも簡単に出来ます。

紙を折ったり切ったりしながら「〇〇に見える形」を探して、「じゃあそれに目玉をつけてみようか」「歯をつけてみようか」という順序で制作すると初めての制作でもちゃんと楽しんで立体を作ることが出来ます。

─ そう考えると、ペーパークラフトは想像力が養われる素敵な創作ですね。

秋山さん:見立て遊びからの造形の経験を積むと、どう手を加えるとどんな形ができるかが先に頭の中で想像できるようになって、複雑な立体も生み出せるようになります。

折り紙も見立て遊びの代表的なものだと思うのですが、物を立体的に捉えて生み出す力は見立て遊びの中で楽しく育むことができるのではないでしょうか。

─ 海外での活動もされていますが、日本と海外のアートのとらえ方や楽しみ方で違いを感じる点はありますか。

秋山さん:販売中だとアナウンスしていない作品への購入のお問合せは海外からが多いです。気に入ったアートを時間や送料がかかっても手に入れたいという気持ちの強い方が多いように思いました。

またコロナ禍を経て、日本国内へのオンラインでの作品の販売も多くなりました。ここ数年でアートを購入することがより一般的になってきたように思います。

─ 今後の展望をお聞かせください。

秋山さん:国内外を問わず、「作り方が知りたい」「型紙が欲しい」というお声をたくさん頂いているので、制作工程や型紙をまとめたものを作りたいと考えています。

またコロナを乗り越えて、人のたくさん集まる場所での大規模な展示や、ディスプレイのお仕事が増えたら良いなと感じています。見てくださる方と交流できる展示をたくさんしたいです。

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取材を終えて

ワクワク感を頼りに作品を作っています

命が宿っているような、リアルな作品を数々生み出される秋山さん。

好きなモチーフについて、「蝶やカブトムシなどの昆虫やカエルなど、子どもの頃によく触れ合っていた生き物たちは作るのがとても楽しいです」「捕まえて両手のひらにそっと包んだときの感触を覚えていて、そのワクワク感を頼りに作品を作っています」とお話されていたのが印象的でした。

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