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対談:グローバル企業として次の100年を見据えて

100年に1度と言われる金融危機に見舞われた激動の2008年、ブラザーグループは創業100周年を迎えました。次の100年を見据えて、ブラザー工業社長小池利和が、国連ハビタット親善大使を務めるマリ・クリスティーヌさんをお招きして、ブラザーグループの成長とCSRについて語り合いました。

ブラザー工業株式会社 代表取締役社長 小池 利和
異文化コミュニケーター 国連ハビタット親善大使  マリ クリスティーヌさん
ブラザー工業株式会社 代表取締役社長
小池 利和
異文化コミュニケーター 国連ハビタット親善大使
マリ クリスティーヌさん

重要なのは、常に挑戦し、変化し続けること

マリ:創業100周年を迎えた2008年は世界的な景気後退で大変な年でしたね。テリーさん※1は、次の100年に向けてどのようにお考えですか?

※1:テリーとは、小池のアメリカ時代のニックネームで、いまでもグループ内では、愛着を込めてこう呼ばれている

ブラザー工業株式会社 代表取締役社長 小池 利和

小池:今回の景気後退について、私は、マネーゲームに明け暮れている人類に神様が警告を発したのではないかと思っています。メーカーには、経済を活性化させるために「新たなモノ創りに挑戦し、優れた価値を提供していくこと」が求められているのだと思います。グローバルに見ても、時代の変化に柔軟に対応し、事業を変革することで成長を続けている企業もあれば、同じものを作り続けた結果、景気後退の波にのまれ、行き詰ってしまった企業もあります。ブラザーグループも次の100年に向けて常に挑戦し、変化し続けていきたいと考えています。

私がブラザー工業に入社した1970年代は、家庭用ミシンなどの訪問販売が主力事業でした。そして1982年、私は自ら手を挙げてアメリカの販売拠点であるブラザーインターナショナルコーポレーション(U.S.A)に出向したのですが、そのころからプリンタなどの情報通信機器分野を海外で強化していこうという機運が高まり、1990年代にはレーザープリンタなども発売して海外での売上を大幅に伸ばしました。その結果、現在のブラザーグループは当時から大きく変化し、40以上の国と地域に多くの拠点を置き、海外売上比率・海外従業員比率ともに8割を超えるグローバル企業となりました。また、カラーレーザープリンタなどの情報通信機器の売上がミシンを上回って全体の7割以上を占めるまでになり、世界中で「カラーのブラザー」という企業イメージが浸透しつつあります。

マリ:日本政府は開発や生産の技術をあくまでも国内に留めようとしてきたのだと思います。それが日本企業の足かせになってしまった側面もあるようです。しかしブラザーグループは世界中に拠点を広げ、技術をグローバルスタンダードにするために挑戦してこられました。これは素晴らしいことだと思います。

小池:ありがとうございます。今後しばらくは、耐える時期――厳しい環境下でもグループとして利益が出せる体質を構築するための時期になるでしょうが、その中で、挑戦し、変化し続けることで将来への夢を育んでいきます。2008年度には、新技術「網膜走査ディスプレイ」や、電子ペーパーを使用した新製品「ブラザードキュメントビューワ」を発表するなど、「新規事業分野」において新たな変化を仕掛けました。しかし、絶対に変えてはいけないこともあります。それは“At your side.”――「お客様を第一としてすべてのステークホルダーの視点に立って活動する」という企業文化です。

“At your side.”――お客様満足を追求して

異文化コミュニケーター 国連ハビタット親善大使  マリ クリスティーヌさん

マリ:私のアメリカの家にはブラザーのファクスがあって、父がコールセンターに電話すると、すごく丁寧に教えてくださると申しておりました。

小池:ありがとうございます。実はアメリカでは1990年代に入って販売台数が急激に拡大し、それに対応するためにサービス、物流システム、ITの体制を大きく革新しました。コールセンターに電話をかけたお客様の待ち時間を短くし、1回の電話でお客様の問題に対応できるようになったのもその成果の一つです。

ブラザーグループのすべての活動の礎「ブラザーグループ グローバル憲章」では、あらゆる場面でお客様を第一に考える“At your side.”の精神で、優れた価値を創造し迅速に提供すること、そしてお客様との間に長期的な信頼関係とロイヤルティーを築くことを基本方針の一つとしています。これを実現するためにブラザー・バリュー・チェーン・マネジメントと名付けたマネジメントシステムを構築して、開発、設計、製造、サービスなどあらゆる場面でお客様に優れた価値をお届けすることに取り組んでいます。さらに、お客様満足の究極の姿「ノーコール・ノーリターン※2」を目指して、製品品質の向上に取り組むとともに、お客様自身が使用現場でトラブルを解消できるようサポート情報の改善と充実にも力を入れており、ブラザーグループでは、これらを「お客様ご迷惑率※3」低減活動と呼んでいます。この活動を継続し、「Brother」を、お客様をはじめとするすべてのステークホルダーから信頼されるブランドとして育てていきます。

※2:ノーコール・ノーリターン:お客様からのお問い合わせ、返品をゼロにすること

※3:お客様ご迷惑率:返品された製品台数/1カ月に出荷された製品台数

ビジネスパートナーとの協働

小池:お客様に優れた価値を迅速に提供するためにはビジネスパートナーの協力が欠かせません。その基本となる公平・公正な取引を続けていくことはもちろん、信頼関係を築いて相互に成長していくことが重要だと考えています。

マリ:世界的な潮流として、途上国・新興国の労働者の人権や労働安全衛生への配慮が求められていますが、ビジネスパートナーへの要請や支援は?

小池:ブラザーグループでは、グリーン調達(環境配慮)に加えて、人権・労働・安全衛生・公正取引・企業倫理・情報セキュリティー・消費者保護・社会貢献など幅広い取り組みをお取引先に要請し、その実行を支援しています。2008年度には、これらの課題について理解を深めていただくために中国、マレーシア、ベトナムで説明会や勉強会を開催しました。

従業員の多様性を尊重して

マリ:今までやってこられたいろいろな事業の基盤や技術を発展途上国に移管する中で、現地にはさまざまな人がいると思いますが、マネジメントをする上で、大切にしていることはありますか?

ブラザー工業株式会社 代表取締役社長 小池 利和

小池:コスト対応力が重視されるモノ創りにおいては、発展途上国に工場を建設し、現地の人たちに技術を伝承して、グローバルチームブラザーの一員として育っていくような形にしなければなりません。とりわけ、アジアの方々はとても優秀な方が多く、日本人よりもハングリー精神が旺盛なだけに、学ぶ力や吸収するスピードには素晴らしいものがあります。つまり、世界各地の地域特性を生かしてモノ創りを進めていく――そんなグローバルなモノ創りの仕組みをつくっていくことが重要なのです。それともう一つ重要なのが、現地のみなさんがどうしたらブラザーグループの一員としてさらに重要な役割を担っていけるのかを考えることです。また、日本流の経営スタイルをそのまま現地に持ち込むのではなく、現地のみなさんを経営の中に上手く組み込んで、ブラザーで一生懸命頑張れば、正当に評価され自らも成長できるという仕組みをつくることも重要です。

マリ:海外従業員比率が8割を超え、多様な文化的背景をもつ従業員の方々が共存していると、いろいろ難しいことがあるのではないですか?

小池:習慣や考え方は国や地域によってさまざまで、例えば、経営者との接し方も多様です。私は月に1、2回海外の拠点に出向いて各地の従業員と対話しているのですが、中国の工場で「なぜそんなに若くして社長になれたのですか?その秘訣を教えてください。」という熱の入った率直な質問をもらったことがあります。

マリ:なるほど、それは刺激になりますね。一方、多くの販売拠点のある欧米ではいかがですか?

小池:早い時期から事業を展開し、50年を越える歴史がありますので、日本人の出向者も多く、現地従業員とのふれあいの中で、自由に意見を言える地盤ができており、家族的な関係が維持できています。このように世界各地には、いろいろな文化をもつ拠点があります。お客様中心の事業をグローバルに展開するためには、グループ全体で積極的に情報共有を図って相互に協力することが必要です。そのためには、従業員一人ひとりがお互いの多様性を尊重しあうこと、そして全員が「お客様を大事に考える」という共通の精神のもとに取り組むことが大切だと考えています。

マリ:人財育成についてはいかがですか?

小池:日本の従業員については、グローバルに通用する人財を育成するために海外のグループ会社で経験を積むことを奨励しています。また、中国をはじめとするアジア各国では、マネジメントの現地化を目指して、現地人財にマネジメント能力を高めてもらうための研修を実施しています。

マリ:テリーさんはブログにも非常に力を入れていらっしゃるのですね。

小池:アメリカから帰国した当時、日本のほとんどの若い従業員は私のことを知りませんでした。ビジネスだけでなくプライベートも含めて「私はこういう考え方をしています」ということを直接伝えたいのですが、日本国内だけでもブラザーグループの従業員は約5,000名にのぼり、全員と直接ふれあうのは不可能です。そこで、ブログに週2回自分の考えていること、感じていること、経験したことなどを写真も交えて掲載することにしました。その結果、仕事上のエピソード、趣味、週末の活動、家族・友人とのふれあいなど、ほとんどすべてを公開することになってしまいました。当初は、どんな反応があるか少し不安でしたが、予想以上に好評で、今となってはやめられなくなりました。この3年半ですでに300回近く更新しています。

地球環境、地域社会への貢献

異文化コミュニケーター 国連ハビタット親善大使  マリ クリスティーヌさん

マリ:愛・地球博(2005年日本国際博覧会)のブラザーの出展ゾーンなどを拝見して、環境保全のための活動についてもいろいろと取り組んでいらっしゃることを知りました。

小池:持続的発展が可能な社会を構築するために、企業活動のあらゆる面で地球環境への配慮に積極的に取り組んでいます。優れた環境性能を備えた製品を開発することはもちろん、工場に太陽光発電システムを導入するなど生産時のCO2排出量抑制にも積極的に取り組んでいます。また、「3R(リデュース・リユース・リサイクル)」だけでなく「リフューズ※4」と「リフォーム※5」も加えた「5R」をキーワードとして廃棄物削減にも力を入れています。2008年度には、日本でプリンタの使用済みインクカートリッジを郵便局で返却できる「インクカートリッジ里帰りプロジェクト」を各プリンティング機器メーカー・販売元と共同で開始しました。今後は、CO2排出量削減の中期目標を策定し、目標達成を目指して活動を進化させていきます。

※4:リフューズ:環境負荷となるものをなるべく購入しないこと

※5:リフォーム:形を変えて別の用途に使用すること

環境社会貢献活動にも力を入れており、例えば、従業員が環境に配慮した行動をするたびにポイントをカウントし、それに応じて植林する活動などに取り組んでいます。ほかにも、中国農村部の女性を支援するために職業訓練校にミシンを寄贈するなど、地域社会のニーズに応える活動を世界各地で展開しています。

マリ:私は、愛知万博跡地の「あいち海上の森センター」の名誉センター長やCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)の広報アドバイザーも務めていますので、子どもたちのために森を残すなど、「自然の叡智」という万博の理念を継承していこうと頑張っています。

小池:次世代の人々に持続可能な地球社会を残すために、ぜひ一緒に取り組めたらいいですね。

2009年3月

ブラザー工業 代表取締役社長  小池 利和


プロフィル
1979年にブラザー工業株式会社に入社。1982年、ブラザーインターナショナルコーポレーション(U.S.A.)に出向。2000年に同社取締役社長に就任。2005年に帰国し、2007年6月からブラザー工業株式会社代表取締役社長を務める。

異文化コミュニケーター 国連ハビタット親善大使 マリ クリスティーヌさん


プロフィル
4歳まで日本で暮らし、その後ドイツ、アメリカ、イラン、タイなどの諸外国で生活。上智大学国際学部比較文化学科卒業。1994年東京工業大学大学院理工学研究科社会工学専攻修士課程修了。2000年から、発展途上国の都市に暮らす人々の居住問題などに取り組む国際連合の機関、国連ハビタット(国際連合人間居住計画)の親善大使を務める。また、「2005年日本国際博覧会(愛・地球博)」には広報プロデューサーとして参加し、現在、その跡地「あいち海上の森センター」の名誉センター長を務める。7カ国語を使いこなし、異文化理解や環境保全についての多くの著作、講演を手がける。


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